教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

10/8 BSプレミアム ヒューマニエンス「"聴覚"世界をつかむ精緻な進化」

高度な聴覚の処理システム

 人間の身体機能について科学的に説明していこうという番組の第1回。今回のテーマは聴覚である。聴覚に含まれる繊細なメカニズムについて解説。

 人間の聴覚というのは実に繊細なものである。番組ではヤマハの調律師に取材しているが、彼らは実に細かい音色の違いを聞き分けて、ピアニストの要望に応じて調整を行う。実際に音がどう変わったかを流していたが、番組司会の織田裕二は「スタジオの音響システムが良いのかよく分かる」と言っていたが、私の使用しているシステムと私の腐りかけの耳では違いは全く分からなかった。なおゲストは佐渡裕氏であるが、さすがにこの辺りは明瞭に違いが分かるようだ。なおこのような聞き分けは耳の機能と言うよりも、脳での音の処理能力に起因しており、これは訓練によって鍛えることの出来るものだという。件の調律師もやはり長年の経験で体得したものらしい。

 音を知覚するシステムだが、まず耳から入った音波が鼓膜を揺らし、その振動は耳小骨を経由して蝸牛に届く、音の信号を電気信号に変えるのは蝸牛の働きである。この電気信号を脳が処理することで音として認識されるのだという。

 

音の方向認識が耳の形で変わる

 また聴覚において重要なものの一つは音の方向を感知すること。野生の動物ではこの能力を捕食や逆に捕食者から逃亡するのに使用している。人間も音の方向をかなり正確に認識できる能力を有しており、実際に周囲にスピーカーを配してどのスピーカーから音が出ているかを判別するというテストを行っているが、実験では90%以上の正答率(織田裕二が体験したら100%正解だった)となる。しかしここで面白いのが外耳に粘土などをつけて形を変えての実験。途端に正答率が劇的に落ちる。特に前と後の判別が滅茶苦茶になっている。

 人間は外耳に反射して聞こえる音のパターンを学習することによってその音が前から来るか後ろから来るかを判別しているのだという。だから外耳の形が変わると反射のパターンが変わって判別不能になったのだという。これもしばらくしていたら学習で対応するらしいが、1ヶ月半ぐらいはかかるとのこと。

 可聴音域は動物によって異なる。人間は音域としては狭いがその範囲を敏感に聞き取るようになっているという。スマトラ地震の時に像が津波を予測したと言われているが、これは像が津波が接近してくることによって生じる超低周波を足などを通して聞いたからではないかとされている。また超低周波を使用して遠くの仲間と連絡をとっているという。一方小さな動物は近くにまでしか届かない高周波で、遠くの敵に悟られないように仲間に伝えるのだという。人間の耳は20~20000Hzの音が聞こえると言われるが、特に敏感なのは200~4000Hzの範囲であり、これは声の音域である。つまりは人間の聴覚は声を聞き分けるために進化したわけである。

 

フランスの赤ん坊はフランス語で泣く?

 音を聞く上で欠かせないのが「踊る細胞」こと蝸牛内の有毛細胞。ここが音の信号を電気に変えて脳に伝えている。この有毛細胞は調整機能を持っており、小さな音を増幅する効果などもあるのだという。さらにはカクテルパーティー効果と言われる、喧しい場所でも特定の人の声だけが聞こえるという効果も起こすのだという。脳からの司令によって特定の人の音声だけを増幅するということがなされるのだという。番組の実験では、5人が同時に喋っている音声を流して聞き取れるかということを行っている。当然ながら聖徳太子でもない我々は何を言ってるのかサッパリ。しかしその後にその中の1人の音声だけを聞かせる。そして再度5人の音声を聞かせると、先ほど聞いた1人の声がそのゴチャゴチャの中から聞こえてくるということを示している。司会の織田裕二は「やっぱり駄目だ」と言っていましたが、佐渡裕は「確かにかなり追える」とのことで、私も全く同じ感想。一度声を聞いたことでその特徴がインプットされ、次にその音声だけを捕らえることが出来るのだという。これが自分にとって重要な人の声ならなおさらというわけ。

 胎児もお腹の中で音を聞いているという。特に母親の声には敏感に反応する。なお面白かったのはフランス語圏とドイツ語圏で赤ん坊の泣き声のパターンが異なり、それは母語の音声パターンと合致するのだという。つまりは既に胎内で母語を学習しつつあるのだという。ちなみに私はどうもフランス語圏の泣き声の方がしっくりくると感じたのだが、関西語圏はフランス語圏とパターンが同じとのこと。母親の声を聞き分けて、それに反応するというのは赤ん坊にとっての生存戦略であるとのこと。


 以上、聴覚についてのお話。既に知っている話もあったが、外耳の形が変わったら音源の前後が分からなくなるとか、フランス語圏とドイツ語圏で赤ん坊の泣き声が違うとかのは話は私には初耳で実に興味深かった。次回のテーマは腸とのことであるが、また興味深い内容を期待できそうである。

 

忙しい方のための今回の要点

・人間の聴覚は脳での情報処理能力に対する依存性が大きく、訓練によって鋭敏になることもある。
・人間は音の方向を正確に判断することが出来るが、それは外耳での反射音のパターンを脳が学習したことによる。だから外耳に粘土を付着させるなどして形を変えれば、前後の判別が不可能になる。その状態に対応するには1ヶ月半ぐらいかかるとか。
・人間の可聴域は20~20000Hzで特に200~4000Hzの会話に使う音域が敏感である。一方、像などは超低周波を聞き取ることが出来、この能力で津波の襲来を予知したとされている。また遠くの仲間とも超低周波で会話しているとされる。
・一方の小型動物では近くにしか届かない超高周波で敵に悟られないように近くの仲間に警告をする。
・音声を聞き取る時は有毛細胞が音の振動を電気信号に変えている。有毛細胞には音の増幅効果もあり、脳と連携することで特定の人物の声だけを聞き取るなどという芸当を可能としている。
・赤ん坊も胎内で母親の声に反応する。また最初に泣く音声は母語のパターンを反映しており、フランス語圏とドイツ語圏で泣き声が違うのだという。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・関西語圏はフランス語圏と同じといっていたが、では関東はどうなんだろうか? 東北だったら泣き声もズーズー弁なのかなんて辺りが気になるところ。
・脳ってのは無意識のうちにかなり高度な情報処理をしているということがよく分かりました。実際にこれらの処理をいちいち意識して行っていたら、精神が崩壊するだろうな。人間って高度なオートマチック機械でもあるようだ。

次回のヒューマニエンス

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