日本で進化した雪氷学
日本は国土の半分近くが豪雪地帯であるため、雪や氷について研究する雪氷学が非常に進歩しているという。今回はその雪氷学について紹介する。
日本の富良野のスキー場はサラサラでフワフワのパウダースノーで世界中のスキーヤーを魅了しており、JAPOWなどとも呼ばれているという。このような雪が降る理由も雪氷学で研究されている。
富良野の雪の結晶は一般的な6本の枝が伸びた結晶形とは違い、枝がついていないのが特徴だという。そして枝のついている結晶が5ミリ程度の大きさがあるのに対して、1ミリ以下の大きさである。これは雪の結晶が初期型から成長出来ていないのだという。
それは日本海からの湿気を含んだ雲が夕張山地で湿った雪を降らせ、富良野に到着する頃には乾いてしまっているので富良野に降るのは乾いた雪になるので、結晶成長が進んでいないパウダースノーになるのだという。なお雪の結晶形は121タイプあるとのこと。
氷の滑る理由や生命の起源まで
さらに氷がなぜ滑るかという謎も最近になって解明されたという。従来は氷の表面が溶けて水になることで滑るとされていたが、実際には表面が溶けていない氷も滑るという。そこで氷の表面を観察してシミュレーションを組み合わせることで、氷の表面では水の分子が固定されずに激しく動き回っていることが分かったという。そのために氷の表面は非常に滑るのだという(ただこれって、分子レベルで見た時に第1層が融けているのと変わらないと思うのだが・・・)。なお-7度の氷がもっとも滑りやすいことも判明しており、それはスピードスケートのリンクに応用されているという。
また雪氷学は宇宙にも飛躍する。宇宙空間にある暗黒星雲には大量の氷が含まれているのだという。宇宙で一番多い固体は実は氷なんだとか。実験室で宇宙空間に近い環境を作り出して分子雲の氷を再現したところ、その表面で一酸化炭素と水が反応してホルムアルデヒドなどの有機物が生成することを確認したという。これは生命の起源に迫る可能性のある研究でもある。
以上、雪氷学という聞き慣れない分野の研究成果を紹介。雪から始まって宇宙にまで広がる展開がなかなかに興味深い。それにしてもこういう地味な分野をコツコツ研究する人もいて、それによって我々は世の中の真理に近づくことが出来るのである。だからこそ研究を何でも金を基準に測ってはいけないわけでもある。
忙しい方のための今回の要点
・日本で進歩している雪氷学についての紹介。
・まず富良野の雪はパウダースノーとして人気があるが、雪の結晶を観察したところ非常に小さくて枝がないのが特徴であるという。これは日本海からの雪雲が夕張山地で湿った雪を降らせて乾燥してから富良野に降雪するため、水分の少ない雪が降るからだという。
・また氷が滑りやすいのは、表面の分子が激しく動き回っていることによるということも明らかになった。
・さらに宇宙空間で一番多い固体は氷であるが、この氷を再現したところ、その表面で有機物が生成する反応が観察され、生命の起源に迫る可能性が出て来た。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・まあ研究なんて「それがどんな金儲けにつながるんだ」なんて言ってテーマを選んでいたら大発見は絶対に出てこないものです。しかし日本は権力者に拝金主義者ばかりがいるせいで、大学の研究にまで採算性を求めるようになってきています。しかしこんなのは学問を滅ぼす愚の骨頂です。一見無駄に見える研究が後に思いがけない形で大輪の花を咲かせるというのが世の常。
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