6/4 サイエンスＺＥＲＯ「認知症#2 アルツハイマー病は"脳血管障害"!?」

脳血管障害に着目してアルツハイマーに迫る

　前回は脳神経細胞に注目してアミロイドβの蓄積を阻止することでアルツハイマー病を防ぐという研究であったが、今回紹介するのはアルツハイマー病を脳血管障害と捉えて治療法を考えるというアプローチである。

　脳内には極めて多くの血管が張り巡らされている。脳の重量は身体全体の2％ほどだが、その脳で15％の血流量があるのだという。脳は大量の血液を必要とするのである。

　アルツハイマー病で亡くなった患者の脳細胞を光シート顕微鏡(脳血管を立体的に観察できる顕微鏡)で観察したところ、脳血管が随所で閉塞していることが確認されたという。このような脳血管の閉塞が脳機能の低下につながったのではないかという。平均30％ぐらいの脳内の毛細血管が減少したという報告もある。

血管壁にアミロイドβが蓄積して血管が閉塞する

　ではなぜ脳血管が閉塞するかだが、ここでアミロイドβが絡むのだという。国立循環器病研究センターの猪原匡史氏によると、アルツハイマー病患者の脳血管の壁にアミロイドβが蓄積していることが分かったという。脳内で発生したアミロイドβは血管で排出されるのだが、その時に血管内だけでなく、血管平滑筋によって血管の壁の中も通過するのだという。しかし老化などで血管平滑筋の働きが悪くなると、アミロイドβが血管壁内に蓄積、それによって脳血管が狭まって血流が悪くなることで脳細胞が機能低下するのではないかと推測している。

　ではこのアミロイドβ蓄積を防止する方法がないかであるが、超音波を使って治療しようという研究がなされている。国際医療福祉大学大学院の下川宏明氏は低出力パルス波超音波(LIPUS)を使用して、早期アルツハイマー病の治療への適応を研究している。そもそもこの機器は狭心症の治療で細い血管の修復用に考案された装置だが、同じ原理でアルツハイマー病に効果があるのではないかと考えたのだという。超音波で血管に刺激を与えることで、血管拡張作用を持つNOが生成し、それによって血管が修復されるという理論だという。マウスの実験では実際にアミロイドβが減少することが確認されており、2019年に少人数の患者を対象にした治験が実施された。治験参加者によると1年半この治療を受けることで認知症の進行が抑制されたという。ただ目下のところは実験データが少ないことから統計的有意差はハッキリしないようだが、一応抑制傾向はあったらしく、次に参加者を増やしての治験が計画されているとのこと。なおこの装置は国から先駆的医療機器に指定されたとのことで、今後の研究の進展に期待されるところである。

　ちなみにアミロイドβの排出を促すには睡眠と運動とのこと。うーん、私はどっちもダメだわ。

　アルツハイマー病に対して脳血管の側面から迫ったのが今回。正直なところ、前回の「アミロイドβが蓄積して神経細胞が阻害される」よりは「アミロイドβで血管が閉塞して脳細胞が機能低下する」の方が分かりやすいような気はする。なお実際は神経細胞でも血管障害でもどちらか1つだけでなく、複合的に絡み合っているのが真実なんだろうという気がする。ただどっちに転んでもアミロイドβの蓄積が問題ありそうだというところは何となく見えてきたということのようである。

　結局はアルツハイマーは症状が出始めてからでは遅く、若い頃からいかにアミロイドβが蓄積しない生活をしているかに尽きるような気がする。そうなると、若い頃から慢性的に睡眠不足が続いており、コロナ以降ほとんど運動をしていない私の場合、もう既にかなりアミロイドβが蓄積しているような・・・。そう言えば、近年はメッキリと思考力及び集中力が低下してきてます。一生働けと言われても身体も頭も付いてこん。

忙しい方のための今回の要点

・アルツハイマー病について、患者の脳内で細かい血管の閉塞が多数見られたことから、脳血管障害の側面に注目した研究が進んでいる。
・脳内で生成したアミロイドβは脳血管を通して排出されるが、この時に血管平滑筋の働きで血管壁の中も通過する。しかし老化でこの働きが衰えると、血管壁内にアミロイドβが蓄積することで血管が狭くなって閉塞することで脳細胞が阻害される。
・脳の血管を超音波の刺激で拡張することで再生する治療法が研究されており、現在臨床試験が実施されている。