教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

7/2 サイエンスZERO「跳躍的進化のカギ!?生物の"盗み"戦略」

他の生物の遺伝子を「盗む」!?

 生物の進化において、他の生物のDNAや機能を盗むことによって飛躍的な進化を遂げる例があるということが分かってきたという。

 まず我々人類であるが、ヒトゲノム解析の結果分かってきたのは、その9%ほどはウイルス由来のものであるということである。東京医科大学の石野史敏氏らは哺乳類のウイルス由来の11種の遺伝子について機能解析などを行ってきた。その中でPEG10という遺伝子は胎盤の形成に不可欠であるということが判明した。PEG10にはウイルスが持つ自身の構造を作る遺伝子や酵素を作る遺伝子の配列がそのまま含まれている。哺乳類の祖先はこれらの遺伝子を入手することで胎盤を形成できるようになり、哺乳類へと進化したのだという。なおこれらの遺伝子の感染源はレトロウイルスでレトロウイルスは自身の遺伝子を増殖のために細胞の遺伝子に潜り込ませるためであり、生殖細胞などが感染した場合には子孫にもその特徴が受け継がれることになる。また初する由来遺伝子の中には脳を守る働きのあるものも存在するという。

 このような遺伝子の盗みは非常に多く、これが生物の飛躍的進化をもたらしているという。またウイルスだけでなく、バクテリアやカビ、または他の動物から盗む例もあるという。ネムリユスリカの乾燥に耐える能力は土壌細菌から獲得したという。また寒い海で暮らす魚の不凍性タンパク質を合成する能力が、ニシンの仲間からワカサギの仲間に移ったことも分かっているという。このような遺伝子の移動は意外と起こっているという。

 

 

機能を丸ごと盗んだり、タンパクを取り込んだり

 また他の盗み方も分かってきた。ウミウシの仲間のチドリミドリガイは動物でありながら光合成ができることで知られている。そこでその遺伝子を調べたが光合成に必要な遺伝子は全く見つけられなかったという。そこでチドリミドリガイを観察したところ、藻から葉緑体を食べて身体に取り込んでいたのだという。しかし単に葉緑体を取り込んだだけならすぐに光合成能力がなくなるが、チドリミドリガイは最長10ヶ月も光合成が可能である。そこでさらに調査したところ、光合成をしている部位で抗酸化作用を持つタンパク質の合成が活発化していたという。ここから葉緑体が活性酸素を生み出すことで光合成に必要な物質を破壊してしまって光合成が続けられなくなるに対し、そこで抗酸化タンパク質で活性酸素を除去することで光合成が長続きするのではないかという。

 キンメモドキという夜行性の魚は暗がりでお腹が光る機能を持っているが、これは下から見た時に月明かりに溶け込んで身体を守るためだという。しかしその発光メカニズムは謎だったのだが、最近になって解明されたという。キンメモドキは発光タンパクを持つウミホタルを餌として食べ、その発光タンパクを取り込んで利用していたのだという。ただ通常は口から摂取したタンパク質は分解されるので本来の機能を失う。しかしキンメモドキは発光タンパクの機能を残せるということで、このメカニズムについてはまだ研究中とのこと。これが解明できれば、例えばインスリンは口から摂取しても分解されるが、それを阻止して口から飲めるインスリン薬を作るなどの医療への応用が期待できるという。

キンメモドキの発光

 

 

 以上、生物が他者の機能を「盗む」ことで進化するというお話。胎盤の遺伝子については今まで他の番組でも言われていたことであるのでよく覚えているが、これ以外でもマダニの一種が恐竜から血管拡張ホルモンを合成する遺伝子を盗んでいたという話がヒューマニエンスで登場していたことを思い出す。

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 また遺伝子を盗んで自身がその機能を持つというよりももっと手っ取り早い方法として、組織ごと取り込んで活用するという方法もあるというのは面白い。なおタンパクを取り込んで利用するということに関しては、餌から毒を取り込むフグやら蛇の例が良く知られている。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・動物が進化の過程で他の遺伝子を取り込むことで飛躍的な進化をする例があることが分かってきた。
・実際に我々の遺伝子も約9%がウイルスから獲得したものであることが分かっている。
・その中でもPEG10という遺伝子は胎盤を作るのに不可欠の遺伝子であり、この遺伝子を獲得したことで哺乳類が誕生した。
・また遺伝子を取り込むのでなく、チドリミドリガイは藻の葉緑体を取り込むことで、自身で光合成する能力を獲得している。通常は葉緑体だけだとすぐに光合成能力を失うが、チドリミドリガイでは抗酸化タンパクを使用することで、葉緑体の光合成能力を長持ちさせているという。
・さらにキンメモドキという魚は、ウミホタルを食べることで発光タンパクを取り込んで、身体を光らせることが分かった。通常口から摂取したタンパクは分解されるので機能を失うが、キンメモドキは何らかの作用によって発光タンパクの機能を保ったまま体内に取り込んでいるという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・何か他の生物の機能を体内に取り込んで自己進化していくスーパークリーチャーみたいなものを連想してしまった。生物は本来はそのような性質も持っているということか。もっとも結構無差別に取り込んでいる印象なので、実は不要なものもかなり取り込んだのではという気も。

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