燃料デブリの取り出しが暗礁に乗り上げている
現在、廃炉への最大の課題となっているのは燃料デブリの取り出しである。昨年、ロボットアームによる初の試験取り出しを試みたが、ロボットアームを入れるべき穴が堆積物で塞がっていることが判明、廃炉のスケジュールが大きく狂うことになった。果たしてこれにどう対処するのか。
燃料デブリとは2000度以上になったウランなどの核燃料がコンクリートなどを巻き込んで固化したものである。極めて強い放射線を発するために人間が近づくことが出来ないので、ロボットなどによる作業が検討されてきた。燃料デブリの量は880トンもあると見られるが、現在のところはまだ全く取り出しが出来ていない。当初予定では2021年の12月には取り出しを開始する予定だったが、既にこのスケジュールは破綻している。ロボットアームの開発に想定以上の時間がかかってしまったのだという。
X6ペネトレーションという貫通孔を使って格納容器内にロボットアームを入れる予定で、7年かけて開発を行ったという。今まで動作確認などを行っていたのだが、昨年10月に試験取り出しのために蓋を開けてみたら、堆積物で貫通孔が塞がれていて、ロボットアームが入る余地がなかったのだという。さらにロボットアームには精度の問題もある。複雑な炉の中を周囲に接触させずに動かす必要があり、もし途中でロボットアームが引っかかって進退窮まると一大事なので、ロボットの精度及び操縦の困難さが問題であるという。
そこでデブリの取り出しとしては上からつり下げてデブリを取り出す釣り竿方式も検討されているという(と言うものの、取り出せるのは数グラム)。デブリのサンプルをまず採取して、その性質を調査しようというのである。
模擬デブリを製造してデブリの性質を推測
またデブリの性質を調べる実験として、放射線をほとんど出さないウランと金属やコンクリートを混ぜて2500度の高温で加熱して模擬デブリを製造したところ、溶岩のようなものやら金属のようなものまで様々なタイプの模擬デブリが生成したという。取り出す場合にはこれらに対応した装置も重要であるという。
さらに燃料デブリを取り出しても、それを安全に保管することに問題がある。そこで模擬デブリを用いた実験が行われている。デブリは二酸化ウラン、ジルコニウム、ステンレスなどが混ざり合ったものであることが分かっているが、長時間水にさらされたことで放射性物質が水に溶けやすくなっている可能性があるという。そこで模擬デブリで実験したところ、二酸化ウランとジルコニウムが固溶化していることが分かり、固溶化によって安定化するので水中にウランが溶け出す可能性は低いと推測出来たという。
さらにデブリの大規模取り出しの際の工法も検討が進んでいる。デブリが空気中に露出した状態で取り出す気中工法は現場の状況を多く変える必要がないが、放射線を遮蔽するするものがないので安全性に問題がある。さらに原子炉を建物で覆って水を張る冠水工法も検討されているが、構造物の建設及び大量の汚染水の発生に問題がある。そして最後は充填固化方法で、格納器にセメントなどを入れてデブリごと固めて砕いて取り出す方法で、充填剤で放射線を遮蔽出来るが、充填剤自身も放射性廃棄物になってしまう問題がある。目下のところ国の研究機関は、気中工法に充填固化工法を組み合わせた方法を軸に検討すべきと提言したという。
以上、燃料デブリの取り出しについてだが、要は現段階では机上の空論ばかりで未だ現実的な解決はほとんどなされていないということのようである。さらにはデブリを取り出してもそれをどこで保管するかの問題がある。当然ながらどこもそんな厄介なものを抱えるのは嫌であり、福島県も県外への移設を主張しているという。そこで私の提言だが、やはり危険な放射性廃棄物は常に監視しておく必要があるし、原発についての受益者負担という観点からも、東京の東電の本社ビル内に保管するのが一番妥当であると考える。何が一番不味いと言っても、地中などの目の届かないところに放置してしまうのが一番マズく、放置のうちに容器などが破損して地下水の大規模汚染などが発生してから大事になるというのがオチなので、やはり常に人目のあるところに置いておく必要があると考える。そういう点では東電本社内が最適だろう。東電にはこれらが無毒化する1万年先まで管理する義務があるのだから。なお東電だけに押し付けるのが問題だというなら、当時原発を積極的に推進した(そして今も推進している)自民党の党本部にも一部を保管してもらおうか。
忙しい方のための今回の要点
・ロボットアームを用いた燃料デブリの取り出し試験を昨年実施しようとしたが、ロボットアームを通すはずの穴が堆積物で塞がれていて頓挫した。
・またロボットアームを複雑な原子炉内部に侵入させるには、アームの精度にまだ問題があるので、炉の上からの釣り竿方式で取り出すことも検討されている。
・燃料デブリの性質を調べるために、模擬デブリを製作して試験したところ、二酸化ウランはジルコニウムと固溶化して安定化する可能性があることが分かった。
・大規模取り出しの工法として気中工法、冠水工法、充填固化方法が検討されたが、国の研究機関は気中工法に充填固化方法を組み合わせるべきと提言した。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・結局は「まだ何も全く進んでいない」というのが現状のようです。そもそも880トンのデブリを数グラムずつ掻きだしていたら一体いつまでかかるんだとのこと。
・それにしても福島原発の問題さえまだ解決してないのに、原発推進しようとする政府だけは正気を疑うわ。利権のためなら日本が滅んでも良いって考えだろうな。
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