教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

3/14 サイエンスZERO 3.11から10年「命を救うための挑戦"津波防災"最前線」

津波情報の不正確さが悲劇を招いた

 東日本大震災では1万8千人以上が犠牲となったが、その犠牲者のほとんどは津波によるものだった。防災関係者が未だに痛恨に感じているのは、その津波の規模を正確に予想できなかったこと。当初の警報では津波の高さ予測軒並みは5メートル以下であった。しかし実際には10メートルをはるかに超える津波が襲来し、沿岸の防潮堤を易々と越えてしまった。

 なぜこのようなことが起こってしまったかであるが、まず地震の規模が正確に分からなかったということがあると言う。当初は地震が大規模かつ広範囲だったことから地震計がすべて振り切れてしまって正確な規模を予測できず、マグニチュード7.9と予測していた。世界中からのデータを集めてマグニチュード9だったことが判明したのは地震発生後50分が経過してからだという。津波は一番近いところでは30分後には到着しており、未曾有の大津波が襲来すると判明したときには避難が間に合わなかった。そして南三陸町では町役場の庁舎が丸ごと津波に呑まれるという悲劇が発生した。

 

津波の規模を正確に観測するためのシステム

 そこで現在は太平洋岸に水圧計を装備したS-netを設置することで直接に津波を検出できるようにしている。また南海トラフにはDONETという測定網が設置されているという。しかし全ての沿岸が防御されているわけではない。そこで海洋レーダーで津波を検出することが試みられている。海洋レーダーはそもそもは潮流などを測定するものであるが、東日本震災では紀伊水道に訪れた津波を検出していたことが分かったという。関西大学の高橋智幸教授によると、海洋レーダーは広い範囲を観測できることから、千葉から九州までの沿岸に17基のレーダーの設置を考えている。ただしここで問題となるのはただの大波か津波であるかの判別。津波の波面は直線性があるために、これを鍵にして判断できるようにしているという。目下のところ50キロ先の津波が検出でき、襲来までに30分の時間を稼げることになるという。

 

迅速な避難のための正確な浸水予測

 しかし津波を捕らえたとしても避難が問題となる。富士通の牧野嶋文泰研究員が開発したシミュレーションソフトによると、気仙沼でのデータから車での避難による渋滞の模様などが再現されたという。高齢者のスムーズな避難や渋滞が深刻な問題だという。彼は現在、川崎市沿岸のシミュレーションを行っているが、大都会のために全員が徒歩で避難するとしても各地で人がつかえることになったり、避難所が溢れるなどの問題が分かったという。そこで予測浸水被害地域の住民だけを避難させるようにしたら、スムーズに避難が出来たという。つまりは正確な浸水予測が重要であると言うことである。

 この浸水予測のための研究も進んでいる。東北大学発のベンチャー企業がその予測システムの開発に挑んでいる。地震研究者やスパコン開発者まで含めたプロジェクトである。現在、津波発生から10分で浸水がどこまで来るのかを予測するシステムを開発しているという。気象庁の緊急地震情報を取得し、さらに国土地理院が観測している地殻変動観測データを組み合わせることで、地震による地殻変動の断層面を計算し、そのデータを元に津波の規模を予測するのだという。これらのデータは東北大学と大阪大学のスーパーコンピュータに送られ、最優先で計算することで10分で計算が終了するという。都市における浸水の範囲や深さまで予測可能であるという。

 

p> 以上、津波に対応する最新技術について。ただいくら発生した津波が予測できても、当の住民が迅速に的確な行動を取れなかったら万事休すである。今から30分後に津波がやって来て辺り一帯が浸水すると言われたところで、私の家のように身体の不自由な高齢者を抱えていたら避難も迅速に出来ないし、車を使うなと言っても無理である。こういうような問題には自治体レベルでの取り組みも始まりつつあるようだが、実際のところの動きはまだ鈍い。

 また肝心の予報システムもどこまで堅牢性があるかの問題がある。恐らく東北大学と大阪大学の2カ所のスパコンを使用することになっていたのは、どちらかが停電などでダウンする事態を想定してのことなんだろうが、そもそも通信網も遮断される可能性はある。また中央で予測されたデータを被災地にいかに的確に迅速に伝えるかの問題もある。またこういう時に限って面白半分にデマを流して被害を拡大させようとするバカも常に登場するということも分かっている。つまりはシステムサイドだけでなく、人間サイドの問題への対処も必要なわけである。

 

忙しい方のための今回の要点

・東日本大震災では津波で多くの犠牲が出たことから、津波の規模を迅速に正確に予測することが課題となっている。
・津波の規模の観測については、S-netなどの直接観測システムに、さらに海洋レーダーを組み合わせる方法が検討されている。
・また大都市においてスムーズな避難を行うには、浸水地域を予測してその地域の住民のみを避難させることがポイントとなる。そのためには正確な浸水予測が必要である。
・現在、東北大学発のベンチャー企業が国土地理院の地殻変動観測データなどから地震の元となった断層の規模を推測し、スパコンを使用して10分で浸水カ所を計算するシステムを開発している。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあいろいろありましたが、結局最後は「つなみてんでんこ」なんて言われているように、地震だとにかく逃げろということを実践できるかどうかです。津波には数々の伝説のある三陸でさえあの鈍さですから他の地域になると実際にはかなり危機意識は低いでしょう。それの教育も必要。

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