教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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10/4 BSプレミアム ヒューマニエンス「"疲労"捉えにくい生体アラーム」

人間が「過労死」してしまうメカニズム

 今回のテーマは疲労。現代社会は心身ともにストレスが多いから疲労がたまっている人も少なくないと思われるが、分っているようで分からないのがこの疲労である。疲労は本来は体からの警告であり、休息を取れという信号なのだが、なぜか人間はそれを無視することが出来てしまう。そのために日本人の特徴ともされる「過労死」なんて理不尽な状況まで発生してしまう。果たして疲労とはどういうものか。

 そもそも疲労と疲労感というものが違うのだという。疲労とは体の細胞などにダメージが発生した状態であるが、疲労感というのは脳が感じる「回復のために休め」というサインである。野生の動物などならこれは確実にリンクするはずなんだが、そうならないのが人間であるという。実際に某運送会社で仕事後に自律神経の働きなどから疲労度を客観的に判断する装置を従業員に適用したところ、本人は「まだ疲れていない」と言うのに対し、客観的に見たら疲労が溜まっているというズレのある社員がゾロゾロ出た。

 疲労感というのは脳の眼窩前頭野という部位で感じるとされている。しかしヒトの場合はそこに覆い被さるように存在するのが前頭前野。専門家の先生は前頭前野を「欲の塊」と表現したが、いわゆる欲や意欲を司る働きがある。ここが報酬などを得て意欲が高まると、ドーパミンなどが分泌されて快感や高揚感が沸き上がってくると、これが疲労感をマスキングしてしまう。つまりヒトは脳が発達することで疲労感を誤魔化す能力を身につけてしまったのである。これは良い面もあるが、過労死を生む原因となった。朝起きた時にリフレッシュ感があるかがポイントの一つとか。

 

 

疲労が細胞に起こす深刻な影響

 疲労した時には何が起きているか。マウスを使った実験によると普段は肝臓にだけストレスがかかっている(肝臓は常に代謝の酸化ストレスがかかっているから、これは正常だという)のだが、このマウスを一週間不眠不休で運動させると、見た目は変化しないのだが、脳と腸にストレスが出ており、細胞でタンパク質の合成にブレーキがかかった状態になっているという。細胞は通常eIF2αというタンパク質合成因子を使用して新陳代謝や細胞の活動に必要なタンパク質を合成している。しかし負担が増えるとこれがリン酸と結合してタンパク質の合成にブレーキがかかる。これが疲労だという。このタンパク質が合成できない状態が続くと細胞は死滅してしまう。これが特定の部位で発生したら脳卒中や心筋梗塞につながるのだという。

 しかしヒトは細胞の異変を直接察知することが出来ず、この時に合成される炎症性サイトカインが脳に伝わることで初めて疲労感を感じるのだという。そして休息を取ると細胞の中ではeIF2αが元の状態に戻ってタンパク質の合成が再開されるのだという。つまりは疲労感を感じた時には既に細胞死のカウントダウンが入っているのだという。ちなみにこのリン酸を外す酵素は軽い運動で促進されるとか。

 

 

栄養ドリンクの効果とヒトの疲労を察知するウイルス

 疲れると栄養ドリンクに手が伸びる人もいるだろうが、この栄養ドリンクの働きは栄養ドリンクに含まれる抗酸化物質が疲労を抑えるという効果があることがマウスの実験で分かったという。しかし臓器ごとに観察すると必ずしも疲れが回復していない臓器があることが分かったという。肝臓は疲れが回復しており、常に最大の炎症性サイトカインを出す肝臓からのサイトカインが減ることで脳は疲労が回復したと感じているのだが、実際は体に疲れは残っているので要注意とのことである。だから後でキチンと休息を取ることが重要だという。専門家は「元気の前借り」と表現していた。肝臓以外に効く疲労回復物質は研究中とのこと。

 ヒトは自分ではなかなか疲労を関知できないのに、それを敏感に察知しているのが体内のウイルスだという。ヘルペスウイルスは疲労が溜まると症状が出るが、それはヘルペスウイルスが寄生している体の危険を察知して、外に逃れようとしているのだという。なおヘルペスウイルスの中にはうつ病になる可能性を上げるHHV-6というウイルスがあるという。このウイルスはほぼ100%のヒトが持っており、大人では健康に影響がないとされていたのだが、HHV-6が作り出すSITH-1というタンパク質がうつ病患者では有意に多いことが分かったという。マクロファージに潜んでいたHHV-6は疲労を検知して再活性化して増殖、血液を通じて唾液に集まると、嗅球に感染してSITH-1を合成、それが脳のストレス反応を高めるのでうつ病になりやすくなるのだという。なおヒトの疲労の度合いを測るセンサーとしてHHV-6を使おうという研究もあるという。

 

 

 というわけで今回のテーマは疲労でしたが、現代社会は高ストレス社会なのでありとあらゆるストレスにさらされています。おかげで慢性的に疲労が溜まっている人が増えてますが、私なんかまさにそれ。朝起きた時のリフレッシュ感なんて感じたことはまずありません。朝一から口を突いて出てくる言葉は大抵「ああ、しんど」です。恐らくグッスリも眠れていないこともあるようだし。

 ところで栄養ドリンクを取ると肝臓の疲労が回復するので疲労感がなくなるというようなことを言っていたが、私は栄養ドリンクの効果を感じたことがないのだが? あれは所詮はカフェインで脳を誤魔化しているだけではと私は思っている。何にせよ、あれを常用するのは確かに命取りらしい。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・疲労とは体の細胞のダメージのことだが、疲労感とは脳で感じるものなので、ヒトの場合は特にその両者にズレが生じやすく、それが過労死などの原因となるという。
・ヒトは眼窩前頭野で疲労を感じるとされるが、それに被さる巨大な前頭葉が「欲の塊」であり、ここが報酬でドーパミンなどが分泌されると、疲労感がマスキングされてしまうという。これは脳が発達したヒトだからこそ。
・疲労した時の細胞を調べると細胞の新陳代謝などに必要なタンパク質の合成が停止しており、その時に信号として炎症性サイトカインが分泌され、脳が疲労感を感じるのだという。
・休息するとタンパク質合成は復活するが、そのまま無理を重ねると細胞が死んでしまうことになり、場合によっては脳卒中や心筋梗塞などにつながる。
・栄養ドリンクは最もサイトカイン分泌の多い肝臓の疲労を回復することで疲労感を抑えるが、他の臓器には疲労は存在しており、無理は禁物だという。
・ヘルペスウイルスはヒトの疲労を察知して、疲労が高まった時には症状を出して外に逃げようとするという。
・ヘルペスウイルスの一種であるHHV-6はうつ病になりやすい状態を発生させることが分かってきた。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・つまりは人間は欲が強すぎるが上に、目の前の疲労を誤魔化して無理をするという能力を手に入れたと言うことか。もっとも害もかなり多いようだが。

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