教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

3/3 サイエンスZERO「現代の錬金術!?"多元素合金"」

多元素合金を自在に作る新技術

 様々に利用されるのが合金。金属原子を混ぜ合わせることでそれまでにない性能が発現することが知られており、様々な用途に使用されている。最近には8元素を混ぜた多元素合金なども登場しているという。今回は合金最前線を紹介する。

 合金は様々な金属を混ぜ合わせるというが、実は混ぜてみても混ざらない例が実に多い。今回はそのような従来の手法では混ざることのなかった金属を互いに混ぜ合わせる方法を見つけたという。京都大学の北川宏教授は今までは混ざらないとされていたパラジウムと白金を混ぜることに成功したのだという。その発見のキッカケは混ざらないからとパラジウムの表面に白金を付けようとしたのだが、実験を行っているうちに表面に付けただけの白金が混ざっていたことが分かったのだという。そこで次にロジウムと銀に挑戦。従来は双方のイオンを混ぜて還元しても、還元されやすい銀が先に析出して凝集するので合金にはならなかったという。しかし霧吹きを使って混合溶液を高温の溶媒に吹き付けたところ、双方が混ざった合金が生成したのだという。溶媒中で溶液が一気に還元されることで合金が出来たのだという。この方法は応用が利き、Ru,Rh,Pd,Ag,Os,Ir,Pt,Auの8種を混ぜた合金を作成したという。

なんと、これで多元素合金が出来てしまったとか

 高知工科大学の藤田武志教授はさらに14種類の多元素合金を作成したという。彼はアルミニウム87%に13種の金属を1%ずつ加えたリボンを水酸化ナトリウムで溶かし、アルミを溶け出させて乾燥させると均一に混ざった多元素合金が生成するのだという。アルミが溶け出して行くにつれて、その空いた空間に金属原子が移動してくることで合金になるのだという。

 

 

多元素合金で新たな触媒を開発する

 なおこのような合金は従来になかった性能を示すことが期待されている。先のロジウムと銀の合金は水素を大量に吸収することが分かったという。なお周期律表で両元素の間に位置するパラジウムは水素を吸収するので、その両側の元素を合金にするとパラジウムの性質が出たのだという。これらが一番期待されているのは触媒の分野で、Ru,Rh,Pd,Ir,Ptの5元素合金で水を電気分解すると従来の白金の倍の性能を示したという。そして先ほどの8元素合金になるとなんと10倍以上の性能になったという。

 ただ60種類ぐらいの金属を組み合わせるとなると、5種を組み合わせるだけで500万通り以上になる((60×59×58×57×56)/(5×4×3×2×1)=5461512の計算である)なので人間が考えるのは不可能に近い(ちなみに原子数を限らなかったら2の60乗なので100京を超える)。そこでAIで組み合わせを検討する試みもなされている。ベイズ解析を使用して11元素から5つの組み合わせを提案するようにAIに指示したところ、2772通りから良い組み合わせを提案させることを試みたが、最初は全然ダメだったという。そこでダメだった組み合わせを学習させることで、白金系を上回る性能の物が提案されたという。これにさらに全自動合成機を組み合わせることで高速スクリーニングを目指している。

 

 

 以上、多元素合金触媒の研究であったが、化学屋の端くれとして感想を言うと「まあ単純な金属触媒はまだ楽だよな」というのが本音。今回は合金の粉末を触媒にした物であるが、世の中の触媒には金属酸化物やら他の化合物を使用しているものが多い。こういうのになると価数が変わったり、対アニオン種が変わったりなどまさに組み合わせは無限。しかも簡単に任意の物を合成する方法が目下のところはないというわけで、今回の技術は非常に興味深い物であるが、実のところは様々な触媒の中の極々一部にしか適用出来ないというのが現実だったりする。

 もっともそれでも現在貴金属触媒を主に使用されている水の電気分解(水素生成の鍵となる)などに効果的な触媒が作られたら劇的な影響がある。目下は白金を大量に使用するためにとにかく触媒価格がネックになっているのであるが、それがもっと安価な金属で代替出来れば朗報である(残念ながらRu,Rh.Pd,Irなどならメリットはほぼない)。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・今まで特定の組み合わせでしか混ざらないとされていた合金を、自在に多元素混ぜ合わせる技術が開発された。
・その技術を応用することで、従来の貴金属触媒を上回る性能の合金触媒の登場が期待されている。
・しかし金属の組み合わせは無数にあることから、AIによって組み合わせを提案させ、自動合成装置で実験を行う高速スクリーニングが検討されている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・この分野、化学では結構ホットな分野です。そして実は私の本業の分野にかなり近かったりする。だから実は興味津々なんですよね。

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