人類進化のグレートジャーニーの原動力
今回のテーマはアフリカに発祥した人類が、全世界に拡散していったグレートジャニーについて。何が彼らを駆り立てたのか。
アフリカから人類が拡散したのは5万年前だという。ホモ・サピエンス以前の人類も拡散はしているが、その到達範囲はずっと狭い範囲である。人類がそこまで拡散したのは新規性追求の遺伝子が人類に存在するのだという。現在、この遺伝子を探す研究がなされており、メダカを使った研究によると、広く分布する南日本メダカの方が、生息域の狭い西韓国メダカよりも水槽の実験では障害物を越えて先に進んだという。そこで遺伝子を調べると新規性追求に関わりそうな9つの遺伝子が冒険遺伝子と考えられたという。実際にこの遺伝子を働かなくしたら、メダカは水槽の先に進もうとしなくなったという。
人類の進化がグレートジャーニーを後押しした
またヒトは住む場所を変えて生活することが出来るが、これは生物としては異常だという。本来生物は住処を変える時には、環境に合わせて身体を変化させる必要がある。実際に北方に移住した動物は毛を増やすなど寒さに対応する進化をしている。これに対してヒトは身体を基本的には変化させていない。それはヒトは縫い針で毛皮を縫って衣服を作ることで環境に対応できたので、身体を変化させる必要がなかったのだという。ヒトはこの発明によって劇的に生息域を広げることが出来たのだという。
グレートジャーニー成功の鍵が日本で見つかっている。三浦半島にある3万年前の船久保遺跡では等間隔に並んだ穴が発見されている。これは獲物を捕らえるための落とし穴だという。深いもので2メートルもあり、落ちた獲物が逃げにくいようになっているという。これは将来を見越して罠を張るという狩猟法が取られていたことを示している。密林などでは従来の平原での狩りと違って、槍などの武器が使いにくかったことから、未来予測を行って罠を仕掛けるようになったのだという。さらには2万3千年前の貝殻から作った釣り針も発見されている。これも水中の魚という未来を予測してのものである。この未来予測が出来るというのもホモ・サピエンスの進化であるという。
さらにホモ・サピエンスはマルチタスク能力を持っているが、これもグレートジャーニーの成功に関係しているという。およそ4万年前にホモ・サピエンスが発明したとされるコンポジットツールが見つかっているが、これは骨を加工して鋭い石器の刃(細石刃)を取り付けた複合道具である。黒曜石などを使用した刃は非常に鋭い上に耐久性も高く、それまでの石器などに比べると各段に性能が高いという。ただこれを製造するには多段階の行程と多種の材料が必要なので、マルチタスクを実行しないと製造が出来ないという。
またこのような複雑な道具を作る技術が伝わるには、集団の規模がそれなりに大きいことが重要だという。そのような大規模集団を作れたのも、ヒトのプランニング能力によるという。
実は旅そのものが人類の喜びなのかも
なお移動そのものが喜びにつながるという考えもある。実際に実験によると移動の多い日ほど幸福感が高まるという研究結果が出たという。
以上、人類進化の劇的イベントであるグレートジャーニーの原動力が何だったかというお話。私は人類特有の好奇心もあると思うが、単純に同じ場所に居続けると食糧が枯渇するという問題があったのではと考える。それに世界中に広がる旅も、自分一代で行うのならとんでもない大冒険だが、期間が長いのでそれを世代で割ると、一世代当たり数十キロという話も出ており、それだとちょっと隣の町まで移動するぐらいの感覚である。それぐらいだったら多分、兄弟同士が自立した時に住処を分けるなどでもその程度の移動は重ねていったような気がする。
なお移動そのものが喜びにつながるという習性は、まさに現在の私が日々痛感している。諸般の事情による急激な財政事情の悪化で、主に移動が大きな制約を受けるようになっているのが現状であるが、その状況は予想以上に私の精神的ストレスに直結しているのを日々感じるところである。私の本質はどうやら旅人にあったようである。
ところでこの番組、この春の改変で一旦終了して、今後は不定期の特番の形で放送されることになるという。最近はネタ切れが著しく、とにかく再放送が異常に増えていた現状を考えると大体予想の範囲とも言えるところでもある。番組製作能力の衰退も著しい近年のNHKでは、番組のレベルを保つためにも仕方のないところではという気もする。
忙しい方のための今回の要点
・5万年前、人類が全世界に拡散をしたグレートジャーニー。その原動力の一つにはヒトが持つ好奇心の遺伝子があるという研究報告がある。
・またヒトは縫い針を発明して衣服を纏うことで、環境に合わせて身体を進化させる必要なく居住地域を広げられるようになったこともグレードジャーニーの成功に直結している。
・さらにホモ・サピエンスは未来予測能力を持ち、罠を使った猟や釣り針を使った漁などが出来るようになったことも、それまでの草原環境と異なる環境に適応出来る原動力となった。
・またヒトがマルチタスク能力を持つことで、コンポジットツールのような高性能だが複雑な道具を作ることが出来たことも成功に直結している。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・人の本質は旅にあると言った古人もいた記憶があるが、まあ人は旅を求めるところはあるでしょう。冒険という大層なものよりも、獲物を求めて新天地に自然に広がっていったというようなところではという気もします。
前回のヒューマニエンス