教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

9/25 BSプレミアム 英雄たちの選択「シリーズ幕末の先覚者2 目指せ!徳川近代国家 小栗上野介の夢と挫折」

先見性を持った幕臣、小栗上野介

 今回の主人公は、先週の河井継之助に続いての「幕末非イケメンシリーズ(笑)」小栗上野介である。この人も非常にスゴい人であったにもかかわらず、河井継之助以上に知名度の低い人である。しかし日本海海戦で勝利した東郷平八郎が、小栗上野介の横須賀製鉄所が今回の完全勝利にどれほど役だったかしれない」という言葉を残したという、非常に先見性のある優れた人物である。

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小栗上野介、ブサメンとは言いませんがイケメンというには微妙です(笑)

 群馬県高崎市にある小栗上野介の菩提寺である東善寺には、小栗が残したというアメリカ製のネジが伝わっている。アメリカの造船所を視察した時に、蒸気機関で規格の整ったネジを大量生産しているのを見て、近代工業の象徴として日本もこういうものが作れる国家にしたいと考えて持ち帰ったものだという。

 

渡米での体験で、日本を近代国家にすることを志す

 名門旗本の嫡男として生まれた小栗は幼児期より英才教育が施されたという。彼は7才で漢学者・安積艮斎の塾に入門して、開明的であった艮斎の思想を学んでいる。艮斎は「国を守るには大船や大砲を数多く作りしかない。諸外国はその費用を交易で賄っている。」と残しており、小栗もその考えを引き継いでいる。

 時代はまさに変革の時代であった。小栗は33才で日米修好通商条約批准の使節に抜擢される。小栗は無事に大役を果たすと共に、彼を抜擢した大老・井伊直弼の命に従ってアメリカの最新鋭の造船所を見学する。そこでは工作機械はすべて蒸気機関で駆動されていたが、特に巨大なスチールハンマーが彼を驚かせたという。蒸気の力で3トンものハンマーを持ち上げて焼けた鉄の棒を「まるで豆腐を切るかのように」切断するハンマーの威力は近代工業技術そのものであり、小栗は日本にもこのような造船所を建設する必要性を感し、これが彼の生涯の目標となる。

 

激動の世の中で造船所の建設を目指す

 しかし帰国した小栗を待っていたのは激変した状況であった。彼を送り出した井伊直弼は彼がアメリカに滞在している間に桜田門外の変で亡くなっていた。彼は海外経験を買われて外国奉行に抜擢される。しかしこの時にロシアが対馬を占拠する事件が発生する。小栗はこの対応に奔走、対馬を幕府領とした上でロシアと交渉することを提案するが、幕閣は小栗の提案を却下、結局はイギリスに軍艦を派遣してもらってロシア軍艦を退去させることになる。この影には勝海舟の存在があったという。勝は日本が正面からロシアと交渉してもロシアは言うことを聞かないと考えていた。小栗は責任を取って外国奉行の職を辞し、日本の軍事力強化の必要性を痛感するのである。

 だが幕府は彼の才能を放置しなかった。翌年彼は勘定奉行として軍制改革を担当することとなる。彼はついに造船所建設に向けて動き始める。しかし莫大な費用のかかる造船所建設には反対の声が幕府内にも多かった。勝海舟を始めとして船は外国から買った方が安上がりだと考えていた。しかしこれに対して小栗は「我が国は既に外国から購入した船を何隻も持っている。破損したら修理する場所が必要ではないか。」と主張する。小栗は船舶を安定して運用し続けるためのドックの必要性を考えていたのである。

 

造船所建設に際しての3つの選択肢

 しかし造船所建設には多くの資金と高度な技術が必要で、どちらも当時の幕府にはなかった。当初はアメリカの支援を受けるつもりでいたが、アメリカは南北戦争の勃発でその余裕がなくなってしまった。となれば他の列強と手を組む必要があるが、その相手を間違えると日本が植民地化される危険さえある。この相手国の選択について小栗には3つの選択肢があった。

 1.イギリス 当時間違いなく世界最強の海軍国であった。しかしイギリスは海外に対する侵略性が強く、その上に薩摩と結びついているらしいところが気になるところである。2.オランダ 昔から日本と交流があり、一番依頼しやすい相手ではある。しかしこの頃には既にオランダの国力は落ち目であって全面的な援助が可能かどうかに疑問がある。3.フランス 新興国であるが最近になって日本に接近を図ってきており、イギリスの植民地政策を批判して幕府から好印象を得ていた。フランスは絹織物が主力産業であるが、蚕が伝染病で壊滅したため、日本からの蚕を求めていた。また近年になって造船技術の近代化にも努めている。

 この3つのどれを選択するかだが、番組のゲストはやはりNo1と組むべきという点でイギリスを推す声が多い。私も同意見だが、さらにイギリスが薩摩と接近をしていることから、逆にその薩摩を牽制する意味でもイギリスを抱き込むのが得策と考える。

 

