教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

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10/11 所さんの目がテン!「古代ローマ時代の方法で石けん作り」

古代ローマの製法で石けんを作る

 石けんは古くは5000年前のメソポタミアの粘土板に既に記載があるという。石けんの専門家という横浜国立大学の大矢勝教授によると、書物としては紀元1世紀の古代ローマのプリニウスが博物誌に記しているとか。その歴史豊かな石けんを古代ローマ時代と同じ製法で作ることに挑戦するという。

     
プリニウスについてはテルマエのヤマザキマリ氏がコミック連載中

 今回この体験に挑戦したのはかつて体当たり企画をさせられた石田剛太氏(実験プレゼンターの1人である酒井善史氏の劇団の先輩らしい)。大矢先生によるとかなり大量の木の灰を用意する必要があるので都会では難しいとのことなので、かがくの里で実験を実施することにする。

 

大量の灰を作るのに大苦戦

 まずは灰の用意。大矢先生のレシピでは2.5キロのブナ科の木の灰が必要とのことなので、まずは山に入ってブナ科の木を探すことから。ここでの助っ人は科学の里御用達の林業家西野氏。西野氏の案内で森に入った石田氏が間伐されたブナ科の木などを探していく。その結果、里と山を三往復して30キロほどの薪を集める。

 さらには再び山で今度は石を集め、それに田んぼからとった粘土を貼り付けて竃を作成。ここで先ほどの薪を燃やすことになる。しかし夏の日中の炭作りはかなり暑いという。火を燃やしながら石田氏はひたすら薪割り。燃やしているシラカシはゆっくり燃えるということで薪ストーブの燃料として人気の木なのだという。とにかく密度が高くて広葉樹トップクラスの比重で杉やヒノキの2倍重いという(それだけ灰も取れるということだろう)。結局は初日に日が暮れても集めた薪をすべて燃やすことは出来ずにタイムアップ。

 翌日、昨日の燃えかすをふるいにかけて灰の量を量ったところ150グラム。目標まではかなり遠い。これらの灰は木に含まれる金属類であり、これが鹸化に重要なのである。この後も薪が減れば山に行って薪拾い、そしてひたすら薪割りをしては灰作り。結局は100キロぐらいの薪を拾い、科学の里で拾える薪は拾い尽くしたという。結局はさらに翌日に量ったところ灰の量は1113グラムと目標の半分以下。しかしもう材料がないのでこの量で実験を進めることに。

 

灰に獣脂を加える

 次はこの灰を水で煮込んでアクを取る。このアクとは灰を水に入れた上澄みのアルカリ性の液体のこと。これを布でこしとる。そこに動物の脂500グラムを加えるとのこと。これには里の近くで取れたイノシシの脂を使用。さらに灰の量が予定よりも少なかったので、脂の量もそれに合わせる。この脂を火で溶かしてカスをこして液体としてとる。そして先ほどのアクを煮立たせてそこに脂を加える。ここで一番要である鹸化反応が起こるのだが、実際に石けんの匂いがしてきたと石田氏は言っている。しかしここで作った石けんはいくら煮ても固まる気配はない。そこで液体のままで終了。実際に石けんになっているかは手に付けた口紅を落とせるかでテストしたが、見事に洗浄力があり実験成功である。

 なお大矢先生によると、植物の灰と動物の脂で作った石けんは液体にしかならないとのこと。固形にするにはさらに消石灰や食塩や水酸化ナトリウムなどが必要とのこと。なおこの石けんは「泡立たない」と言っていたが、それは不純物が多いためらしい。


 以上、石けんを実際に古代製法で作ってみましたというお話。なお番組では登場していないが、石けんの発祥については火で獣肉を焼いていた時に落ちた脂と灰で自然に石けんが生成し、それが洗浄力を持つことに気がついたことからだと言われている。まあこういう偶然でもないと、なかなか灰と脂から洗剤を作るという発想にはいかないだろう。

 

忙しい方のための今回の要点

・番組では古代の製法で石けん作りに挑戦。
・ブナ木の木を集めて灰を作り、その灰を水に溶いてアルカリ性の上澄み液を取り、それを加熱しながら獣脂を加えることで石けんを生成している。
・ただし思っていた以上に灰を作るのに大量の木材が必要であり、番組では科学の里周辺の薪を取り尽くしたので、最初の予定よりスケールを落として実験を続けている。
・見事に石けん作りには成功したが、この方法で出来るのは液体の石けんであり、これを固形にするにはさらに消石灰、食塩、水酸化ナトリウムなどが必要とのこと。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・石けん一つ作るだけでも大変なことです。それにしても番組スタッフも、100キロ以上の薪を使っても1キロ程度の灰しか出来ないというのは計算外だったんでしょうね。灰になればどれだけ質量が減るかということです。
・そう言えば江戸時代には竃の灰まで集める仕事があったらしいが、集めた灰はアルカリ肥料になっていたと聞きます。明治まで日本では石けんは使用されていなかったみたいです。だからアメリカに行った日本使節が石けんのことを知らなくて、お菓子だと思ったという話がある。

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