500の噴水の庭園
イタリアのティヴォリのエステ家の別荘の庭園は500もの噴水を備えている。500年前に名門貴族が作ったルネサンス様式の庭園の傑作である。
ティヴォリはローマから30キロほど離れた郊外の丘の上にある。ローマ中心を流れるテベレ川の上流のアニエーネ川を遡るとティヴォリにたどり着く。ティヴォリの丘から流れるアニエーネ川は渓谷をなしている。この丘は水が豊かであり、エステ家の別荘の庭はその水を巧みに使用したものである。斜面に沿って何段ものテラスを設け、そこに高度に設計された噴水を配している。
夢破れて庭園建設に人生を費やした16世紀の貴族
庭中に配された500もの噴水はそれぞれ趣向を凝らしている。これらは水が上から下に流れるのを利用している。一番上がティヴォリの噴水で、そこからさらに下の百の噴水の通りに流れる。そしてさらに次はロメッタ(小さなローマ)の噴水につながる。この噴水はローマをイメージしており、それはこの別荘の主の思いが籠もっている。16世紀の貴族で名門デステ家のイッポーリト2世はローマ教皇を選ぶコンクラーベに3度も敗退した人物である。そして夢破れてローマを後にした彼は、残りの人生と財産を費やしてここを建設したのだという。
当時の貴族たちを驚かしたのがオルガンの噴水。水を動力にしてシリンダを回して空気圧でオルガンを鳴らす。最新鋭の設備で多くの貴族が真似をしたという。そしてここからの水は下のネプチューンの噴水を噴き上げる。このような土地の高低を利用して多くの噴水を配するのはルネサンス庭園の特徴だという。
モデルとなったローマ皇帝の別荘
この庭を見下ろすのが修道院を改築したエステ家の別荘。ベランダは庭を見下ろせる特等席になっている。また別荘の室内にも噴水はあったという。この別荘が手本としたのはこの近くにあったハドリアヌスが築いたヴィッラ・アドリアーナだという。今は遺跡のみしか残っていないが、ほとんど1つの町の巨大な別荘である。皇帝が1人で思索にふけるための海の劇場、さらに図書館、露天浴場などの建物の遺跡が残っている。ハドリアヌスは広大なローマの領土を隅々まで回った人物であり、各地の風景をこの別荘に取り入れたのだという。
エステ家の庭には危機に瀕した噴水もある。それがドラゴンの噴水。現在はこけに覆われてかつての豪快な風景とはかけ離れたものになっている。実は損傷が進んだことで修復を行うまで水量を絞っているのだという。数々の課題も抱えているが、500年前の姿を今も保っている。
忙しい方のための今回の要点
・ローマ郊外のティヴォリのエステ家の庭園は500もの噴水を備えたルネサンス庭園の傑作である。
・これらの噴水は丘の高低差を利用して上から下に向かって配置されている。
・この庭園を築いた名門デステ家のイッポーリト2世はローマ教皇になる夢に3度も破れ、残りの人生と財産をこの庭園の建築にかけた。
・この別荘のモデルとなったのは、この近くにあるローマ皇帝ハドリアヌスが設けた広大な別荘ヴィッラ・アドリアーナである。
・しかし噴水の中には損傷が進んでいるものもあり、修復が検討されている。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・それにしても豪快な噴水が多いです。水圧だけでこれだけの噴水を作れるというのがスゴイです。こういう高低差を利用した庭園と言えば、日本では兼六園がそうですね。あそこも水圧だけによる噴水(日本最古と言われている)があったはずです。
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