教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

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11/24 NHKスペシャル「食の起源 第1集 ご飯~健康長寿の敵か?味方か?~」

 食をテーマにしたNHKスペシャルの新シリーズ。今回のテーマは「糖質」。最近は低糖質ダイエットの流行など、とにかく敵視されることが多いのであるが、糖質は本当に体に良くないのか? その辺りに迫る。

人類は原始時代から糖質を主食としていた

 原始人の主食は肉だと思われてきた。アメリカなどでは「原始人は肉だけを食べてきた。だから自分達も肉だけを食べて健康に。」なんていう、いかにもアメリカ人らしい極端で馬鹿らしいことをやっている連中もいるらしい。しかしそもそもそれが間違いであることが最近の研究で分かってきたのだという。

 石器時代の人骨の歯石を調べたところ、デンプンが検出されたのだという。摂取カロリーの5割が糖質との報告もあり、石器時代の人類は糖質メインで生きていたのである。

 ではどのような糖質を摂っていたかであるが、TOKIOの城島氏が森の中を探索しているが、要はドングリなどの木の実や木の根などを食べていたことになる。城島氏が生でこれを囓ってみているが、木の実はエグいし、木の根は木そのものという感想。要は不味いと言うこと。マズいだけでなく消化も悪そうである。しかし700万年前の人類は贅沢を言っていられないので、これらの食べ物を無理矢理食べていたのだという。

 

200万年前の食の大革命が人類の進化をもたらす

 しかし200万年前に食の大革命が起こる。この時代の人類のものである遺跡から火を使っていた跡が見つかったのである。この頃になると人類は加熱調理という方法を編み出したのである。木の実や木の根は加熱することによって柔らかく甘くなる。これはデンプンが加熱でブドウ糖に変化したからである。このブドウ糖は舌から「甘い」という快感となって脳に伝わる。この時に初めて人類は食の喜びを知ったのかもしれない。

 こうして大量の糖質を摂るようになった人類であるが、それが人類自身に大きな変化をもたらす。人体で最もブドウ糖を消費するのは脳であるが、この頃から人類の脳が急激に大型化していったのだという。実に脳の体積は2倍にまでなったという。つまり人類が進化したのは調理して糖質を摂るようになったからだというのである。

 

人類にとってもっと重要な糖質

 実際に糖質は人類にとって重要な栄養素であることは確認されており、極端に糖質の少ない食生活をしているものは、死亡率が1.3倍に増加することが研究の結果判明したという。低糖質ダイエットは確かに短期的には減量効果があるが、これを長期間続けることは非常に危険であるということである。糖質は人間にとってもっとも重要なエネルギーであるというのである。

 人類と糖質の関係は人類の祖先がまだ単細胞生物だった頃にまで遡る。この時の人類の祖先は、効率的にエネルギーを生み出すことが出来なかった。そこで糖質を取り込んでエネルギーを生み出す能力を持つ微生物を体内に取り込むという進化を遂げる。この時に取り込んだ微生物が細胞内のミトコンドリアである。人類はその働きによって効率的にエネルギーを作り出し、進化を遂げることが出来たわけである。

 糖が不足するとどういうことが起こるか。糖の不足は細胞の新陳代謝を悪化させることから、血管壁が傷ついて動脈硬化を招くという。実際に糖質不足になると脳梗塞のリスクが50%アップするという報告もあり、さらにガンのリスクも上昇するという。

 

米を食べ続けたことが日本人に起こした変化

 人類は1万年前に農耕を初めて、糖質のタップリの農作物を得るようになる。その中で日本人は米を選んだわけであるが、米には必須アミノ酸を含むタンパク質や食物繊維なども含まれており、非常に優れた食品であるのだという。日本人は3000年前ぐらいから米を食べてきたと考えられるが、そのことが日本人に特有の進化を起こしたという。デンプンを噛んだ時に、日本人は欧米人よりも早く甘みを感じるが、それは日本人の唾液に含まれるアミラーゼ遺伝子が多いからであること分かったのだという。このおかげで日本人はデンプンを早く分解でき、さらには肥満になりにくい体質なのだという。アミラーゼ遺伝子を多く持つものは、インスリンの分泌量が少なく、そのことによって肥満になりにくいのだとか(逆に言うと、だから糖尿病になりやすいような気もするが?)。

