教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

10/17 BSプレミアム 偉人たちの健康診断「平安貴族VS糖尿病 藤原道長の憂うつ」

 「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば」という自らの権勢を誇示するかのような歌を残したことで知られる藤原道長。自らの娘を天皇の后とし、ついには天皇の祖父になった権勢絶頂の頃の話である。ただ彼は同時に糖尿病を患っていたことも知られており、何と国際糖尿病会議記念切手に肖像が使用されているとか。今回は藤原道長が患っていた病気について。

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残っている肖像画も何となくメタボっぽい

 

藤原道長を糖尿病にした「生活リズムの乱れ」

 藤原道長が糖尿病を患っていたことは、やたらにのどが渇いて疲れやすくなっていたなどの症状が記録として残っていることから明らかである。ではその原因だが、やはり権力者だけに贅沢を尽くした食生活・・・と考えたいところなのだが、この時代の食事は意外に野菜類が多くてカロリーが低いことから食事が原因とは考えにくいと番組はしているのだが、山盛りに盛ったご飯など炭水化物が多いことからやはり食生活にも原因があると私は思うのだが・・・。

 番組が道長の糖尿病の原因としてあげているのは不規則な生活。道長の勤務実態が日記に残っているそうだが、それによると朝から深夜まで会議とかとにかく長い会議が多くて(日本の悪しき伝統である)生活が不規則なのだという。またこの当時の貴族のスケジュールは占いに頼っていたので、どうしても規則正しい生活とはならないとのこと。

 不規則な生活は体内時計の乱れにつながる。体内時計の乱れが糖尿病の原因になるというのは以前にサイエンスZEROでも言っていたが、体内時計が乱れることによってホルモンバランスなどが崩れ、内臓などに負担がかかるので老化を早める影響もあるという。シフト勤務で夜勤のある人は、日勤の人よりも糖尿病になる率が1.7倍とのことなのでかなり影響は大きい。注意すべしは睡眠時間で、毎日決まった時間に起きるのが理想だとか。また起床後1時間以内ぐらいに朝食を摂ることは、体内時計のリセット効果があるのだという。

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道長がさらに患っていた病

 さらに道長はこれ以外の病気も抱えていたという。そもそも道長は五男であり、名家の生まれではあるが本来は権力のトップに立つ立場ではなかったのだという。それが疫病の流行で兄たちや政府の要人が相次いで亡くなり、30才で何の準備もないままトップの地位に就くことを余儀なくされたのだという。これは道長にもかなりストレスだったようで、下痢止めである訶梨勒を服用していたという記録があることから、過敏性大腸炎を患ったのではないかと考えられるという。また葛根も服用しており、ストレスによる頭痛などを持っていたとも考えられるとのこと。

 その上にもっと深刻な状態になっていた可能性も高いという。これは仕事にやりがいなどを感じている人が陥りがちな隠れ疲労の状態。人は疲労を前頭葉にある眼窩前頭皮質という部分で感じるのだが、達成感などで脳内にドーパミンが分泌されると、この眼窩前頭皮質が働くなくなって疲労を感じなくなってしまうのだという。その間に体の方には気付かないうちに疲労が溜まっていって、過労死などにつながる恐れがあるという。仕事をバリバリとこなして疲れなんて全く感じないというタイプが危ないらしい。

閑話休題 平安女性の美の基準

 平安女性の美への執念はかなり凄かったようである。平安時代の女性は扇などで常に顔は隠しているので、美人の判定基準は髪などになったという。また手紙なども美人の判定基準で重要であった。美しい文字でセンスのよい手紙を書けることが美人に不可欠のことで、源氏物語などにもそういう手紙のやりとりは多数出てくるとのこと。

 また当時の医学書にも女性が美を得るためのサプリのようなものの記載がビッシリあるとのこと。いつの時代も女性の美への思いは強いようです。

 

仏教に帰依した晩年の道長

 晩年の道長は大分目が悪くなっていたという。実は最初のあの歌を詠んだ時に、親友である藤原実資に「あなたの顔が見えない」と語っているとか。この頃の道長は糖尿病の症状が悪化して、糖尿病性網膜症を患っていたと思われる。また動脈硬化もかなり進んでいたようで、胸の病に何度も襲われているとのこと(心筋梗塞的なものを起こしていたのだろう)。このようなことで自らの最後を感じたのか、間もなく道長は大寺院を建立して出家し、念仏に明け暮れる日々を送るようになったのだという。また自らの病の治療には加持祈祷などを用いたようだが、こういう治療も心底から効果があるはずだと信じ込むことでその効果は侮れないとか(いわゆるプラセボ効果というものか)。最後は糖尿病の悪化による免疫力の低下による病などに苦しめられながら、62才でこの世を去った。例の歌はそういう晩年の終活に入る前の歌と考えると、また違った風景が見えてくるようにも感じられるところである。


 以上、権勢を極めた藤原道長の生涯ですが、実は意外に大変なことも多くて良いことばかりではなかったようですというお話。まあストレスは万病の元と申しますので、権力トップともなるとそれなりのストレスにはさらされないわけにはいかないと言うことでしょう。ましてや権謀術策渦巻く朝廷の中ですから。番組中でも自らの娘を天皇の后にするための数々の根回しという言い方をしてましたが、その中には対立者を陥れる謀略なんてものまで含んでいると思われます。油断ならない世界でもあったと思います。

 

忙しい方のための今回の要点

・平安時代に権力の頂点を極めた藤原道長は糖尿病を患っていたことでも知られている。
・道長が糖尿病を発症した原因は、食生活よりもむしろ不規則な生活による体内リズムの乱れが原因であった可能性が高い。
・さらに道長はストレスから来る過敏性大腸炎や頭痛なども患っていたと考えられる。
・ただもっと深刻なものとして隠れ疲労の蓄積が考えられる。隠れ疲労は仕事にやりがいを感じている人が陥りやすく、達成感などによるドーパミンの分泌で疲労を感じる中枢が麻痺することで自覚しないままに疲労が蓄積する症状で、過労死などの原因となる。
・晩年の道長は糖尿病性網膜症による視力の低下なども出ており、この頃から出家して念仏に明け暮れる日々を送って一生を終える。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・藤原道長の糖尿病はかなり有名ですが、国際糖尿病会議の記念切手までは知りませんでしたね。しかしそんなところに使われるとは、当の道長も予想だにしてなかったでしょうね。ただこれは考えようによっては一種の公開処刑とも言える。まあ死んでから昔のラブレターとかが公開される夏目漱石なんかとどっちが良いかと言う話もあるが(笑)。

 

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