教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

10/15 BSプレミアム ヒューマニエンス「"腸"脳さえも支配する?」

脳は実は腸の息子だった

 人間は脳で考えていると思っているが、実は腸で考えているかもしれないという話。実は腸はかなり自立的に動いており、そこに張り巡らされている神経網は脳のものとそっくりなのだという。つまりは脳は実は腸から進化したのだという。

 原始的な生物であるヒドラはほとんど身体が腸だけで出来ており、脳や中枢神経がない。しかし食べ物を求めて自ら動きを回る。つまりは考える腸そのものなのだという。

 生命における最初の臓器は腸だった。しかしさらに進化して身体を制御するようになった時、身体の中心に神経を集中させた方が効率が良い。こうして脊髄が生まれ、さらにこの脊髄が高度な処理をするために神経の塊を作って、それが脳になったのだという。

 さらには脳内の神経伝達物質と腸の中の神経伝達物質には共通点が多いという。脳内物質で有名なセロトニンやアセチルコリンやノルアドレナリンなどは腸でも分泌されており、蠕動運動をする働きなどをしているという。つまり脳とは腸の子どもと言えるという。

 

腸でも味を感じている

 さらには味は舌の味蕾で感じていると思われているが、実は腸の絨毛にも味を感じる器官があるのだという。そしてこれが性格にまで影響するのかもと言う話。腸では基本の5味のうちの酸味以外のセンサーがすべて見つかっているという。その中で注目するのが旨味のセンサー。いわゆる出汁の味であるが、腸が旨味を感じると腸は喜びを感じている状態になるという。そもそも旨味は母乳に多く含まれているので、我々が最初に感じる味であるという。

 ここでラットを用いた実験があるが、一方のラットには成長期に旨味を与え、もう一方には旨味を全く与えなかった。すると旨味を与えられなかったラットは大人になってから強い攻撃性を示すようになったのだという。旨味は腸と舌の両方で感じられるが、ラットの腸からの神経を切って舌からのみ旨味を感じられるようにしたところ、旨味を与えたにもかかわらず攻撃性の高いラットになったのだという。

 この辺りは和食で旨味を摂っている日本人が協調的と言われる理由かもという類いの事を言っているが、まあそれは飛躍しすぎだろう。ただ最近の日本人を見ていると、旨味不足の輩が増えたんだろうかと感じずにはいられないが。

 

脳と腸の密接な関係

 つまりは腸が脳に対して影響を与えているということが明らかになってきたと言うことである。だが逆に脳が腸に対して悪影響を及ぼす場合も多い。

 總持寺では若い僧が修行を行っているが、修行を始めてからアレルギーなどが改善したと語る者が多いという。それに影響を与えているのではと推測されるのが精進料理だという。旨味タップリの精進料理が腸を整えてそれが脳にも良い影響を与えているのではと言う。

 しかし現代人は暴飲暴食や多量のアルコール、果ては喫煙のように脳の欲望が腸に悪影響を与えている。また脳のストレスは腹痛や下痢を引き起こし、過敏性腸症候群などの症状につながる。腹痛のシグナルは脳の扁桃体を強力に活性化し、それが不安や鬱につながるのだという。腸がドラ息子化した脳に振り回されているのだという。

 これを解消する方法の一つが精進料理。腸を整えて快食快便になることで、その快適な信号が脳にフィードバックされ、脳が健康化するのだという。

 

蠕動運動を再現したロボット

 最後は腸を参考にして蠕動運動を再現するロボットを作ったという中央大学の中村太郎氏が登場。彼が開発したのは何段かに分けられたチューブが太くなったり細くなったりするものだが、これが腸の蠕動運動と同じ原理で物質を輸送するロボットだという。粘性が強くてポンプではうまく輸送できないような物質の輸送に適している上に、このシステムは輸送しながら中身を攪拌できる能力を持っており、腸はこの働きによって消化酵素を食べ物に混ぜ込むのだという。このロボットを使用すればロケットの固体燃料を混ぜながら輸送することが出来るので、ロケットの軽量化と安全化につなげられるという。織田裕二氏が実際にこのロボットに手を突っ込んでみているが、マッサージ器と同じと言っていたから、エアの圧力を使用しているようである。

 

 以上、腸が考えているという面白い内容。たまに胃袋で考えているような人間はいるが(笑)、まさか腸が脳の元だったなんてことは考えもしなかったし、腸の中に味覚センサーがあるなんてことも初耳だった。人間、食は生きていく基本であるが、どうやら我々が思っているよりもはるかにその重要性は高い可能性がある。ジャンクフードの増加と共に野獣のように自制の効かない頭のおかしなガキが増えたが、どうやらこれはもろに原因と結果が直結していたのではないかという気がしてきた。となると、これから重要性が増してくるのが「食育」というものになるわけか。まあ子どもにはまともなものを食べさせるのが大事なのは間違いない。何しろ小さい時から化学調味料だらけのファミレスに馴染みすぎた結果、まともな味覚を持ち合わせていないという子どもまで最近は増加しているというのだから。

 

忙しい方のための今回の要点

・腸は自立的に働く能力を持っており、腸の神経ネットワークは実は脳と同じ構造になっている。
・そもそも原始生物では最初に誕生した臓器は腸であり、腸の自立的判断で生きていた。それが身体が複雑化すると共に制御のための神経が中央に集まって脊髄となり、さらに高度な処理をするための神経の塊が出来て脳となった。
・このため、脳内の神経伝達物質と、腸内の神経伝達物質はほぼ同じだという。
・腸には味覚センサーもあることが分かっており、成長期に腸の味覚センサーで旨味を十分に味あわなかったら、大人になってから攻撃的な性格になるというラットの実験結果がある。
・また脳の欲求やストレスが腸に悪影響を与えることもある。ストレスが原因となるのが過敏性腸症候群。腹痛の信号は脳の扁桃体を刺激するので、それが不安や鬱につながることもあるという。
・精進料理などで腸の状態を改善することで、脳の状態が健康化し、身体全体が健康になっていくと言うことが期待できるという。
・腸の蠕動運動は粘性の高い物質を混ぜながら輸送できる。このシステムを再現するロボットを開発し、固体燃料ロケットの燃料合成に使用しようという研究がなされている。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・人間の腸が考えているという内容はなかなかにして衝撃的で興味深かった。確かに腹の具合が悪い時は気分まで滅入ってくることは事実。また私は、美味いものを食えた土地は気に入るという習性があり、どうやら脳がろくに考えてない分、腸が思い切り考えているようである。
・男を落とすには胃袋をつかめという話があるが、実は胃袋ではなくて腸をつかめなのかも。まあ確かに、料理の下手な嫁ってのは家庭不和の大きな原因になりやすい。まあ今時はそれなら自分で作れという話になりそうだが。ちなみに私の知人は旦那の方が嫁よりも料理が上手だったことが原因で離婚になってしまいました。

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