教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

7/9 テレ東系 ガイアの夜明け「ゴミが宝に大変身!プラゴミから表彰台作る!密着2年」

廃プラスチックでオリンピックの表彰台を作る

 多くのプラスチック容器を使用するP&Gでは、環境アピールのために東京オリンピックの表彰台を回収プラスチックで作るプロジェクトを打ち出した。イオンや学校に協力をしてもらって集めたプラスチック容器は24.5トン、これがリサイクルペレットにされて表彰台に使用されることになった。

 表彰台を設計したのは慶應義塾大学の田中浩也教授。3Dプリンターで部品を製造して組み上げることにしたのだが、リサイクルペレットは素材が明らかでないために反りが激しくて整形に失敗してしまう。困った田中氏は廃棄ガラスから製造したグラスウールを加えて収縮を抑えることにする。しかしそれでもやはり反りは直ちには解決しなかった。そこで整形の形を変えて基板により密着するように変形させ、さらに基板には糊を塗ることで問題は解決した。

 これで製造条件が定まったところで、実際の製造は京都市の3Dプリンタ専門のエス.ラボに託された。しかし試作のスケジュールが遅れたために納期に間に合わせることが不可能になってしまった。そこで3Dプリンタの構成を変更して生産性を向上、何とか納期に間に合わせることに成功する・・・のだが、コロナでオリンピックが延期となり、製造した表彰台は倉庫入りにというグダグダ。

 そして今年、このコロナ禍で強行開催される狂気のオリンピックで使用されることに。当初の環境アピールとかのメッセージはどうなったことやら。

 

紙パックから作った生分解性プラスチック容器

 自ら英語での落語を演じたりするという異色の経営者・深澤幸一郎氏は、2015年にカミーノを設立、そこでは紙パックを原料にしてそこにトウモロコシ原料のポリ乳酸を加えたプラスチック素材パプラスを製造した。かつて外交官としてアフリカなどでプラスチックゴミ問題を直視し、何とかこれを解決しないとと感じたのが動機であると言う。原料の植物由来率は9割であり、耐熱性に優れ生分解性もある。深澤氏はこれをスープストック東京に売り込み。導入が検討されることになった。深澤氏は海外をも視野に入れてビジネスを進めている。

 

ジーンズ再生に賭けた町工場

 一方、足立区の従業員24人の町工場・ヤマサワプレスはアパレルの下請けでプレス技術が売り。しかしこの会社をコロナ禍が直撃した。瀕死になったアパレルの影響を受けて会社はギリギリの状態になっていた。ここで社長が勝負をかけたのが廃棄ジーンズの再生事業。アメリカ西海岸の倉庫で廃棄寸前の古いジーンズを大量に仕入れて、再生しようというのである。

 まずは綺麗にする必要があることから、洗濯のプロの助言を受ける。ジーンズの色を守りながら汚れを落とすのが大変。その結果、洗う前に汚れを浮かせることが重要とのアドバイスを受け、社員総出で洗いに入る。

 洗ったジーンズは修理作業が施される。ダメージを活かしつつミシンなどで修理する。場合によっては2本のジーンズを1本に仕立て直してツートンカラーのものにしたりなど。そして最後は自慢のプレス技術でアイロンがけして商品が出来上がる。こうして出来た商品は三越伊勢丹と共同事業として展開することとなった。さらにはファッションデザイナーの落合宏理氏が協力してデザイン。廃棄ジーンズを使用したジャケットなどが登場、そしてついにはパリコレに発表することに。

 

 以上、廃棄物に価値を持たせて再生するアップサイクルについて。アップサイクルとはゴミを新しい製品にすることであるという(リサイクルのさらなる進化形である)。オリンピックに絡めて表彰台の制作に密着していたのだろうが、そのオリンピック自体がグダグダになり、エコどころか最悪のコロナスプレッダーとなりそうな状況に番組自体が腰砕けになった感がありありである。今更オリンピックでエコをアピールなんて言われても、空々しいこと甚だしい。

 パプラスについては、この手の代用プラスチックは様々聞くが、大抵鍵になっているのはポリ乳酸のようである。植物原料が大半と言うことでプラスチックよりは明らかに環境に良いが、問題は紙は紙で森林資源の問題を抱えていることか。またポリ乳酸の原料のトウモロコシという辺りもバイオエタノールなんかと競合しそうである。

 最後のジーンズ再生は、古ジーンズをビンテージものとするのかと思っていたら、それを活かして新たなジャケットなどを作ると言うところまで踏み込んでいた。なおアメリカではボロボロのジーンズがビンテージものとしてありがたがられる(とにかく歴史のないあの国では、古いということがありがたがられる)ので、田舎の倉庫などを漁るジーンズハンターがいると聞いたことがあるのだが、そういうのとは別の路線のようだ。ジーンズに素材として目をつけたのはやはり耐久性だろうか。そう言えば古い着られなくなった着物を今風にアレンジするというビジネスも以前に見たことがあるが、あれはどうなったんだろうか。

 

忙しい方のための今回の要点

・P&Gではリサイクルしたプラスチック容器でオリンピックの表彰台を作成するプロジェクトを打ち上げた。24.5トンのプラスチック容器が回収され、3Dプリンタで製造された。
・紙パックを原料に、トウモロコシ原料のポリ乳酸を加えたパプラスをカミーノが製造、生分解性があり耐熱性もあるので、プラスチックに変わる素材として売り込み中。
・コロナ禍の直撃を受けたアパレル下請けの町工場・ヤマザワプレスでは、廃棄ジーンズを再生するアップサイクルに取り組んでいる。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・コンパクト五輪なる言葉も復興五輪なる言葉も嘘八百で、オリンピック自体がコロナのスーパースプレッダーになるのが確実視されてる今日、今更オリンピックでエコなんていったところで空々しいどころか馬鹿馬鹿しくて、それが番組全体がグダグダになった最大の原因。そのグダグダっぷりをそのまま見せているのはまだマシと見るべきか、それとも嘘で糊塗することさえ不可能なほど現実がひどすぎると考えるべきか。

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