教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

1/7 テレ東系 ガイアの夜明け「魚は"作る"時代へ!食卓の常識が変わる」

天然資源枯渇の危険から注目される水産物の養殖

 今や野菜や穀物はほとんどすべてが耕作によって得られる作物である。また食肉なども畜産によって得られるようになっている。そんな中、魚類だけが未だにその大部分を天然物に頼っている状態である。しかしこれらの天然資源は、乱獲や気候変動などによって危機を迎えつつある。また日本の漁獲量も各国の排他的経済水域の設定などの影響もあり、90年頃をピークに近年は減少の一途を辿っている。そんな中、漁業においても今後は養殖を主流にしていくべきという流れが起こっている。

 

 

JR西日本が取り組む陸上養殖

 ここで異業種からこの養殖に乗り出した企業がある。それは何とJR西日本。2015年から同社は養殖事業に乗り出したという。担当するのはJR西日本イノベーションズの石川裕章氏。養殖事業をほとんど一人で仕切ってきたという。JR西日本としてはこの事業を沿線地域の特産物を作って地域振興につなげるという観点で手がけているという。

 養殖といえば海上で行うものが多いが、石川氏が行っているのは陸上の生け簀で育てる陸上養殖である。これは寄生虫や病気などを防ぎやすいメリットがある。そこでアニサキスなどのせいで生では食べにくいサバを生で食べられるようにしたお嬢サバなる製品を売り出した。

 石川氏が現在新たに手がけているのはカワハギ。カワハギといえば巨大な肝が絶品と知られるが、この肝が太るシーズンが限られる上に、肝には寄生虫が付きやすいのでスーパーなどでは食中毒を恐れて泣く泣く廃棄しているという。陸上養殖を行えば寄生虫の心配がない上に、温度管理することで2~3年成長にかかるカワハギを数ヶ月で成長させ、さらには年間を通じて肝を食べることが出来るようにできると見込んだのである。

 当初海から持ってきたカワハギが養殖途中で寄生虫による全滅するなどのトラブルが発生したが、新たに完全養殖のカワハギを入手、養殖条件などを検討して何とか試験出荷に。無印良品のスーパーで試食をしてもらったところ上々の感触を得る。

 

 

北海道の過疎の漁村が取り組むウニの養殖

 一方、地方で漁獲量の激減で苦戦する北海道の漁港で、新たに養殖事業に乗り出した例がある。北海道の神恵内村はかつてはホッケ漁で賑わった漁港であったが、気候の変動で漁獲高は減少、今では漁獲はトンに及ばないレベルという。そんな小さな漁港が乗り出したのは高値で売れるウニの養殖。協力しているのがさかなファームより出向した塚本春香氏。さかなファームは企業や自治体が手がける魚の養殖をサポートする企業である。同社では養殖魚のブランド化を目指して料理人などとも連携している。彼女はウニの餌をいろいろ試した結果、白菜を与えるとウニの味が良くなり、さらに南瓜を与えることで色が良くなるということを発見したのだという。将来は大規模な陸上養殖を目指している。

 現在はテストとして海中でウニを育てることを行っている。神恵内村は綺麗な海で知られるが、その海では磯焼けなどが起こっていた。大量に発生したウニが海藻などを食い尽くしてしまう現象で、このようなウニは割っても中には何も入っていない。だからこのようなウニに餌を与えて養殖し、商品化することを考えたのである。数ヶ月後、育てたウニを割って確認したが、黒っぽく色が悪いことが判明、そこで南瓜を大量に与えることにする。

 この年、北海道では気候変動による赤潮の発生などで漁業が大被害を受けた。神恵内村は被害を免れたが、北海道の海にも危機が迫っていることが明らかとなった。そして餌を与え始めて3ヶ月、出荷を二週間後に控えてウニを割って確認してみると、南瓜の効果があったか大きな黄色い身に成長していた。さなかファームで料理人に試食してもらったところ、味の評価は上々。ただ酢飯と合わせた時にやや柔らかすぎるという新たな課題も見つかった。このウニは赤潮の影響でウニが不足して困っている地元の寿司店に出荷された。

 

 

 以上、新たな養殖技術の実用化について。カワハギもウニも好きな食材ですので軌道に乗せて欲しいものです。なお陸上養殖は病気の防止などでメリットはあるが、コストが高くなりがちなので、そこは高級魚を養殖するなどで高く売らないと採算が取れなくなるということがある。だから石川氏はカワハギについては養殖期間を短縮することで生産性を上げることを考えたようであるが。ちなみに磯焼けの原因となるウニに餌を与えることで商品化するというのは以前にサイエンスZEROでも放送していた。この時は九州大学の栗田助教がクローバーを与えるクローバーウニの実用化を目指していると言っていた。そう言えば塚本氏の経歴で九州大学などで水産養殖を学んだと言っていたが、もしかしたら彼女は栗田助教の研究室で学んだのかも。

tv.ksagi.work

 

 

忙しい方のための今回の要点

・気候変動や資源の枯渇の危険から、水産資源の陸上養殖に乗り出している企業について紹介。
・JR西日本では地域振興の一環として、魚の陸上養殖に取り組んでいる。メリットは寄生虫などを防げるので、例えば生食しにくいサバを生食できるようにしたり出来ること。
・養殖事業を担当する石川裕章は新たに肝を安全に食べられるカワハギの養殖に取り組み、商品化を目指している。
・一方、企業や自治体の養殖の支援に取り組んでいるさかなファームから北海道の神恵内村に派遣された塚本春香はウニの養殖に取り組んでいる。
・神恵内村の海でも磯焼けなどが発生しており、この時のウニは中に身がほとんど入っていなくて商品価値がないことから、これらのウニに白菜などの餌を与えて商品化することを目標としている。
・将来的には大規模な陸上養殖をめざしているが、目下のところは試験的に海洋で養殖を行って、地元の寿司店に出荷した。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・かなり以前にトラフグを陸上養殖することで毒の無いフグを育てるなんて言うのもやっていた記憶がある。フグは餌から毒を取り込むので、陸上養殖すると無毒化するそうなんだが、ただ出荷の段階で国から安全性が保証できないとして横槍が入ったということがあった記憶が。どうも本当にフグ毒が餌からだけなのかがまだ完全に証明されていないとかで。