世界遺産誕生のきっかけとなったエジプトの神殿移築作戦
今回はそもそもの世界遺産発祥のきっかけとなったエジプトのアブ・シンベル神殿移築作戦について。
エジプトのアスワンのナイル川のフィラエ島にあるのが紀元前4世紀に立てられたイシス神殿。2つの塔が特徴的なこの神殿はすぐ近くの島から移築したものである。元々の島はアスワンダムによる水位上昇で水浸しになるようになった。そこで鉄板で囲んで排水して、新たな島に移して組み上げたのである。この神殿は花崗岩で出来ており、アスワン周辺は花崗岩で出来ている。ここの石切場からクフ王のピラミッドの石材などが切り出された。ここの石切場には切り出し途中のまま放置された巨大オベリスクも残っている。
アブ・シンベル神殿の移築作戦
アスワンからナイル川クルーズで上流に行くと見えてくるのがアブ・シンベル神殿。この神殿に祀られているのはラムセス2世。65年も在位し、95才でこの世を去ったが、その権威の象徴としてこの神殿を建てた。神殿内では神に擬した王の像が立っている。60メートル奥の部屋には神々と並んで王の像が。王は神となったのである。今の神殿は移築されたもので、移築工事が行われたのが50年前。巨大な神殿を移築する方法として様々な方法が提案されたが、最終的には切り出して輸送する方法が採用された。800あまりのブロックを65メートル上に運んで山ごと移築したのである。なお背後の山は実は張りぼてになっている。
大神殿の隣には王妃のための小神殿がある。内部の壁画は今も鮮やかな色彩を保っている。この神殿桃一緒に移築された。そしてこの神殿の移築がきっかけとなって、世界遺産が誕生することになる。なおアブ・シンベル神殿の奥の部屋には1年に2日だけ光が差すようになっていたが、この仕掛けも再現された。
同様に水没の危機にあったのがアマダ神殿。この神殿は保存状態の良い壁画が残っていたので切り刻むわけに行かず、線路を使って丸ごと2.5キロ移動させることになった。近くのエル・デール神殿も同様に立派なレリーフが残っている。
忙しい方のための今回の要点
・エジプトのアスワンにあるイシス神殿は、ダムによる水位上昇で水没しかけていた島から近くの島に移築したものである。
・またこの周辺は花崗岩の山地で、クフ王のピラミッド用の石材もここから切り出された。
・ナイル川上流のアブ・シンベル神殿はラムセス2世の権威を示すために建てられたものだが、ここもダム建設で水没する危機にあったが、国際的な取り組みで移築されることになった。この時に世界遺産という概念が登場することになった。
・アブ・シンベル神殿は800のパーツに分けられて、65メートル上に移築された。
・アマダ神殿は内部の壁画を損傷させないために、丸ごとジャッキアップして線路で2.5キロ移動させる方法が実行された。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・アブ・シンベル神殿の移築作戦は私も昔聞いたことがあります。そう言えば確かに世界遺産なんて言い出したのもその頃からだったような。
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