教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

3/10 サイエンスZERO「シリーズ原発事故(1) 最新報告 汚染水・処理水との戦い」

増加し続ける汚染水

 事故発生から13年が経っても一向に廃炉作業が進まない福島第一原発の現状を報告。

 廃炉作業を阻む障害の大きなものの1つが汚染水の問題である。既に敷地は1000基以上のタンクが立ち並んでおり、これを解消するために処理水の海洋放出3万トン(タンク30基分)を行ったが、今でも1日90トンの汚染水が生まれているので、結局は減らせるタンク数は10基に過ぎないという。

敷地内に立ち並ぶ汚染水タンク(2019年)

 汚染水の増加を防ぐためには地下水の浸入を防ぐ必要がある。福島原発は丘を削って作られたために、建屋のすぐ下を地下水が通っているのだという。事故直後に1日500トンだった地下水を減らすために、サブドレインという井戸から地下水を汲み上げたり、凍土壁の構築によって地下水の流入を防ぐなどしたが、それでも今でも90トンの地下水の浸入があり、既に対策はなくなってきている。現在は敷地をモルタルで覆うフェンシングや建物間ギャップ止水などの細かい防水を行っており、2028年までに1日50トン程度にまで減らしたいとしている。

 

 

トリチウムの問題とスラリーの処理

 汚染水の処理に使用されるのがALPSであるが、これではトリチウムが除去出来ないので薄めて海洋放出しているのが現状である。このトリチウムを除去する研究も進められている。東京理科大学の安藤静敏教授はカーボンのナノ粒子を使って、電気分解で発生したトリチウムを取り込ませるという方法を試している。現在、トリチウムの3割を除去することに成功した・・・とのことであるが、電気分解というのは相当に効率が悪いような気がするのであるが。

 またALPSによる処理で発生する汚泥状のスラリーの処理も問題となっている。高い放射能を有するために処理が問題であり、現在は容器で保管しているがその劣化によって漏洩の危険が発生しているという。そこで電力中央研究所でスラリーをセメントで固める研究が行われている。放射性物質の大部分をセメントで安定化させようという試みだという。しかし実験ではセメントがスラリーと混合した途端に固まってしまうという問題が発生した。原因を調査したところ、炭酸ナトリウムのせいでセメント粒子にトゲが生えて、固まりやすくなってしまったのだという。そこでセメント粒子の表面に膜を張る物質を加えることで早急な固化を防ぐことにしたという。

 

 

 以上、汚染水の処理技術であるが・・・まだまだだなという印象。結局はザンザンと海にそのまま捨てることを目論んでいるのではという気がしてならない。また汚染水の問題はトリチウムだけではないので、トリチウムを除きさえしたら安全という単純なものでもない。

 またスラリーの固化にしても、それが上手くいったらスラリーが容器から漏れ出すというのは防止出来そうだが、高放射線を出すセメントの塊をどう保管・処理するんだという最終問題は解決しない。そもそも放射能を中和するような技術でも登場しない限り、東京電力が今後1万年に渡ってこれらを管理するのかという話になってくる。この辺りは何も福島原発に限らず、原発全てに共通する問題なのであるが。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・福島原発では汚染水を減らすために井戸による地下水汲み上げや凍土壁などの対策を打って1日500トンから90トンまで地下水を減らしたが、そろそろ有効策がなくなりつつある。
・敷地表面をセメントで覆ったり、建屋の隙間をセメントで埋めるなどの方法が行われており、2028年に50トンにまで減らしたいとしている。
・またALPS処理で残るトリチウムも問題となっている。現在は薄めて海洋投棄されているが、批判も多い。そこでカーボンに吸着する方法が研究されているが、実用化にはまだ問題もある。
・またALPSで生まれた高放射能を持つスラリーの処理も問題となっている。現在は容器で保管しているが、容器の劣化で漏洩の危機が発生している。そこでスラリーをセメントで固めて安定化する研究が進められている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・原発って最初から「下水のないマンション」といわれていて、廃棄物処理のことを考えずに出発してるんですよね。だからそれが端的な形で破綻したのが今回の福島原発ってことで、実際はいずれはどこの原発でも出くわす問題だったりする。先のことを考えずに、目の前の利権だけを優先させたツケが来ているわけである。

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