教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

6/20 BSプレミアム ヒューマニエンス「"虫"地球のもう一つの主人公」

環境適応力が抜群な虫

 今回の主人公は、苦手な人も少なくない(かく言う私も苦手だ)虫。小さい存在感の少ない生物であるが、100万種以上が存在し、地球の動物の中では実は最大勢力であるという。しかも我々が生きていける環境を作ったのは虫だという。この虫について考察する。

 虫は我々脊椎動物とは異なった進化の過程を辿った生物である。とにかく種類が多いのが特徴で、全動物175万種のうち、昆虫で100万種いるという。環境に合わせて多種多様な進化を遂げているのが特徴である。この進化にとんでもない事実が絡んでいたことが見えてきたという。

 大阪大学の岩永史朗教授によると、2014年にアフリカに住むマダニの一種・オルニソドロス・ムバタがとんでもない方法で進化したことが判明したという。このダニは血管拡張ホルモンを持っているのであるが、そもそも身体に血管がないダニが血管拡張ホルモンを持つというのはあり得ないことである。そのホルモンを作る遺伝子について解析したところ、なんと2億年前に恐竜からこの遺伝子を獲得したことが分かったという。このダニはこのホルモンを使って取り憑いた動物の血管を拡張して、血を吸いやすくしていたのである。とにかく様々な方法で進化をして環境に適応するのが虫の特徴で、しかも短命で世代交代が早いと言うことも進化の速度に結びついている。

実はこの時にDNAが盗まれているかも?!

 

 

いち早く陸上進出し、文明の基礎も作った

 脊椎動物が陸上進出したのは4億年前だが、虫はそれよりも早く4億8000万年前、陸上が不毛な乾燥した大地で植物は水辺のコケ類に限られていた時代に上陸をしている。この時に上陸を果たしたのが体長2ミリほどのトビムシである。この後、虫は植物と共に相互進化をしたのだという。羽を持つ虫が登場したのが4億年前、この頃になると背の高いシダ類が現れていたので、それに対応した進化であるという。植物はこの後さらに巨大化、そして1億3000万年前に蝶や蜂などが登場した時期には植物は花を咲かせて虫を利用するようになっていたのである。また一貫して虫は動物にとってのタンパク源でもあったという。なお他の動物が巨大化したのに対し、虫が巨大化できなかったのは酸素取り込みの効率が良くないことが原因だが、逆に小さい身体を保つことで小さな環境に対応することも出来た側面もあるという。

 また人類が文明を築くために不可欠だった虫がいる。それがミミズ。ミミズは枯れ葉などを食べて糞を出すが、この糞が窒素やリンなどの植物にとって不可欠の成分を含んでいる。しかも団粒上の塊になることで、その隙間に根が張りやすく、さらに水を保つことが出来るようになるのだという。ミミズは作物を育てるのに適した土を作ってくれて、これによって我々の農耕文明は成立したのである。

 

 

昆虫の能力の活用と昆虫の集合知

 さらに昆虫の能力を利用しようという研究もある。東京大学の神崎亮平氏はカイコガのフェロモンに反応する触角の受容体の能力を活かして、フェロモンの臭いに反応するドローンを作り出した。我々の嗅覚は多種多様な臭いに反応するようになっているので、大量の臭いが混ざり合ったような災害現場では、救助犬なども臭いに攪乱されて犠牲者を探し出すことが困難だという。しかし虫の嗅覚の場合は単一物質に対して反応するので、シンプルかつ高感度なのだという。なお先のドローンはカイコガの触覚を導電性のジェルで接続しただけである。触覚の受容体に目的物が結合した時に発生する生体電流を検出しているのだという。様々な物質に対する嗅覚受容体を用いれば様々な対象が検出可能になり、麻薬捜査犬やトリュフを探す豚に取って代われるのではないかという。

 また虫の独得の知能の形態として集合知というものがあるという。例えばミツバチの場合、個体を超えた知恵のネットワークのようなものが考えられるという。分蜂(巣分かれ)の際、その候補地は女王蜂が決めるわけではなく、まず多くのミツバチが各地に偵察に飛び立つと戻ってきて情報を伝え合うのだという。そのやりとりを何度も繰り返し、最終的に多くのミツバチが集まった場所を候補地に定めるのだという。個々のミツバチの脳は小さいが、集団で1つの脳のように働くのだという。

 

 

 以上、ヒトとはかなり遠い生物である虫について。ダニが吸血するのは当然として、そこからDNAまで盗んでいたとは驚いた。また陸上進出も脊椎動物よりも先行しているというのは、確かに言われてみればそれもありそうと思えるが、番組中でも言っていたように、生物の陸上進出と言えばトカゲのような奴がのっそりと地表に上がってくるというイメージ映像の印象が強烈なせいで、虫に先行されていたという感覚はなかった。

 なお織田裕二氏がサラッと言っていたが、昆虫は巨大化できなかったと言いつつも、全幅70センチぐらいの巨大トンボの化石は見つかっているようだから、そのぐらいまではなれたようである。ただ多分、身体が大きくなることが必ずしも生存に有利にならなかったから、結局は昆虫は小型化したようにも思われる。

 クレオパトラがミミズの重要性に気付いていたというのもなかなか面白い話で、古代エジプト時代からミミズが土を作ることは知られていたということである。確かに豊かな土壌にはミミズが暮らしているもので、ミミズも暮らせないような土地では土壌は生まれない。日本ではミミズなんかどこでもいるが、どうやら世界的にはミミズが暮らしている場所は限られていて、いわゆる農業地域ともろに被るらしい。もっとも最近は化学肥料と農薬がミミズの生存環境も脅かしているとの話もあり、懸念されるところである。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・全動物175万種のうち、昆虫で100万種というように、地球上には環境に適応した様々な無視が存在している。
・アフリカに住むマダニの一種・オルニソドロス・ムバタは2億年前の恐竜から、血管拡張ホルモンを生成するDMAを盗んでそれを利用していた。虫はこのような手段も用いて環境に適応していったと考えられる。
・また脊椎動物が陸上に進出する以前に虫は地上進出を果たし、コケなどを食べて生きていた。その後、虫と植物は互いに作用し合いながら進化を続けて行っている。
・さらにミミズは農耕文明発生のために不可欠の虫だった。ミミズの糞は優れた肥料であるだけでなく、土壌改良効果も持っている。
・昆虫の嗅覚センサーを利用して、高感度センサーを作る研究も進んでいる。昆虫の嗅覚センサーは単独物質としか反応しないので、他の臭いに攪乱されないのだという。
・ミツバチなどは個々の脳は小さいが、群れ全体でネットワークとして働き、1つの脳をなすように行動するが、これを集合知という。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・ミツバチの集合知の話が出ましたが、ミツバチは実は群れが1つの生命なのではという考えもあります。とにかく群れのためには一部の個体を平気で犠牲にしますので。もっともこれに倣って国民を国のために犠牲にさせたがる政治家もいますが、自分は犠牲の可能性がないようにしているのが、ミツバチと違って卑怯なところです。

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