今回は当時もかなり話題になった大奥スキャンダルの絵島生島事件。大奥の有力者であった絵島が、歌舞伎役者の生島と密通したという話なのだがその真相は・・・ってこれはもう大奥内での権力闘争が絡んだ陰謀だったてのはもうハッキリしているのですが。
大奥を揺るがす大スキャンダルの発端
そもそもの事件の発端は、大奥の最高権力者である御年寄である絵島が、月光院の代参として増上寺に奥女中達と参拝した帰りに芝居小屋に立ち寄り、そこで人気役者であった生島新五郎らの接待受けている内に盛り上がり、大奥の門限時刻に遅れてしまったという事件である。
しかし実は門限破り自体はそれほど大きな問題ではなかったのだという。この時も月光院の取りなしで事なきを得るはずだったのだが、それをあえて大きな事件にした輩がいるわけである。
事件の拡大
大奥女中達のどんちゃん騒ぎが江戸市中でも噂となり、またこの時の絵島達の行いが度を超していたと老中の秋本喬知に密告する者もおり、この件については評定所で取り調べが行われることになる。その結果、絵島が門限破りを繰り返していたとか、芝居小屋だけでなく遊郭などにも繰り出していたとか、見知らぬ男の家に泊まったとかの不行跡がいろいろと出てき、さらには厳しい取り調べを受けていた生島新五郎が絵島と密通していたと自白する(要は拷問で無理矢理に言わされているのだが)のである。そして絵島は死罪を宣告される(後にこれは遠島に減刑され、さらには月光院の懇願で高遠藩への身柄預けになるのであるが)。
なお絵島が生島を長持ちに入れて大奥に忍び込ませていたという噂もあったらしいが、これについては大奥の現実の状況から考えると到底不可能と番組では一蹴しているがそれは当然。このことについては明治以降に歌舞伎化された時の創作らしい。
背景に潜む大奥内の権力闘争
さてこの事件の背景だが、大奥内での権力闘争が絡んでいる。6代将軍家宣の正室であった天英院と、7代将軍家継の生母である月光院の勢力争いである。絵島は月光院派の有力人物だっただけに、天英院派からターゲットにされたということである。まあ取り調べで絵島の不行跡の話がボロボロ出てきたのは、明らかにこの辺りに絡んだ嫉妬と陰謀があるのだろう。
さらに背後に新の黒幕が・・・
なお番組ではさらにこの背後に黒幕がいるとしている。それはこの事件を取り調べた秋本喬知。彼は老中として家宣の時代には権力を握っていたのだが、将軍が家継に代わったことで、側用人の間部詮房に権力を奪われていた。この間部詮房は月光院に近しい立場にいたことから、月光院の力を削ぐことでさらに間部詮房の力を削ぐことを考えたのだろうとのこと。絵島に対しての異様に早い判決などにすべてが現れているとのこと。実にあり得る話である。
結局絵島は高遠藩に送られ、牢獄のような屋敷で一生を終えることになる。そしてさらに悲惨なのは陰謀の巻き添えにされた連中。絵島周辺の奥女中の多くが追放され、生島新五郎は遠島、彼が属していた芝居小屋も取りつぶされることになった。かなり悪辣な手口であるが、政治的陰謀とは大体そういうものである。
この件に関しては既に天英院派と月光院派の対立に纏わる陰謀というのは世間の見方は大体一致しています。実際に数々の状況証拠から考えて背後にそれがあることは間違いないでしょう。ただ天英院派だけが単独でここまで事態を大きくできたとは考えにくい部分もあるので、この番組で言っているようにその背後に老中の秋本喬知がいたということは妥当なように思えます。どちらかと言えば、天英院派は秋本喬知の陰謀にこれ幸いと積極的に乗っかったという辺りでしょう。
それにしても常に一番割を食うのは権力のない一般市民ということです。彼らこそ完全に巻き添えです。トップスターからいきなり拷問の挙げ句に遠島にされた生島新五郎なんて、秋本喬知の元に化けて出ても不思議でないぐらい・・・ん? そういうネタで歌舞伎の台本書けるのと違うか?
忙しい方のための今回の要点
・絵島の門限破りに端を発した大奥のスキャンダルであるが、実は門限破り自体はそれほど大事になるような問題ではなかった。
・それをあえて大事にしたのは、絵島の背後にいる月光院と勢力争いをしていた天英院派の陰謀と、さらに月光院と親密であった間部詮房を排除したいと考えていた老中秋本喬知の陰謀があった。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・いつの世もスキャンダルネタというのは大好きで、歌舞伎は特にそういうネタを取り入れますから、これなんか格好の題材になっていろいろ話におひれがついてしまったようです。そう言えば同じようなことは以前のこの番組の高橋お伝の回でもあったような。
・時代が時代だったらベッキーのゲス不倫なんかも歌舞伎のネタになったのかも。「これはセンテンススプリングに感謝じゃわいなぁ」とか言って見得を切るわけですな。
