教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

7/2 テレ東系 ガイアの夜明け「脱炭素の戦いとニッポンの生きる道」

脱炭素社会への取り組み

 地球温暖化に伴う気候変動はもはや誤魔化しようのないものとなってきており、脱炭素社会の実現は待ったなしの状態になっている。実際に将棋倒し的に大変動が始まるティッピングポイントを越えるのもこのままでは間もなくとされている。例えばそうなると、グリーランドの氷の消失が止まらなくなり、大量に流れ込んだ水がメキシコ湾流を停止させ、赤道地域の海水の温度が上昇することでアマゾンが乾燥化して熱帯雨林が消失するなど取り返しのつかない環境破壊が起こる可能性が指摘されている。この辺りはNHKスペシャルの「未来への分岐点」などでも指摘されていた辺りである。

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脱化石燃料を目指す出光

 まさに脱炭素となると一番大きな影響を受けることになる石油元売りの出光興産では、脱炭素社会を睨んだビジネス転換を進めている。社長の木藤俊一氏も2030年を境に現在の収益のほとんどを上げている石油燃料から再生エネルギーなどに事業転換を開始することを発表した。

 問題となるのは特約店と呼ばれるガソリンスタンドである。実際にエコカーの普及などでガソリンスタンド数は1994年をピークに減少している。業界の再編成でガソリン安売り競争がなくなって収益の改善は進んだが、脱炭素はもっと大きな波となる。

 出光が掲げているガソリンスタンドの改革案はガソリンスタンドをよろず屋にするというもの。出光の社員が実際にガソリンスタンドの経営者をモデル店に連れて行って説明する。そこでは電気自動車の充電スタンドを置いたり、カフェなどを併設したりすることで地域住民のあらゆる生活の場とする構想である。実際に実験店舗を視察したガソリンスタンドの経営者であるが、問題点が指摘される。まず現在の消防法では給油機と充電器を併設することは出来ない。さらに料金体系的に収益が全く上がらないというプロならではの指摘である。

 出光ではさらに超小型EV車のカーシェアサービスなども考えているという。このEV車の開発を行っているがタジマモーター。レースカーなどを製造してきた会社であるという。全長2.5メートルで4人乗りという大手自動車メーカーもまだ製造していないタイプを開発中である。出光と合弁会社を立ち上げて事業を進めているのだという。来年スタートする予定とのこと。タジマモーターの社長は、ガソリンスタンドの閉店などでライフラインが途絶えつつある地方などの救済になるのではとしている。

 

水素社会を見据えるトヨタ

 トヨタでは次期エネルギーの柱を水素と睨んで日本最大の水素メーカーである岩谷産業と組んで開発を進めている。ガソリンエンジンのシステムで水素を燃焼する水素エンジンと、水素で発電する燃料電池車の両睨みである(世間一般的には燃料電池車の方が本命と見られている)。

 番組では実際に松下氏が燃料電池車に試乗している。水素ステーションでは冷却しながら圧縮水素を充填するシステムだという。目下のところ価格はハイブリッド車の燃費に合わせているという。

 この車はオリックスカーシェアでも乗ることが出来るということで、番組スタッフが奥多摩まで実際に走ってみるという実験を行っている。すると走行には問題はないのだが、戻ってきた頃には夕方になって水素ステーションが閉まってしまっているところが多く、水素の充填に四苦八苦するという思わぬ落とし穴が。水素ステーションは数が少ない上に営業時間が短いところが多いのだという。水素ステーションは目下全国で160カ所(滅茶苦茶少ない)であり、一カ所建設に5億かかるので、どうやら目下は補助金頼りの模様。

 

積極的に二酸化炭素を回収する最新システム

 スイスではもっと積極的な二酸化炭素削減に取り組んでいる。それは空気中の二酸化炭素を回収するシステム。ベンチャー企業が手がけるこの大規模な装置では、年間900トンの二酸化炭素を回収出来るという。回収した二酸化炭素はビニルハウスで野菜の栽培に利用されたり、炭酸水の製造に使用されているという。

 さらに日本では東大発ベンチャー企業のCO2資源化研究所が温泉地などに棲息する水素菌を使用して、二酸化炭素と水素から有機物を作り出す研究を行っている。遺伝子操作などで食料を作り出したり、プラスチック原料を作り出したりという様々な菌を誕生させているという。食品メーカーや化学メーカーなどからも問い合わせが殺到しており、未来が期待されている。

 

 以上、脱炭素社会への取り組みについて。2030年に排出ガスを半減、2050年にゼロというのは非常に難しい問題ですが、それを解決せずして人類の将来はないと言えるので、人類の総力を挙げて取り組むべきでしょう。現在は幸いにして、地球温暖化の問題よりも自己の眼前の利益を優先するトランプから、アメリカ大統領がバイデンに替わりましたので今がチャンスです。科学的かつ合理的に進めてもらいたいところですが、この科学的かつ合理的というのは今の日本政府も皆目なので、こちらの対応も必要でしょう。

 私としては一番の注目は出光の超小型EV車だろうか。まさに車がないと始まらない地方の住民である私としては、年々貧弱化する交通インフラと、自家用車の維持のためのコスト負担に音を上げていたところ。日常の買い物などのニーズだとああいう小型車でも随分実用となる。やはりあのサイズで4人乗りはエンジンなどよりもシステムの簡単な電気自動車ならではであろう。もっとも燃料電池車と同じで、問題はインフラ整備。都心部だけ整備されるようだったら、肝心の地方では全く使えないことになってしまう。都心部はそもそも電車を使えばよいわけであり、こういうインフラは地方でこそ重要になる。

 

忙しい方のための今回の要点

・脱炭素社会に向けての取り組みを紹介。
・出光石油では2030年から収益のほとんどを上げている石油燃料の比率を下げて、再生可能エネルギーの比率を上げることを社長が発表した。またガソリンスタンドは地域に密着した事業を展開するよろず屋に移行することを計画している。
・またタジマモーターと提携して超小型EV自動車を開発、カーシェアサービスを検討している。
・一方のトヨタは岩谷産業と提携して、水素燃料社会の到来を見越している。燃料電池車用の水素ステーションの整備を進めているが、目下のところは全国で160カ所。建設費用5億と高いために、まだまだ補助金頼りの模様。
・より積極的に二酸化炭素を減少させるシステムとして、スイスではベンチャー企業による二酸化炭素回収システムが稼働を開始、日本でも東大発のベンチャー企業が水素菌を用いて二酸化炭素と水素から有機物を合成して商品やプラスチック原料に使用する研究が実用化されようとしている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・二酸化炭素を回収となった時に問題となるのは効率。目下のところはプラントとかゴミ処分場などの高濃度の二酸化炭素を回収して排出を減らすというシステムになる。残念ながら大気中の二酸化炭素を回収するというシステムはなかなか効率が悪くてビジネスとして成立しない。スイスのシステムが大気中の二酸化炭素を回収しているような話だったのだが、その辺りの実態が気になる。

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