 さらに米を食べ続けたことは遺伝子以外にも変化をもたらしたという。ラオスには今でもほとんど米ばかりを食べている人たちがいるが、彼らには生活習慣病がほとんどいない彼らの腸内細菌を調べたところ、プリボテラ菌という菌が2割ほども存在することが分かったという。このプリボテラ菌は糖質から短鎖脂肪酸を作り出す働きがあり、この短鎖脂肪酸は肥満予防、動脈硬化・糖尿病予防の効果があるのだという。最近の日本人は米をあまり食べなくなってきているので、この菌の量は減っているようだが、それでも調べたところでは7%ぐらい存在していたという。食生活が腸内細菌に影響を与えるのである。

 様々の研究の結果、摂取エネルギーの50%を糖質で賄う食生活が最も寿命を長くすることが明らかとなってきた。日本人なら一食でご飯一杯ぐらいがちょうど良いらしい。

 

 TOKIOが出演していることで、少々バラエティ臭い番組の作りになっているのが少々ウザさを感じさせたが、それに反して番組の内容はなかなかに衝撃的である。特に最近流行の低糖質ダイエットを完膚なきまでに否定しているのは痛快であった。私は以前から低糖質ダイエットの流行には危険性を感じていたが、それを理論的研究から完全に補強しているというのは実に頼もしい話。まるで糖質自体が人類にとって有害であるかのように宣伝しているような書物まであるようだが、本当にそうなら人類はとっくの昔に滅びているはずであることを考えれば、その論点のおかしさには気づくべきものである。

 腸内細菌の話は11/20のガッテンにも出ていたが、食生活が腸内細菌の状態に影響を与えるということで、その腸内細菌の中身はそれぞれ環境によって変わるということのようである。そういうことを考えると、やはり地産地消的な考えが一番人間にとっては健康なんだろうなという考えに行き着く。日本人には日本人の食生活があり、アメリカ人にはアメリカ人の食生活があるので、日本人が半端にアメリカ人の食生活を真似している状況というのは一番不健康なんだろう。

tv.ksagi.work

 

忙しい方のための今回の要点

・原始人の主食は肉であったと考えられてきたが、実は木の実や木の根などの糖質がエネルギーの5割を占めていたということが、原始人の歯石の調査で判明した。
・さらに200万年前、人類は火を使って調理することを覚え、これによってブドウ糖の摂取量が劇的に増加した。そのことは人類の脳の巨大化を促すことになり、この間に人類の脳は2倍の大きさになっている。
・糖質は人類にとってもっとも重要なエネルギーである。それは太古の単細胞生物であった頃に、糖質からエネルギーを作り出す微生物を体内に取り込んだことから始まる。その時の微生物がミトコンドリアである。
・低糖質ダイエットは短期的にはダイエット効果があるが、糖質不足の食生活を続けることで死亡率が1.3倍に増加、脳梗塞などのリスクが5割増しすることが分かった。
・米は必須アミノ酸を含むタンパク質や、食物繊維も含む優れた食品である。こめを食べてきた日本人はアミラーゼ遺伝子が欧米人より多く、それが肥満を抑制する効果などを持つことが分かった。
・ラオスではほとんど米ばかりを食べている人たちがいるが、彼らには生活習慣病はほとんどいない。彼らの腸内にはプリボテラ菌という、糖質から短鎖脂肪酸を作り出す細菌が存在し、それが健康効果を持っている。


忙しくない方のためのどうでも良い点

・私も長年あちこちをウロウロした経験から、地産地消というのが一番美味いということは体験的に知っていますが、どうやら健康の観点からもそれが正解のようです。膨大なエネルギーを費やして地球の裏側から食べ物を運んでくる生活は、やはりいろいろな面で無理がある上に不健康であるということでしょう。
・人間の遺伝子は食生活の影響で千年レベルぐらいで変化するということが分かってきたといいます。ということは、もし今の飽食の時代が後1000年ぐらい続いたら、いくら食べても生活習慣病にならないように人類が進化するということになるのでしょうか。その代わりその後に飢餓の時代が来たら人類は呆気なく絶滅しそうだが。