教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

8/19 BS-TBS にっぽん!歴史鑑定「国宝ミステリー」

 今回は国宝3本(正確に言うと国宝2+国宝になっていたかも1)立て。

イケメン仏像No1の阿修羅像

 まず最初は興福寺の阿修羅像。その憂いを帯びた表情に魅入られた女性ファンが多数おり、彼女たちのことをアシュラーと呼ぶそうな(まるでアムラーである)。この像は身長150センチとやや小ぶりで、脱活乾漆という木と粘土で作った芯に漆などを加えた麻布を巻き付けてから芯を掻きだして抜くという手法で作られているため、軽量で丈夫という特徴がある。おかげで興福寺が何度も戦乱などで焼けた際にも運び出されて難を逃れている

 この阿修羅像には建造時には彩色が施されていたことが分かっている。分析の結果、辰砂を使用した赤だったことが判明し、往時の色彩を復元すると赤と碧が映える非常に派手な色彩であったことが分かる。これは当時は建物の中で蝋燭の明かりの中などで見るものなので、このぐらい派手な色彩でないと映えないということらしい。

 また阿修羅像とは本来は猛る仏像であるので、その顔はもっと怒りの形相であるのが普通である。この像はなぜこのような愁いを帯びた少年のような顔になったのか。調査の結果、阿修羅像の現在の顔は途中で作り直されたものであることも判明したという。この阿修羅像が建造された数年前に聖武天皇と光明皇后の間に生まれた皇子が亡くなっており、阿修羅像はその皇子の姿にしたのではとの考えがあるという。また阿修羅像の三面は、幼児期の顔、思春期の顔、成長してからの顔になっているという説もあるとか。

 

風神雷神図屏風に潜む宗達の仕掛け

 二つ目の国宝は俵屋宗達の風神雷神図屏風。狩野派全盛の時代に宗達の名を天下に知らしめた作品であるが、この作品にはいろいろな仕掛けが見えるとのこと。

 まずは往時の色彩を再現している。現在は風神の碧はかなり退色しているが、かつてはもっと鮮やかな色をしていた。また乗っている雲も、元々は銀色だったものが黒くなってしまっているということも分かっているとのことで、復元したその色彩はかなり鮮やかなもので思わず目を惹く。また金箔の上に描いていることで、夜に蝋燭の明かりの下で見ると背後に明かりが反射して雷神達の姿が浮き上がって見えるという。また風神と雷神は互いに見つめ合っているわけでなく、風神は雷神を見ているが、雷神は鑑賞者の方を見ている。ここで鑑賞者が風神に視線を向けることで、視線が循環するメカニズムになっているとのこと。

甦る平治物語絵巻

 最後はもし現存したら国宝確実だった平治物語絵詞。平清盛が権力を握ることになった平治の乱の経緯を記した鎌倉時代に描かれた絵巻であり、元々は15巻ほどの大作だったが、今日には3巻しか伝わっていないという。現存すれば国宝確実なのはこの絵巻のクライマックスである六波羅合戦之巻。江戸時代に描かれた模本を元に、戦後間もなく発見された断片から色彩を推測して復元している。

 復元された絵巻によって合戦の風景が生き生きと甦ってくる。なお絵巻の正しい見方は、肩幅ぐらいの広さを開き、両方を同時に巻きながら一定の幅でスクロールさせて見ていくのだとか。確かにその方法だと、右から左に時間が流れていくのがよく分かる。なおこの絵巻では平清盛があまり格好良く描かれていないこと、また相手を組み伏せて首を掻こうとしている侍の後からさらに斬りかかる侍が描かれているなど「栄枯盛衰」を描いていることから、源氏の関係者が戒めとして製作したのではとのこと。


 以上、国宝3点の小ネタシリーズと言ったところ。それにしても阿修羅像って、知らない間に大人気になりましたね。興福寺の集金戦略が大成功したというところでしょう。もっとも私としては、イケメン阿修羅像よりも、凜々しい四天王像の方が好きだったりしますが。

 


忙しい方のための今回の要点

・興福寺の阿修羅像は中が中空で軽量であるため、今まで火災などの難を逃れた。
・往時にはかなり鮮やかな彩色が施されていたことが分かっている。
・阿修羅像の顔は作り替えられており、亡くなった光明皇后の皇子に似せたのではという説がある。
・俵屋宗達の風神雷神図屏風は、往時には今よりもさらに鮮やかな色彩であり、蝋燭の明かりの下では浮き上がって見えるなどの仕掛けがある。
・鎌倉時代に描かれた平治物語絵巻は、源氏関係者が奢りを戒めるために作ったのではと推測されている。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・最近はこの「往時の色彩をCGで甦らせる」というのが流行ですね。大坂冬の陣図屏風なんかもそれをしてましたし。ちなみに往時の色彩を復活させた平等院鳳凰堂なんかはまさにキンキラキンの世界です。実際に当時の寺院なんかはわびさびと対極のキンキラキンの世界であり、極楽浄土とはまさにキンキラキンです。この雰囲気を味わいたい方には復元された名古屋城本丸御殿の見学をお勧めします。

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