教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

11/29 BSプレミアム ヒューマニエンス「"肛門"ヒトが隠した羞恥の穴」

大変な負担を背負っているヒトの肛門

 今回のテーマは肛門。口が栄養を取り込むための入口だとしたら、排泄物を排出するための出口である。元来はセットで同様に重要なはずなのだが、なぜか出口の方はタブーのようにされている。その辺りも含めて今回は肛門について考察。

 まず人間の肛門は他の動物と違う特徴があるという。ヒトの最大の特徴は巨大な脳であるが、実はそれを支えたのが肛門だという。それは巨大な脳を支えるための重要条件が直立二足歩行であるが、その姿勢は肛門にとっては大きな負担になるという。肛門は直腸内の排泄物の重みを肛門だけで支える必要がある。これに対して四足歩行の動物は直腸内の排泄物の重みを支えるのは腹筋の役割になる。しかも動物は自分が望んだ時に自由に排便できるが、ヒトは社会的要請から排泄の場所と時を選ぶ必要がある。

 そのために人の肛門には内肛門括約筋という意志では動かせない筋肉の外側に外肛門括約筋という意志で操作できる筋肉(随意筋)を持っている。この二重構造でヒトは排泄物をせき止めているのだという。内肛門括約筋は不随意筋なのでこれのおかげで無意識に肛門を締めておくことが出来る。しかし排泄物が溜まってくると直腸の壁が膨らむので、それを神経が探知して脳に信号を送ることで便意を感じるのだという。またこの神経は意外に高度で、実際に内容物が便なのかガスなのかを判別しているという。なお肛門挙筋という肛門手前にある随意筋も肛門括約筋と連携しているとのこと。ちなみに高齢化で脱糞してしまったりするのは、筋肉の衰えよりもセンサーの衰えの方が主であるとのこと。

 

 

進化によって口と分離した肛門

 ではこの肛門の発祥はどうなっているか。原始的な生き物ではそもそも口と肛門が区別されていない。ヒドラなどがまさにそうである。その後に生物は口と肛門を分けることで栄養摂取の効率を上げるようになった。ウニは口と肛門を持つが、その発生過程においてはまず肛門が先に出来て、その後に消化管が反対側に貫通して口が出来ると言う。これは我々人類でも同じで、逆に節足動物や軟体動物などは口の方が先に出来るという。肛門が先に出来るのが新口動物、後に出来るのを旧口動物と呼ぶらしい。中にはムネミオプシス・レイディという生物のように、排泄時だけ肛門が出来、排泄が終了すると穴が完全に塞がってしまう生物もいるという。これがもしかしたら肛門の原型かもしれないという。

 また生物によっては肛門と生殖器の穴を共用しているものが多くいる。これは両生類、は虫類、鳥類などである。生物が進化することによって機能分化が起こったという。

 

 

肛門の社会的意味

 さらに動物の肛門は個体識別の鍵にもなる。よく犬が肛門の臭いを嗅ぐ行為をするが、これは肛門周囲腺から発せられる臭いで個体識別をするのだという。さらに肛門嚢という袋が存在し、ここには臭い物質を蓄積する。これを攻撃に有効活用しているのがスカンクであるが、他の生物でも縄張りアピールなどに使用する。肛門はコミュニケーションの道具だという。しかしヒトはそれが使いにくい形態になったために、その代わりに顔がコミュニケーションのツールとして重要になったのではという。ちなみに肛門の皺は指紋と同様にヒトによってパターンが違うので、これを使っての個人識別も可能だという。

 肛門と言えばトイレであるが、ヒトにとっては排泄は羞恥の対象となっている。ただその結果、トイレ自体が「恥ずかしい場所」になってしまったという。その結果として便秘に悩む者が増えることになったという。スムーズな排便には副交感神経優位のリラックスしている状態が必要なのだが、便意を感じた時にすぐに排便できず、交感神経が優位の時に排便しようとすると蠕動運動が弱まっていることなどから排便自体が難しくなってくるのだという。便秘の原因のアンケートによると、やはりストレスが影響しているという。便意を感じた時に排便しないことを繰り返していくと、便意にまともに反応できなくなってしまうのだという。

 なおフロイトの説によると、ヒトの心理的発達段階は1才までの口唇期、1~3才までの肛門期、5~6才の男根期、学童期の潜在期、思春期以降の性器期に分かれるという。肛門期とは「肛門による排泄の快楽を知る時期で肛門のコントロールが自己を規律する」のだそうな。というわけで排泄が羞恥心と結びついているという。

 

 

 以上、肛門について。栄養吸収の効率化という話が出ていたが、確かに消化管を往復させて吸収と排泄を繰り返すよりも、一方通行にして同時進行できるようにした方が栄養吸収の観点では効率が良い。また排泄場所をべつにした方が、排泄物を再び体内に取り込んでしまうという無駄も防ぐことが出来るということで理に適っていそうだ。

 なお人類は肛門に負担がかかっているということだが、そのためか人類は肛門に発症する病気も爆弾として抱えている。今回はその話は出てこなかったが、例えば痔などは他の動物でも発症するんだろうか? 恐らく肛門の負担の大きいヒトに固有だと思うのだが。

 で、排泄と羞恥の絡みで「学校でトイレに行けない」という話があったが、下手するとイジメのネタになってしまうという話が出ていたが、確かに小学生ぐらいだったらそういうつまらない現実はあるんだよな。もっとも私が小学生の頃は学校でトイレに行けないというのはそれだけでなく、とにかく学校のトイレが汚いものだから「使いたくない」と言うことの方がさらに大きかったが。公的なトイレが清潔になり普通に使えるようになったのは実際にここ最近のことである。私の年代だと、駅のトイレなんてあまりに汚すぎてとでも使えたものでなかったことは記憶にあると思う。この辺りはウォシュレット文化の普及とも関連しているように思うが。何にせよ、胃腸が丈夫と言いがたい私の場合、外のトイレが清潔化したことは非常に助かっている(外出した時に外のトレイを使用しないで済むことはまずないので)。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・ヒトは直立二足歩行するために肛門には非常に大きな負担がかかっている。そのために肛門括約筋には不随意筋である内肛門括約筋と随意筋である外肛門括約筋が存在する。
・原始的な生物では肛門と口の区別はなかったが、それが真価と共に別の機関に分かれた。なお発生時に肛門から先に出来る新口生物と、口から先に出来る旧口生物の2種が存在するという。
・また動物においては肛門周囲腺が発する臭いを個体識別のコミュニケーションに使用しているものが多い。さらには肛門嚢という臭い物質を蓄える袋があり、スカンクはこれを攻撃に、他の動物では縄張りのマーキングに使用している。
・ヒトにおいては排泄は羞恥行為になっているが、便意を我慢することが便秘につながる。本来排泄は便意を感じた時にリラックス状態で行うことが望ましいのだが、便意を無視することを繰り返しているとスムーズな排泄が出来なくなると言う。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあ摂取があれば排泄もあり、共に生物にとっては重要であるのは間違いない。とは言うものの、人前で排泄するわけにもいかないのもヒトの文化というもの。まあこれについては、排泄時というのはヒトにとって最も無防備な状態だからというのもあるような気がする。

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