教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

8/29 NHK 歴史秘話ヒストリア「徹底解明!三国志 英雄たちの秘密」

 今回の内容は東京国立博物館で開催中の「三国志」展(主催NHK)の宣伝企画(これは私も行きました)。この番組では珍しく三国志を扱いますが、この番組のためにスピードワゴンの2名が中国ロケ・・・なんて予算がこの番組にあるわけはありません。実はこの2名が中国ロケした顛末は、BSプレミアムで8/3に「超三国志」なるバラエティ番組(ワッキーなどがゲスト出演していた)を放送してあり、その素材の有効活用。NHKによくある「放送素材は最低でも3回は再利用する」というやつである。だからよく見ていると、いかにもバラエティ的な映像が多々ある。

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優れた兵法家であった曹操

 三国志で人気があると言えば劉備だの孔明だの関羽だのといろいろいるが、中国では曹操が人気がある。この辺りは悪役として捉えられてる日本とはやや違う。最近曹操の墓が発見されて話題となったのだが(その展示は三国志展でも行われている)、意外と質素な墓である。スピードワゴンの井戸田が曹操の地元を訪問しているが、地元には巨大な曹操の像が立ち、大人気である。曹操は非常に勉強熱心であり、兵法などにも通じていた。「兵は詭道なり」という言葉を実践したのが曹操である。番組で紹介しているのは、曹操が兵の数を誤魔化すために建設したとされている秘密の地下道。城から出て行った兵がこの通路で戻ってきて、もう一度出て行くことで兵が多くいるように見せかけるのだという。

 また曹操は袁紹と戦った時には新兵器も導入している。井戸田が古代兵器研究家の呉景剛氏の元を訪れて見たのが復元された発石車(投石機)。これを実際に実験したら、2センチある板をぶち抜いた。曹操はこの発石車を使って、袁紹軍が矢を城内に射かけてきた井楼を破壊したという・・・ってやっていたらかなり真面目な番組っぽいのですが、元のバラエティ番組では、実はこの呉氏の復元品って結構グダグダなものが多く、どちらかと言えば「探偵ナイトスクープ」のパラダイス感まで漂っていたのですが、この辺りは編集の威力です(笑)。

 

赤壁の戦いの勝敗を決めた東南の風

 次は赤壁の戦い。これは赤壁古戦場という赤壁の戦いをモチーフにしたテーマパークのようなところを、スピードワゴンの小沢が訪問している。何しろ岩壁に「赤壁」と書いてあるのだから確かに赤壁である(ちなみの元のバラエティ番組ではここでドワッと笑いが起こるのだが、当然ながらそんなものは入れません)。ここにはこの戦いを指揮した美周郎こと周瑜の巨大な石像(残念ながら光栄的イケメンとは違います)が立つだけでなく、かつての楼船も再現している。これは艦隊の旗艦のようなもので、物資の輸送などを行ったり、敵を威圧したり楼上から指揮官が指揮をとったりする船である。

 周瑜はこの戦いで火計によって魏の軍船を焼き払ったのだが、これに必要なのが東南の風だった。しかしこの時期のこの地域は北風しか吹かない。そこで孔明が天に祈って東南の風を吹かせた・・・と演義ではそうなっているのだが、これは明らかに劉備軍の活躍を作り上げるための捏造。実際の劉備軍はこの戦いではほとんど何もしてません。そのくせに火事場泥棒的に荊州を占領しちゃったんだから、そりゃ周瑜も怒るよな。

 で、東南の風は実際にはなぜ吹いたかだが、この地域の南に高い山があるため、時期によっては北風がこの山に当たって逆風として吹き戻してくることがあるのだという。周瑜は現地の漁民などからこの情報を入手していたのだろうとの話。まあこれが科学的説明というやつである。

 

劉備死後に後事を託された孔明の奮闘

 この後は孔明登場。懐かしの人形劇三国志のリバイバルをしてます。孔明の声って、森本レオだったんだな・・・。で、番組では井戸田が孔明の子孫が暮らしているという諸葛村を訪問してますが、この村の住宅の配置は孔明が編み出したという八卦の陣になっているとのことだが、その真偽はともかくとして、とにかく迷路のようで分かりにくい村らしい。

 そしてここで展示されているのが、やはり孔明だとこれが登場しないといけないという木牛流馬の復元品。蜀から中原に向かうには蜀の桟道という岩肌に刻まれた険しい隘路を通る必要があるので、そこを通って物資輸送するための一輪車である。ところで木牛流馬という名のせいか、今まで見た復元品はなぜかすべてわざわざ牛や馬のような頭を付けているのだが、これは機能的には無意味。合理主義的な孔明がわざわざこんな無駄なものを付けさせたとは思えない。木牛流馬というのは木で作った牛や馬のような役割を果たすものという意味で、何も牛や馬に似せる必要はない。孔明なら頭なんて無駄なものをつける労力があるなら、一台でも多く製作させただろう。私の予想では本来の木牛流馬とは、意外と現在の道路工事用一輪車そのままの極めて機能的な形態をしているのではと推測している。

 そして劉備は臨終の床で孔明に後を託す。ここは人形劇で再現しているが、このやりとりがややコミカルなのはバラエティ番組の名残。劉備はここで自分の息子(劉禅)が補佐に足るなら助けて欲しいがその器量がなかったなら君が代わってこの国を治めてくれと言い残す。これは劉備がいかに孔明を信頼していたかを示す美しいエピソードとして語られることが多いが、実際は劉備は劉禅がそれだけの器量がないことを了解している上で、孔明に簒奪をするなと釘を刺しているというのが最近の解釈である。実はこれは私も同感。

 で、番組はその後一気に秋風、五丈原まで飛びます。孔明の臨終。将星が地に落ちた何てエピソードもありますが、要は孔明は過労死です。孔明が身を粉にして働いたものの、主君の劉禅は決して暴君ではないというぐらいしか救いのない全くのボンクラでした。ある意味で劉備の血をよく引いてます。劉備も結構ボンクラでしたが、一応野心は持っていたのと、黄巾の乱などで修羅場を経験したことで一角の武将に成長しましたが、劉禅にはそんな成長の意欲も機会もなかったのですからボンクラでした。おかげで何から何まで孔明が決済する羽目になってとうとう志し半ばで過労死という哀れな最期を送ります。これで三国志・完、って思われてるんですが、それは実は吉川英治の三国志だけであり、元々の三国志演義はこの後も続いてるんですが、吉川英治が「孔明が死んでしまったら、後はつまらなくて書く気もしない」とここで筆を置いてしまったんですよね・・・。


 以上、三国志をネタにしたNHK主催の展覧会の宣伝及び放送素材の有効活用でした。同じ題材を使っても、演出の仕方では一端の教養番組になるんだなと妙なところで感心しました(笑)。

 


忙しい方のための今回の要点

・曹操は日本では悪役イメージがあるが、実は読書家であって兵法に通じた戦略家でもあった。また最近発見された墓所も質素であることから、優れた政治家でもあった。
・赤壁での東南の風は、北風が南方の高山に当たって吹き戻した逆風によるものであったと推測される。
・劉備が臨場の床で孔明に後事を託したエピソードについては、実は孔明による簒奪を警戒した劉備が釘を刺したという解釈が有力になっている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・NHKはみなさまから集めた受信料を無駄にしないために、放送素材は何度も有効活用します・・・なんてことをするんだったら、一番の無駄金食いの駄作「いだてん」をさっさと打ち切れと言いたい。まああれは「東京オリンピックを宣伝しろ」という政府からの要請による国策ドラマだから仕方ないのかもしれんが。

 

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