教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

3/4 BS11 歴史科学捜査班「家康・謙信 現代医学でわかった本当の死因」

 今回のテーマは戦国武将の死因や健康法などについて。現代医学から見ると、タイの天ぷらに当たって死んだと言われている徳川家康の死因は胃がん、厠で倒れて死んだ上杉謙信の死因は脳卒中というところから番組は始まる・・・のだが、そんなもの専門家の知識を動員するまでもなく常識だと思うのだが。特に上杉謙信なんかほとんどアル中並みに酒を飲んでいたとのことだから、そもそもから高血圧だったんだろう。いつも先頭を切って敵に突っ込む戦い方から見ても、いかにも血圧が高そうである(笑)。日頃からそんな生活をしている上に北国の寒いトイレでしゃがんで気張れば頭の血管がブチっていくのは容易に想像がつく。

 

 番組は上杉謙信の生い立ちの紹介に入るのだが、居城の春日山城を訪問したのは良いが、冬の最中だったせいで本丸にたどり着けないという体たらく。春日山城については以前に私が訪問したことがあるので、興味がある人は私のHP「私的美術館紀行」をご覧ください。

 そもそも仏門に入っていた謙信は信仰心が厚くて生涯結婚していない。この禁欲のストレスが死因との説もなんて言っているが、それはなかろう。なお謙信については確かに女色ははいないのだが男色はあったという話もあり、そもそも女に興味がなかったのではという説や、姉に頭の上がらないシスコンだったという説もあるのだが、この番組ではそういう下世話な説は紹介していない。

 食生活の方だが、酒に味噌に梅干しといういかにも体に悪そうな食生活。糖尿病だった可能性もあるのではとの分析もあげている。で、これらの原因から脳卒中になったというわけ。元々高血圧だったのに寒い冬の越後山脈越えを何度もやってたのが脳の血管に負担をかけたとの分析。至極真っ当。

 

 次はあの時代にしては長寿で、それが故に天下を手に入れることが出来た徳川家康の長寿の秘訣に入る。将軍位を秀忠に譲って駿府で隠居していた家康は自ら薬を調合して飲んでいた(これも結構有名な話)。番組では久能山東照宮にある家康が使用した漢方薬を調合するための鉢などを紹介している。なお家康の薬の調合は和剤局方という当時の漢方薬の専門書に従って行っていたらしい。家康が調合していたと見られる薬の中には精力剤もあったという。その効果があってかどうかは定かではないが、確かに家康は子だくさんであり、精力絶倫とは言える。

 また家康が鷹狩りが好きであったことも無視できない。これが適度な運動習慣になっていた。しかし鷹狩りは運動しているのは鷹だけでは?という疑問も出るが、実は鷹が獲物を仕留めるには5メートルぐらいまで近寄らないといけないから、結構歩く必要があり、一回の鷹狩りで一万歩は歩いていたと推測されるとのこと。

 家康の食生活も徹底している。家康は白米でなくて麦飯を好んでおり、これは明らかに健康食(白米ばかりを食べていると、当時なら脚気になる可能性もある)。また彼が好んだ味噌汁は大豆の八丁味噌。これはタンパク質が豊富だという。これに鰯などを加えるので栄養のバランスの取れた健康食だったという。この食生活だと80以上まで生きれても可能性があったのだが、タイの天ぷらという美食を突然に味わったことで胃に刺激が強すぎたのではなんて言っているが、番組自体もこの説は考えておらず本命は胃がん。そもそも食あたりなら食べてから3ヶ月後に死亡なんてことはまずない。当時の医療記録に吐血や血便が出たり、腹にしこりがあったなんて記録が残っているので、がんであることはほぼ間違いなし。

 ここで司会の宮本氏が「当時から胃がんが存在したとは」という類いのボケをかましているが、高橋氏のツッコミが入るまでもなく病気自体は人類誕生と共に存在しているのは当然。ただ昔の日本では脳卒中などの方が多かったろうし、そもそもガンが発症しやすい年齢まで生きることが困難だったから、現代に比べると死因としての序列は低いだろうとは思われる。

 

 なお伊達政宗もがんで死んだと思われるとのこと。伊達政宗は煙草を嗜んでおり(当時は煙草は薬だと間違われていた)、そのせいで食道がんになったという。また毛利元就の死因も食道がんだったとのこと。彼は死の5年前に曲直瀬道三という当時の名医に食道がんであるとの診断を受けているというから驚き。彼はがん発見から5年も生きて、その間に子供まで作っているのだが、これは曲直瀬道三の技術の凄さだという。彼は症状からその原因を考えて患者に合わせた処方をするという先進的な医療を行っていたとのこと。彼が毛利元就に授けた健康法が毛利博物館にあるようだが、そこには120に渡っての健康法を連歌にして記しているという。その内容はシンプルで「年をとったら立ったり座ったりなどの運動をしろ」なんてのがあるという。日本最古クラスの健康本である。

 正直なところ謙信や家康の話は常識レベルで今更という内容だったが、最後の曲直瀬道三の話だけは面白かった。戦国時代から既にこういう実践的レベルの医者が日本にいたというのはなかなかの驚き。彼を主人公にしてスペシャルドラマでも作れば、「いだてん」なんかよりは面白いドラマになるかも。