教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

7/17 BSプレミアム 英雄たちの選択「名人円朝 新時代の落語に挑む!~熊さん八つぁんの文明開化~」

 今回はこの番組のパターンから異色。主人公は江戸末期から明治にかけて活躍した落語家の三遊亭円朝。英雄?という疑問も出るところだが、とりあえず落語を通してこの時代を伝えようと言うことだろう。

江戸時代、怪談話で人気を博する

 円朝は7才の時から寄せに立って注目され、二代目三遊亭円生に入門する。しかし母親の反対で実家に連れ戻され、浮世絵師の歌川国芳に弟子入りしたという。そこでなかなかの才能を示したらしいが、国芳が亡くなってしまって絵師修業はそこで終了。そこで再び落語家に戻って自力で三遊亭円朝を名乗って21才では一流寄席の真打ちを務めるまでになったという。

 そしてその高座が円朝の分岐点になるのだという。円朝はこの高座の助っ人を師匠の円生に依頼したのだが、弟子の人気に嫉妬した円生がなんと円朝がやる予定だったネタを先に演じるという嫌がらせをしたらしい。そこで円朝は急遽新ネタを披露する必要に迫られ、ここで披露したのが「累ヶ淵後日の怪談」という怪談話で、後に円朝の代表作となった「真景累ヶ淵」だという。これが大当たりして円朝はいちやく落語会トップの大スターになる。人間の欲や怨念と言ったドロドロした感情を見事に描いた作品が注目されたと言うことらしい。また円朝は国芳の元で修行した絵画の腕なども活かして、落語に背景を付ける演出も行ったとか。ここ一番になると、突然後の幕が落ちて、背景が現れるという舞台演出で大いに盛り上げたとのこと。

明治新政府からの介入

 しかし時代が明治に変わると、明治新政府から「怪談話のようなくだらないものはまかりならん」とクレームがつけられるようになる。寄席も民衆の強化につながるような話を取り上げるべしという文化への介入である。実際にその流れを受けて、その手の話で人気を博する講談師なんかも登場していたという。今後の創作をどうするかと悩んでいた円朝は、その時に格好の怪談話のネタとなり得るエピソードを入手する。ここで彼の選択、今まで通りに怪談話を続けるか、それとも政府の要請に従って新たな落語を作り上げるかとなる。

 

新たな落語の確立

 結局はここで円朝は後者を選び、「塩原多助一代記」という地方から出てきた若者が努力して大成功する立身出世話を作成する。これは当時の民衆にも受け入れられて大ヒット、政府もこれを認めて教科書にも採用するようになり、円朝自身も井上馨に贔屓にしてもらったりなどがあったらしい。

 もっともこれに円朝が本音でどう思っていたかは怪しいもので、どうやらこの同じ時期に「業平文治漂流奇談」という「タランティーノかよ!」とツッコミが入るぐらいの全編暴力だらけというピカレスクロマンを描いていたとか。これを聞くと実は「塩原多助」は円朝にとっては本意でなかったことが覗える。多分、円朝はこういう対極の作品を作ることで創作者としての心の平衡を保っていたのだろうと思われる。最凶の鬱アニメとも言われた「蒼穹のファフナー」を作ったスタッフが、その後に心の平衡を保つために、無双主人公が大活躍して誰も死者が出ないという「ヒロイックエイジ」を作ったようなものでは。すみません、アニオタでないとよく分からない例でした(笑)。このサイトを見るような人は、このネタの意味は分からん人がほとんどだろうな・・・。

 しかし時代は円朝が望んだような方向に進まず、全国で騒乱が起こるなど不穏な世の中に、そして寄席の世界は空騒ぎのナンセンスネタばかりが増えていくという。円朝はこれに対して「東京ではつまらなくても目先が変わっていたらそれだけで受ける」とホトホト嫌気がさしていたらしい。そういうこともあったのか、間もなく円朝は寄席から引退する(干された可能性も匂わせていたが)。その後は得意の人情噺を制作していたらしい。また100本を目標に幽霊画の蒐集を行っていたが(彼のコレクションには応挙の描いたと言われている幽霊の絵もある)、これは目標に達する前に亡くなったらしい。

 

 以上、激動する世の中の中で、時流に乗ったのかそれに逆らったのかが微妙な芸術家のお話でした。ちなみに円朝が、今日のこの時代など比でもないナンセンスなドタバタ騒ぎばかりの現在の演芸界を見たらどう言うだろうか?

 


忙しい方のための今回の要点

・三遊亭円朝は江戸の末期に活躍した落語家で、「真景累ヶ淵」などの怪談話で落語界一の人気を誇った。
・しかし明治新政府の登場で、政府から「怪談話のようなくだらないものはまかりならん」との介入を受ける。
・今までの怪談を続けるべきか、政府の要請も入れて新しい落語の形を目指すか悩んだ円朝だが、結果的には「塩原多助一代記」という立身出世ものという新ネタを作成して評判を呼び、この作品は政府にも評価されて教科書に掲載されることになる。
・もっともそのことを円朝が本音で良く思っていたかは微妙な節がある。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・権力の意図に表向きには従いながら、実は裏では舌を出していたんじゃないですかね。そのぐらいの人でないと、落語家なんてつとまりません。落語に限らず創作を行う人は常に人間の裏の裏まで見通す必要があるのですから。
・もっとも最近は人間を知らない創作家が増えてますので、あり得ないような人物設定をしてしまう作品が多くなってます。挙げ句がストーリーの辻褄さえ合ってなかったりするのを、逆に「予想外の展開」なんて言って誤魔化したり。
・何しろ今は、NHKの連続テレビ小説や大河ドラマと言った看板番組にさえ、「半分青い」や「江」のようなお粗末至極な作品が登場するぐらいですから・・・円朝が見たらどう言うだろう。

 

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