教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

12/20 BSプレミアム ヒューマニエンス「"退化"もう1つの進化の道筋」

退化は進化と表裏一体

 今回は「退化」。必要がなくなったものだから退化したというわけでどうでも良いような気がするが、生物はそうそう単純なものではない。退化は実は進化と表裏一体という話。

 サルからヒトへ人類は進化したとされているが、観点を変えると退化してもいるという。プロのフリークライマーが手がかりを握り続ける上で重要な筋肉が長掌筋。握った時に手首を支える筋肉で、サルなどには不可欠のものであるが、木登りをしなくなったヒトでは既に退化しているヒトが多いという。手の小指と親指を引っ付けた時に、腕に浮かび上がるかどうかで分かるという(私は全くないようです)。このような器官は退化器官であり、体毛、立毛筋など以外に男性の乳首、尾骨、耳介筋、親不知などなどが存在する。

 また退化が進化を促した例もある。ヒトの咀嚼筋はゴリラなどに比べると極めて貧弱で、その部分の遺伝子にも欠損があるという。火を使うことによって食べ物を軟らかくすることを習得したヒトには強力な咀嚼筋は必要なくなったのである。そして頭蓋骨を抑えていた巨大な咀嚼筋が退化することで、巨大な脳を持つことが出来るようなったのだという。咀嚼筋の退化が脳の巨大化を促したのである。ヒトの多くの退化器官は長年をかけて退化してきたのだという。

 

 

フェロモンに関する器官もヒトでは退化している

 多くの動物の行動を制御するとされているフェロモンであるが、これは動物においての重要なコミュニケーション手段である。そのためにフェロモンを集める器官である鋤鼻器、それを伝える神経に信号を受け取る副嗅球というセットになる器官を有している。しかしヒトの場合には鋤鼻器の痕跡はあっても、そこから神経がつながっていないし、脳内に副嗅球も存在しないことからヒトはフェロモンを使用していないという。ただし排卵期の女性の体臭に男性が愛着を感じるという実験があり、嗅覚が影響を与えている可能性はあるという。なおフェロモンはコミュニケーションを司っているものなので、音声でコミュニケーションが取れるヒトにとっては、フェロモンによるコミュニケーションは不要になったのではないかという。

 

 

足の小指は退化の途上?

 さらに面白いのは足の小指は退化の進行形の器官ではないかという話。足の小指をぶつけるという事故は多いが、これは脳が持つボディー感覚に足の小指が含まれていないためなのではないかというのである。実際に足下が見えない状態で足を線に沿うように置かせるという実験をすると、多くの人が足の小指が線に乗っている結果になったという。だから足の小指をぶつけてしまうのだという。つまりは脳が既に足の小指はないものとして扱い始めているのだという。ちなみに日本人の80%は既に足の小指の骨の数が減っているのだとか。

 ただ役に立たないから退化したと思われていた器官が予想外の働きをしていた例もある。それが虫垂。今まで不要だと思われていたが、虫垂を切除したら1年半から3年半の間大腸ガンの発症率が2.1倍になると言う報告が出た。これは虫垂のリンパが影響しており、虫垂がある方が免疫物質IgAが多いという研究がある。虫垂は盲腸が退化したものだが、腸内細菌を制御するために細く進化したのではという。

 

 

 以上、退化についてであるが、退化が実は進化の引き金だったのではという話である。まあ肉体に割けるリソースには限界があるはずなので、利用頻度の低い器官を廃止していくことで新たな器官に資源を振り向けると言うことが出来るのは事実のように思える。もっとも退化した部分も完全になくなってしまうのではなく、もし環境の変化などでその機能が必要になる局面が登場したら復活できる芽を残しているというのもいかにもではある。

 足の小指が退化の過程というのは面白い観点であったが、確かにやたらにぶつけるのはボディー感覚に考慮されていないからというのは説得力がある。それに機能的に見た時、普段から浮き指になっていて歩行にはほとんど影響していないというのはその通りだろう。もっともそれなら、まず痛覚をなくしてくれと言いたいところだが(笑)。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・ヒトには退化した器官がいくつかあるが、その1つが長掌筋。握った時に手首を支える筋肉だが、ヒトが木登りをしなくなったことで必要性が薄くなり、今ではなくなっている人も少なくないという。
・同様にヒトの退化した器官には体毛、立毛筋、尾骨など多数存在する。
・しかし退化と進化は表裏一体でもある。ヒトは加熱した食品を摂ることにより、咀嚼筋が退化したが、そのことによって頭蓋骨が柔軟性を得て脳が巨大化することが可能となった。
・また多くの動物がフェロモンで行動を支配されるが、ヒトはフェロモンを集める鋤鼻器が退化した上に、そこに神経がつながっておらず、フェロモンを使用しないと考えられる。これはフェロモン以外のコミュニケーション手段を得たためと考えられる。
・さらに現在進行形で退化しつつある器官として足の小指が考えられるという。脳のボディー感覚では既に足の小指は存在が無視されており、それがやたらに足の小指をぶつける原因と考えられるとのこと。
・ただし虫垂のように退化した盲腸として不要のものと思われていたら、大腸ガンを抑止する免疫系に働いていたなどのように別の機能を有する場合も存在する。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・番組中でフェロモンが人間にもあるかどうかが議論になってましたが、まあ普通に考えてないでしょうね。どんな美女でも見た途端に男がすべて生殖行動始めようとするなんてのはいませんから。まあもし存在したとしても、人間は理性で本能抑えつけられるので。

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