教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

6/18 サイエンスZERO「"線状降水帯"の予測最前線 豪雨激甚化時代に命を守れ!」

線状降水帯の発生メカニズムを探れ

 近年は地球温暖化の影響もあって、豪雨災害が急増している。これらの豪雨の原因として指摘されているのが、同じ地域で連続的に積乱雲が発生して膨大な降雨量をもたらす線状降水帯の存在である。

豪雨災害が増えている

 昨年、線状降水帯の発生を事前予測して避難を呼びかける試みが開始された。しかし予測できたのは11回中3回で、見逃し率は70%という厳しい数字が出ている。線状降水帯は未だに発生メカニズムがハッキリしないことから、予想が非常に難しいのだという。

 三重大学の立花喜裕氏は線状降水帯などの気象メカニズムの研究を行っている。彼が線状降水帯の発生メカニズム解明のために、線状降水帯の発生源として目をつけたのは黒潮だという。線状降水帯を発生するための大量の水蒸気と上昇気流が生まれるのは温かい海流である黒潮でないかということである。そこで黒潮を観測船を所有する三重大学、鹿児島大学、長崎大学で連携して同時に観測するというプロジェクトが実施された。

 

 

線状降水帯の原因となる「水温の崖」

 海水温の観測、ラジオゾンデによる大気中の水蒸気量の測定などを実施した結果、黒潮の中と外では今までに予想されていたよりも水温の変化が非常に激しいということが分かったという。これが水温の崖の両側で暖かい空気と冷たい空気が生まれ、暖かに空気が冷たい空気の上に乗り上げることで上昇気流が生じ、この時に積乱雲が発生するのではないかと推測された。

 ただ水温の崖は黒潮に常に存在するわけであるが、線状降水帯が常に発生するわけではない。だから他にも重要な条件があるはずであり、これらの要素の解明は今後の課題だという。

 線状降水帯の予測には雨量の予想が必要である。このためには水蒸気量を観測する必要があり、気象衛星を用いた観測が行われている。ただ気象衛星による観測は高度が分からないので、一番重要な水面付近の水蒸気量が不明なのだという。そこでマイクロ波放射計による上空の水蒸気量の観測なども行われているが、これは海上では出来ない。そこで気象衛星の改良が試みられている。

 ひまわり10号に搭載予定の赤外サウンダは赤外線で衛星から気温と水蒸気量の鉛直分布が測れるのだという。これで水蒸気量を三次元的に捕らえられるので、線状降水帯に流れ込む水蒸気量が測定できるという。これに気温のデータなどを加えることで大気の安定性なんかを測れるので、予測の精度が劇的に向上することが期待できるという。

www.nikkei.com

 

 

 やっぱり現在実際にかなりの被害が出ている分野だけに、かなり急ピッチで研究開発が進んでいるという印象である。線状降水帯の雨とはバケツをひっくり返したような雨が長時間降り続くということになるので、通常の河川などはひとたまりもなく溢れるし、都会においても内水氾濫などが起こって大混乱になる(地下街などが水没して死者が出ることなんかもある)。線状降水帯の予測は非常に望まれる分野である。

 気象予測の進歩で、天気予報の精度はこの数十年で劇的に向上したが、まだ局地的な不安定な要素が存在するので、完全に予測はまだまだ難しいところがあるという。結局は気象についても最後はカオスな部分が残るのだろうと思われる。その辺りをどう決着付けるかという話はこの問題でもついて回りそうな気はする。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・豪雨災害をもたらす原因となる線状降水帯の発生予測の研究最前線を紹介する。
・線状降水帯の発生予測が困難なのは発生メカニズムが不明であるからである。そこで黒潮が発生源になるという仮説の元で、三大学の観測船を動員しての観測が行われた。
・その結果、黒潮の内外では水温の急激な変化(崖)が存在し、そのことによって上昇気流が発生していると推測された。
・線状降水帯を予測するには水面付近の水蒸気量の測定が必要だが、現状の気象衛星による観測では高さの要素が不明であるという欠点がある。
・そこでひまわり10号からは赤外サウンダを搭載して、水蒸気量や気温を三次元的に捕らえることが可能になる。これで線状降水帯に流れ込む水蒸気量などを推測できるという。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・本当に気象予測に関しては進歩がめざましいと感じます。地震予知もこのレベルで出来るようになれば良いんですが、こちらは表に現れる気象よりもさらに難しいようで。

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