教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

7/18 BSプレミアム 偉人達の健康診断「ペリー来航 酒と通風の日米交渉」

 最近、どうもペリー絡みの歴史番組が多いが、ついにこの番組にもペリー登場である。

日米交渉の裏の接待攻勢

 日米交渉においては実は接待攻勢もあったと言うことは知られているところ。ペリーが日本との交渉において接待の効果があると感じたのは、最初に来日した時だという。ペリーは次回の来日に備えて小舟で江戸湾の水深を調査させていたのだが、それを知って日本の役人が気色ばんで乗り込んできた時、彼らにウイスキーやブランデーなどの洋酒を振る舞ったのだという。するとそれらの酒が気に入った彼らの態度は急に軟化、その後は制約を受けることなく調査が続行できたとのこと。

 二回目の来日では開港する港の数で日米で見解が食い違う。しかしここで何と日本側からの接待があったのだという。日本側はペリーの船団の500人を高級料亭の料理でもてなしたとか。ただ残念ながらがさつなアメリカ人であるペリーには日本料理の繊細な味付けは理解できず、「味がない」と感じたらしい。ただ最後に出てきたカステラにはいたく感動したらしく、結果としての接待は成功だったようだ。

 これに対してペリーの側も接待で反撃してくる。元々ペリーはそのつもりで日本に来る前にオーストラリアに立ち寄って牛や羊を購入しており、これを船内で飼育しながらやって来たのだという。これらの肉をフランス人シェフが料理し、高級フランス料理で日本の役人達を接待したのだとか。最後には高級役人達に彼らの家紋の小旗を立てたケーキを振る舞い、これにいたく感動した酔っ払った高級役人の一人がペリーの肩を抱いて「日本とアメリカの心は一つ」とか言ったとかいう話もあるらしい・・・とのことなんだが、以前に別の番組で、このエピソードは条約締結後の記念の宴会での話だと言ってなかったか?

 なお医学的に考えると、美味しいものを食べることでプラスの感情が強まるのだとか。味覚や視覚などからの快適な情報が大脳の感情を司る辺縁系を刺激し、これが理性を司る前頭前野に働きかけて評価がプラスになるのだという。実際に美味いものを食べながら記事を読ませた方が、その記事に同意する確率が増えたという研究報告もあるとか。そう言えば私も、美味い店に巡り会った町の評価が高くなるという傾向は以前より顕著にある(笑)。私が良い町と言う場所は、いずれも「美味いものが食える町」である。

 

ペリーも悩んだ壊血病対策

 なお日本への航海でペリーが気を使ったのは、壊血病対策だという。当時壊血病は原因不明で、最悪の場合7割の船員が死亡したという例もあったらしい。ペリーは文献等を調べて、壊血病予防に効果があるとされているライムを使用することを考えたのだが、ライムの果汁はそのままだと酸っぱすぎて飲みにくい。そこでライムをラム酒に加えて飲む方法を提案したらしい。ただこの方法は、ペリー的にはなかなかいけると思っていたらしいが、部下には不味いと極めて不評だったとか。残念ながらペリーは味音痴だったらしい(だから日本料理の味が分からないのである)。

 現在では壊血病はビタミンCの不足によるものということが分かっている。ビタミンCは血管壁などを構成するコラーゲン生成に関わるので、これが極端に不足すると血管が破れたりすることになるのだという。現在はビタミンCはサプリなどで補えるが、1度に大量に摂取しても体外に排出されるだけなので、こまめに摂取することの方が重要だという。なおビタミンCが含まれる食材としては、船にも保存食として積まれていたジャガイモがあり、これの効果があってかペリーの船団では壊血病は発生しなかったらしい。

 さて日本との交渉を無事成功させて帰国するペリーだが、その彼を迎える本国は非常に冷淡だったという。彼が帰国した時は南北戦争前夜の状態で、国民は日本への遠征は国費の無駄遣いだと批判したという。また政権も変わったことで対外進出に対して消極的になっていたという。ペリーは転属願いも受理されず、仕事らしい仕事もない飼い殺し状態にされたらしい。その失意の日々の中で自ずと酒の量が増え、ペリーは2年後に心臓発作で死亡する。

 

ペリーの命を奪った持病とは

 ペリーは痛風の持病があったと考えられるらしい。痛風は尿酸の増加で起こる疾患であるが、突然に歩けないほどの激痛が起こるが、数日経つとその症状が治まるというのが特徴の一つだとか。ペリーも来日中に起き上がれないほどの激痛に見舞われたが、その数日後には上陸して散歩していることが記録に残っているとか。

 なお痛風の原因は過剰なプリン体摂取が一つ考えられるが、実はそれ以上にプリン体は体内で合成されるので、むしろ尿酸の排出が重要なのだという。尿酸の排出には水分を十分に摂取することが必要で、尿酸の排出を妨げる原因としてはアルコールがあるという。アルコール度数の強い酒は特に尿酸の排出を妨げるとのことで、ラム酒を好んだというペリーは酒が原因だった可能性が強い。ペリーは痛風によって血管が傷つくことで血栓ができ、これが最終的に心筋梗塞等につながったと考えられる。


 以上、日本の近代化に一つの影響を与えたペリーについて。番組では日本の最初の交渉相手がアメリカでそれも平和的な解決を狙っていたペリーであったというのは幸運だったと言っているが、確かにそういう面があるかも。これが植民地拡大に熱心だったイギリスとかならまた話が違ってきている可能性は大。開国の前にいきなり対外戦争になっていた可能性がある(実際に薩摩はイギリスとドンパチしちゃいましたが)。

 それにしてもペリーは事前に思いの外綿密に日本についての調査をしていたようです。最初は高圧的に出ておいて、後で宴会で懐柔するなんてのはなかなかにしたたかな交渉術を心得ていると言えます。単なる軍事バカではなかったということだろう。

 


忙しい方のための今回の要点

・ペリーは日本との交渉をまとめるには宴会に効果があると考え、日本の役人を接待するために牛や羊まで調達し、フランス人シェフも乗船していた。
・味覚や視覚等の感情的な刺激は、感情を司る辺縁系を刺激して、これが理性を司る前頭前野に影響を与えることで、プラスの評価を強める効果がある。
・ペリーは壊血病対策としてライムを加えたラム酒を用意していたが、これは部下達には不評だった。しかしビタミンCが豊富なジャガイモを積んでいたことで壊血病の発生は予防されている。
・ペリーは酒好きが祟って痛風を患っており、これが最終的な死因となったと考えられる。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・相手を説得する時には宴会でということか。今でも政治家などは交渉ごとといえば料亭というパターンが多いようだが、事が決するのは宴会での効果というよりも、そこでやりとりされる金銭によるものであるというのが専らの常識。
・まあ何にせよ、取引相手には美味いものを食わせておいたら間違いないということのようで。今でもビジネスに必要ということで、接待費は経費に算出することが可能です。
・なお船乗りには壊血病が非常に問題となっていましたが、日本ではどちらかいえば脚気の方が国民全体の大問題になってましたね。結果として麦飯が効果があることが後に判明するのですが。

 

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