数学と人間の進化
主に人体に纏わる様々な最新研究を紹介してきたこの番組だが、今回はいかにも唐突な感のある「数字」。どうもNHKは今期は「笑わない数学」とか数学ネタが多かったので、数学に強いディレクターでも加入したのか? ちなみにあの番組、私はずっと見てたんですが、それでなくても分かりにくい数学を扱った内容を文字で表したら、とてもではないが意味の分かる内容にならないんで、このブログではあの番組扱ってません(笑)。
まず、我々は大抵10進法を使用しているが、これは古代からどこの文明でも大体共通だという。人間の指が10本なので、それを指折り数えていたら自然にこうなったということである。その一方でもう一つの数字の塊として12、ダースも使用されている。これが使われるのは人間が争いを避けるための知恵だというのである。12は2,3,4,6で均等に分けることができるので、食料などを均等に分けるのに都合が良いのだという。なお片手で12を数える方法として、4本の指の関節の数を数えるという方法があり、メソポタミア地域では今でも使われているらしいとのこと。
さらにこの数字に纏わる話として、古代エジプト文明を支えた数字が3,4,5だという。これはこの長さで区切ったロープで三角形を作れば、三平方の定理(ピタゴラスの定理)の通りに直角三角形ができる。この直角三角形がエジプトにおいて重要だったという。エジプトではナイルの氾濫の度に土地が肥沃になるのだが、洪水後は畑の境界などが不明になるので、それを公平に分けなおすには直角を使用して平行線を引くことが重要だったのだという。なおこの3,4,5を足すと12になるというのにも何となく神秘を感じるところだ。
数学における画期的発明だった0
また数学と言えばインドが盛んだが、そのインドで数学回を飛躍的に発達させる発明がなされている。それが0という数字の発明だという。それまでの数学の大半は古代ギリシアで発達したのだが、彼らは基本的には数字は数を記録するのに用いていたので、0の必要性は行きついていなかったらしい。だから何も存在しない状態を示す0の数字は存在しなかったのだが、商売人であるインド人は商品が売り切れて何もないという意味を現す0の必要があったのだという。インド人は数字を直接使用して計算をするということを行っており、7世紀ごろに0の数字を発明したのだという。これが今日のアラビア数字の元になっている。
なおこの0が18世紀のヨーロッパでさらに画期的な発明につながる。それは数学者のライプニッツが発明した2進法である。0と1だけですべての数を表す方法である。ただ当時はそれが何に使えるかは誰も考え付かず、そのまま放置されていたという。それが1930年代、イギリスの数学者のアラン・チューリングが2進法を使用してコンピュータで計算させる方法を考えたのである。チューリングはこの装置でドイツの暗号を解読し、終戦を2年早めたとされている。このチューリングの発明が今日のコンピュータ文化につながっているのである。
生物界にも及ぶ数学の法則
ここまでは数学の話だが、この数学が生命にも関与しているという話が出てくる。そもそも遺伝子の情報自体が2進法なのである。だから数学で魂を再現できるのではという妄想までも登場してくるが、チューリングも実はこれを目指していたとか。
さらに自然界の法則が数学に結びついている。自然界の花びらの数には法則性があるのだという。まず最初に1+1=2 次は1+2=3 さらに2+3=5 3+5=8 5+8=13と足していくと数列になる。これはフィボナッチ数列と呼ばれているが、自然界の多くの花びらはこのフィボナッチ数列の枚数なのだという。同様に動物の模様も方程式で表すことができるという。これを示したのがチューリングなのだが、論文発表の2年後に亡くなったので誰もその正しさを証明できなかった(と言うか、証明する気がなかった)。それをこの度、日本の近藤滋氏が証明したという。熱帯魚の縞模様に注目して、成長するに伴って縞模様が増えるが、それがチューリングの式に従っているということを証明したのだという。この方程式で縞模様からチーターのような斑点模様などすべて表すことが可能だという。
また指が5本あるのもチューリングの方程式が生み出す波が関与しているという。マウスの遺伝子の中の足の指の波を生み出している遺伝子を変化させたところ、足の指が増えていき、それがチューリングの方程式が生み出す波と関係しているということが示された。さらに指紋がチューリングの方程式と関係しているとも言われている。つまりは生物の形態自体が数的法則で支配されているのである。
以上、今回は「数学」というかなり唐突なテーマだったが、一応最後はこの番組らしく生物の話にやや強引につなげた。
まあ数学が自然界を貫く根本的な定理だと考えると、生命の中に数学で表現される法則性が存在するのも当然と言えば当然である。とは言うものの、やはりかなり唐突な話であったという印象は拭えぬところ。やはりNHKの教養番組制作スタッフに数学畑出身のかなり優秀な人物が加わったんだろうか? 私も理系の人間であるが、実は数学と物理が苦手というインチキ理系なので、数学の話についてはついていけない部分が多分にある。やはり数学を極めるにはある種の「特殊な脳」が必要なのではというのが私の感覚。脳内でイメージとして描けないと数式を理解できないというのが私の限界である。古代ギリシア数学ぐらいまでは何とかついていけるが、ニュートンの微分積分以降の近代数学となると怪しくなり、現代数学となるともうチンプンカンプンである。
忙しい方のための今回の要点
・我々は10進法を用いているが、これは古代からどの文明でもほぼ共通であり、人間の指の数と相関していると推測できる。
・一方で我々は12、ダースも一つの単位としてよく用いる。これは12が2,3,4,6のいずれでも割り切ることができ、多人数で食料などを公平に分割するのに適していたからだという考えがある。
・また古代エジプトでは3,4,5の数字が重要な意味を持った。それはこの長さの比率で直角三角形を描くことができ、ナイルの氾濫後に畑の境界線を引きなおすのに、この直角三角形から誘導した平行線が重要であったからだという。
・数字の0を発明したのは7世紀のインドである。これによってそれまでの記録のための数字から、計算のための数字としての発達があった。
・18世紀、数学者のライプニッツが2進法を発見したが、当時はその有用性は理解されなかった。1930年にイギリスの数学者のアラン・チューリングが2進法を用いた機械計算機を発明、これが今日のコンピューターの基本原理となった。
・チューリングは同様に生物界にも数式による基本原理があると発表したが、これは長年放置されていた。このほど日本の近藤滋氏が熱帯魚の縞模様がチューリングの式に従っていることを証明、自然界の動物の模様やさらには指の数などの形態もチューリングの式に従うことが分かってきた。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・今回アラン・チューリングという天才数学者の名前が登場しましたが、どうやらイギリスでは紙幣になるぐらいの有名人のようですが、恥ずかしながら私は初耳です。しかし今回の発見内容を聞いていると、やっぱり頭の中がかなりぶっ飛んでいる人だったような印象を受けます。天才的な数学者と言えば、やっぱりどこかぶっ飛んでいるんだよな。
・ちなみに私の出身大学には数学科、物理学科、化学科などがありましたが(私は化学科出身)、化学科の最期は毒物中毒、物理学科の最期は放射線障害、数学科の最期は発狂などと言われていました(つまりは理系の研究者なんかになったら、ろくな最期は迎えられないという自虐ネタ。ちなみに当時は銀行や商社などが絶好調で理系からの文系就職も多い時代でした。)
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