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6/12 歴史秘話ヒストリア「物語に魅せられて 更級日記・平安少女の秘密」

 菅原孝標の娘(この時代の常で女性の名前は残っていない)が書いたのが更級日記であるが、これは実は50歳を過ぎた彼女が、自身の生涯を振り返って書いた作品であり、一時期流行した自分史のようなものである。そこには平安時代の女性の生き方が描かれているので、その意味での資料価値は高い。

物語大好き少女

 さて彼女の話は10歳の時から始まるが、この頃の彼女は父親の赴任先の上総の国で生活していた。彼女は物語大好き少女で姉や義理の母や乳母が語ってくれる物語を楽しみにしていた。特に彼女は源氏物語が大好きだったが、母達の記憶は曖昧なせいで満足できる話は聞けず、彼女は早く京に行きたいと願う。

 3年後、彼女の願いは叶って一家は京に戻ることになる。そこで彼女は近隣の貴族の屋敷から物語をもらって読みふける日々を送る。当時の上級貴族のところには文芸に秀でた女性が多く働いており、中には物語を作成する女官もおり、彼女たちの書いた物語は主人や家族やそれに仕える人々が読んだ後、さらに家の外にまで広がったのことで、彼女も天皇家の姫君からのお下がりをもらったのだという。

 しかし彼女に悲劇が訪れる。義理の母が父と離婚して家を去り、乳母も流行病で亡くなってしまう。ショックで彼女はふさぎ込んで物語を読む気力さえ失ってしまう。そんな彼女を気遣っておばが彼女に源氏物語を持ってきてくれる。彼女は昼も夜もそれを夢中になって読みふけり、そうしてようやく立ち直る。彼女はよく言えば文学少女、今時なら腐女子だったわけである。

運命の急転と野望

 やがて32歳になった彼女は父が引退したので、独身のまま家の主となり、母を亡くした姪達の面倒を見ていた。彼女は姪達に物語を語り聞かせていた。そして彼女の同人誌が大手出版社の目にとまってついにメジャーデビュー・・・ではないが、彼女の噂を聞きつけた藤原頼通が彼女をスカウトするのである。一族の娘の元で物語を書かせることで物語に惹かれた天皇が娘の元に通うようになって皇子が生まれれば藤原家の権力は安泰という計算の元である。これはまさに頼通の父親である藤原道長と紫式部の関係だという。つまりここで彼女はついに職業作家となるわけである。

 宮仕えをするようになり、藤原氏に仕える男性と結婚して子供も出来た彼女は、彼女の働きのおかげで夫も栄達して彼女の家は栄えてくる。そのうちに彼女は皇太子の乳母になるという野心を抱くようになる。皇太子の乳母には教養が求められ、皇太子が天皇となると乳母も権力を持つようになるので宮中の女官にとっては憧れの職業であった。藤原頼通は皇太子である親仁親王を後見していたので、彼の姪との間に皇子が生まれると、彼女が皇太子の乳母になれるという可能性もあったのである。

挫折と失意と後悔と

 しかし彼女が38歳の時に事態は急変する。後朱雀天皇が若くして急逝し、親仁親王が天皇に即位することになるのである。しかし親仁親王には皇子がいなかったため、親仁親王の腹違いの弟で藤原頼通とは関係のない尊仁親王が皇太子になることになったのである。これは彼女の野望が潰えることを意味していた。天皇即位に纏わる祭見物で京が湧く中、失意の彼女はそんなものは見たくないと朝から京を旅立ってしまう。これには彼女の自信の運命に対する憤りのようなものがあったのだろうという。

 そして彼女が52歳になった時、夫は病で先立ち、子供達は独立し、ひっそりと一人で過ごす中で彼女は自分の生涯を振り返って更級日記の執筆を始めたのだという。なお更級日記の中には彼女が作成した物語のことに触れていないのだが、それは彼女はそもそも憧れていた物語を結果としては出世の道具に使ってしまったということに深い悔恨を抱いていたからではないかとしている。

 その後の彼女の生活については何の記録も残っていないのだが、彼女が書いた物語である「浜松中納言物語」が残っている。この物語は主人公が愛する人の生まれ変わりを探し求めるというファンタジーらしいが、これが斬新であると評判になり、藤原定家がこれに触発されて生まれ変わりをテーマにした作品を書き、三島由紀夫の集大成の作品である豊饒の海の最後には「浜松中納言物語を典拠にした」と記されているという。

 

 平安文学少女と言いますか、平安時代のオタクと言いますか・・・。そんな彼女の夢と野望と挫折の物語でした。今だったら、多分朝ドラの脚本なんかを書いているところでしょう(笑)。まあこうして見ていると、1000年経っても人間って結構変わらないもんだなと思ったりします。ちなみに「源氏物語」は日本最古の昼メロ、「枕草子」は日本最古のエッセイ、「土佐日記」は日本最古のネカマ小説です(笑)。

 


忙しい方のための今回の要点

・更級日記は、菅原孝標の娘が50歳を過ぎた時に自分の生涯を振り返って書いた自分史である。
・物語好きの彼女は、その物語執筆の能力を買われて藤原頼通にスカウトを受けて宮仕えをするようになる。
・その中で彼女は皇太子の乳母になるという野望を抱くものの、その野望は思いがけない運命によって潰え、結局は物語を出世の道具に使ってしまったという悔恨を彼女に残すことになる。そのためか更級日記には彼女が書いた物語のことには触れていない。
・しかし彼女が書いた「浜松仲南言物語」は生まれ変わりをテーマにした斬新さが評判を呼び、後の作家にまで影響を与えている。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・夢見る少女が大人になっていくにつれて世俗で汚れていくというような感じもありましたね。今回の話。大人になると言うことは少しずつ汚れていくことなんていうのを、何かの歌かなんかで聞いた覚えがありますが・・・。
・私もそろそろ自分史でも書く頃かなんて思いましたが、よくよく考えると何もありませんな、私の生涯。結局は何も残らないでしょうし・・・。いかん、考えると鬱になる。