教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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5/28 サイエンスZERO「認知症#1 新薬がアルツハイマー病の常識を変える!?」

アルツハイマーの原因物質に作用する新薬登場

 昨年、アルツハイマーの新しい薬が発見され、アメリカで迅速承認されたというニュースが世界を駆け巡った。現在は日本でも承認申請されて審査中だという。この薬は脳内に蓄積したアミロイドβに働きかけるものであり、病気の進行を抑えると期待されている。

 2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると推算されているが、その7割はアルツハイマー病である。新薬はその原因物質とみられるアミロイドβに働きかけることから効果が期待できる。

アルツハイマーのメカニズム(出典:埼玉県済生会川口総合病院HP)

 新薬の対象となるのは初期のアルツハイマー病である。レカネマブという薬で、治験によると27%進行抑制の効果が見られたという。これは重症化を2~3年遅らせることが出来ることになる。脳内のアミロイドβは通常は短時間で分解・排出されるのだが、アルツハイマー病ではその働きが衰えてアミロイドβが分解されずに脳内に蓄積、それらが繊維状に集まって最終的に神経細胞を死滅させるというのが、アルツハイマー病のアミロイド仮説である。レカネマブはこのアミロイドβの周辺に引っ付いて、マーカーとして免疫細胞を引き付けたり、アミロイドβのさらなる凝集を防ぐのだという。実際に治験後の脳内からはアミロイドβが減少したという。

 

 

レカネマブ開発の経緯

 アミロイドβがアルツハイマー病の原因であるのではないかということは、かなり前から(120年前に既に観察されていた)言われていたが確証がなかったという。2000年、アメリカの医療ベンチャーのデール・シェンク博士がアミロイドβを注射して免疫に敵と認識させるワクチン療法を試したところ、マウスの実験でアミロイドβが消えることが確認された。しかし人への治験で298例中18例に重い副作用が出ることが分かって治験は中止された。そこでそれをベースに薬の開発が進んだが、承認までこぎ着ける薬はなく、アミロイドβは消えるものの症状が改善された例がなかったという。

 もしかしてアミロイドβでないのではという疑問までが出てきたところで、アミロイドβは症状が現れる20年前から蓄積するということが判明し、神経細胞の死滅も発症の10年前から起こることが分かったという。つまりは発症してから薬を投与したのでは遅すぎたということになる。さらにスウェーデンでの研究で、代々アルツハイマーを発症する家系で特有の遺伝子変異が見つかった。その遺伝子があるとアミロイドβが塊の前段階のプロトフィブリルを多く合成し、これに高い毒性があることが分かった。そこでこれを標的にして開発したのがレカネマブだという。

 

 

早期発見のための取り組み

 治療のポイントは早期発見だが、まず方法としてはPET検査という脳内のアミロイドβの蓄積を画像化する検査があるが出来るところが少なく高価だという(上で引用した埼玉県済生会川口総合病院はこの検査が出来る模様)。また脳脊髄液を採取して測定する方法もあるが、大がかりであり患者の負担もあるという問題がある。そこで新たな検査方法も研究されている。血液バイオマーカー検査という血液検査が開発されている。これはあの田中耕一氏が率いるチームが開発したものだという。血中からアミロイドβ42とそれに似た物質のAPP669-711を検出して比較するのだという。アミロイドβが脳内に蓄積され始めると血中のアミロイドβ42の比率が低下するのだという。この比で高い精度で脳内のアミロイドβの推測が出来るのだという。さらに認知症について自宅で簡単にできる13項目のテストなども開発されており、本人がテストしてもこれで初期症状を捕らえることが出来るという。

 

 

 どうやらアルツハイマー病の根本原因に作用する可能性のある薬と言うことで、かなり将来性に期待できそうである。もっとも初期でないと駄目となると、ある程度進行した場合はどうするのかという話があるが、どう頑張っても死滅した脳細胞を再生することは不可能なような気はする。

 もっともこの薬もあくまで「進行を遅らせる」ものであるので、結局はアルツハイマーは進行するようである。これが20~30年ぐらい遅らせるなら、実質的に病を抑えたということになるが、今は2~3年と微妙なところのよう。やっぱりアミロイドβ以外にもポイントになるものがあるのかもしれない。

 なお現在日本で承認申請中とのことだが、問題は保険適用になるかどうかである。高価な薬だけに保険適用を渋る可能性もなきにしもあらず。そうなると医療にまで大きな格差が生じる可能性がある(今の政府なら多分にそうする可能性は高い)。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・昨年アメリカで、アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβに直接作用する薬が承認され、日本でも承認申請中である。
・アルツハイマー病の原因は、脳内にアミロイドβが蓄積することで脳細胞が死滅することによると推測されている。
・この薬(レカネマブ)はアミロイドβに作用することで、アミロイドβの凝集を阻止して排出を促すという。
・ただしアミロイドβはアルツハイマー病の症状が出る20年前ぐらいから蓄積が始まることが分かってきており、初期に投与しないと薬の効果が少ないことも分かっている。
・脳内のアミロイドβ蓄積の検査として、血液検査による方法が研究開発されている。
・またアルツハイマー病の診断のための簡易なテスト方法なども考案されている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・まだこの薬は1つのキッカケという気がするので、ここからさらなる薬の開発を期待したいところです。また認知症に関してはレビー小体型なども無視できないので、そちらの研究も期待したいところ。

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