ようやく造船所建設が動き始めるが・・・

 しかし小栗の選択はフランスであった。フランスは技術者であるヴェルニを送り込み、ヴェルニは造船所建設の場所として横須賀を選択する。一方年間100万ドルにも及ぶ費用の捻出のため小栗は、生糸の海外輸出でその費用を賄うことにする。生糸を幕府が独占し、それをフランスと独占的に取引することで利益を上げることにしたのである。

 こうして造船所の建設は軌道に乗り始めるが、世の中では幕末の動乱に突入していた。幕府軍は長州征伐において長州の近代兵器の前に敗北、幕府の権威は急速に低下していた。交渉のために長州に赴く勝海舟に、小栗は郡県制の構想を告げたという。彼は幕府を中心とした中央集権的近代国家建設を考えていたのである(しかし現実的にはこの時の幕府には既にその力はないと思うのだが・・・)。

 この小栗の選択についてゲストが討論しているが、やはりフランスと生糸を独占したことはイギリスの反発を招くことになり、大局的にはそれはマズかったろうという指摘が出ていたがそれは同感。また小栗の郡県制の考えは、それが幕府の中から出てくるというのは画期的だが、これは身分制の解体につながり、武士中心の幕府の体制を考えると急激にこのような改革を行うのは難しかったのではとの指摘もあり、これも全く同感である。

 

幕府の敗北と志半ばでの小栗の処刑

 しかし幕府軍は鳥羽伏見の戦いで敗北、薩長軍が江戸に攻め上ってくる。ここで小栗は慶喜に徹底抗戦を主張して、ある秘策を提案する。それは幕府陸軍が薩長軍を食い止め、そこに海から軍艦で艦砲射撃を加えるというものだった。後に大村益次郎は「もしこの策を取られたら我々は全滅していた」と述べたという。しかし恭順の意志を固めていた慶喜はこの提案を却下する。江戸は明け渡され、小栗の構想は頓挫することになる。

 その後小栗は、知行地である権田村に退去し、自らが居住するための屋敷の普請を始めていた。しかしその小栗に対して新政府から追討令が出る。小栗は陣屋を構えて砲台を建設して反逆の意図が明らかであるというものである。小栗は逮捕されて斬首される。41歳であった。結局小栗が手がけた造船所は新政府に引き継がれ、この横須賀製鉄所が後に海洋国家日本の中心となる多くの船舶の建造に携わることになるのである。


 全くもって有為の人材を無意味に殺してしまったものである。小栗の反乱なんて言うのは明らかに濡れ衣であり、恐らく新政府は小栗の才を恐れたのだろう。また小栗が慶喜に徹底抗戦を主張したというような話も伝わり、危険分子と見なされたのだと思われる。当時の新政府には逆に小栗を取り込んでその才を活かそうと考えるだけの度量のある人物はいなかったということだろう(実際に新政府の末端には成り上がりの小者が多かった)。磯田氏が「小栗のような人物を殺してはいけないとかばうものは誰もいなかったのか!」とかなり熱く主張していたが、これは全く同感。ただ幕府方の者が小栗をかばえば、小栗の共犯として自分の身が危うくなるし、新政府にゴロゴロいる才少なき者とすれば、小栗のような切れ者が加われば自分の立場が危うくなるし、やはり自身の保身を考えた場合には小栗をかばうことにメリットはなかろう。その結果、小栗はその才を完全には生かし切ることなく命を絶たれることになってしまったということ。しかし歴史は後に彼の先見の明が正しかったということを証明したわけである。

 

忙しい方のための今回の要点

・日米修好通商条約批准の使節としてアメリカに派遣された小栗は、そこで最新鋭の造船技術を目の当たりにし、日本もこのような施設を建造して近代国家となる必要があると考えるようになる。
・帰国後、外国奉行を経て勘定奉行となった小栗は、幕府内にも反対論を圧して横須賀に造船所の建設を始める。
・小栗はこの時の提携先としてフランスを選択、生糸の貿易を独占することによって費用を捻出することにした。しかしこれはイギリスの反発を招く選択でもあった。
・新政府軍か江戸に迫ってきた時には、小栗は慶喜に徹底抗戦を主張し、幕府陸軍で新政府軍を足止めしておいて海上から戦艦による艦砲射撃を浴びせる秘策を提案する。しかし恭順を決意していた慶喜にその提案は却下される。
・江戸明け渡し後、知行地である権田村に退去していた小栗は、反乱の容疑を着せられて処刑される。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・先週の河井継之助が突っ走って空回りした人だったとしたら、今週の小栗は才があるが故に恐れられ警戒されるという人だったようです。恐らくいかにも切れ者の官僚というタイプだったんでしょう。それだけに社会の体制が変わったなら、それなりにその中で活躍できるタイプの人だったと思えるんですが、重ね重ねも新政府の器量のなさが残念なところです。新政府って、結局はこの後、長州閥で利権の独占ばかりに突っ走りますからね。この過程で排除された有為な人材というのも実は多いです。

 

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