教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

1/15 NHK 歴史秘話ヒストリア「前畑がんばれ 誕生!女性初の金メダル」

 日本の女性アスリートで初めて金メダルを取り、実況中継ではアナウンサーが実況を忘れて「前畑がんばれ!」の応援だけしてしまったという伝説で有名な前畑秀子を紹介。露骨なオリンピックイヤー企画である。

 

紀の川の天才水泳少女

 前畑秀子は和歌山の橋本の出身。ここを流れる紀の川は水泳の聖地として有名で、オリンピック選手が9人も輩出し、そのうちの2人がメダルを取っているという。この地で前畑は天才スイマーとして学童記録を更新するなど知られた存在であったらしい。

 ただ前畑の家は貧しく、前畑も漠然と学校を終えると稼業(豆腐屋)を手伝って、そのうちに結婚するという将来像を描いていた。そんな前畑が卒業前にハワイ遠征の選手に選ばれる。前畑の実家はその費用を捻出する力がないため、親戚などがカンパを募って費用を調達したという。この天才少女のこのまま埋もれさせたくないという意識が近隣の人などにも多かったようである。

 そしてこのハワイでの大会で彼女は見事に優勝する。そしてこのことから彼女のその後の運命を変えることになる。当時女子の運動に力を入れていた椙山女学園から入学しないかと声がかかったのである。そして彼女は椙山女学院に編入し水泳に励むことになる

 

オリンピックに出場して銀メダルを獲得するが・・・

 回りの支援者や支えてくれた家族の期待に応えないとと考える彼女はハードな猛練習を続ける。朝、昼、晩とひたすら訓練を続け、18才の時にロサンゼルスオリンピックの選手として選ばれる。女子平泳ぎ200メートルに出場した彼女は、見事に銀メダルを獲得する。

 達成感に満ちて帰国した彼女は、帰国後引退して結婚するつもりでいた。しかし帰ってきた日本は次のオリンピックでの金メダルを期待する声に充満していて、引退などを言い出せるような状況ではなかった。彼女は強烈なプレッシャーの中で次のオリンピックを目指すしかなくなった。

 

精神的にボロボロの状態で何とか金メダルを獲得する

 結局は彼女はハードな練習を続けるしかなかった。精神的にボロボロになりかけながらも、毎日2000メートル以上を泳いだという。そうして迎えたベルリンオリンピックだが、そこには強力なライバルであるドイツのマルタ・ゲネンゲルがいた。準決勝では前畑以上の記録を出している。精神的に追い詰められていた前畑は眠れない状態になっており、渡されたお守りを丸めて飲み込むなどという奇行まで見られたという。周囲の期待に加えて国家の威信とかのくだらないものを背負わされてつぶれる寸前にまでなっていたのである。

 そして迎えた決勝。前畑とゲネンゲルは終盤までデッドヒートを繰り広げる。このデッドヒートの終盤で発生したのが例の「前畑がんばれ!」の実況である。ゴールした時に前畑は自分は負けたと思っていたらしいが、場内の日本の歓呼で自分が勝ったことに気付いたという状態だったらしい。

 ようやくストレスから解放された彼女だが、どうやらこの時のことはトラウマ寸前までなっていたのか、帰国の時に大会での実況のレコードを聴かされた時には「苦しくて聞いていられない」と逃げ出したそうな。

 帰国後、彼女はようやく念願であった結婚をして家庭を持つ。そして水泳の世界からは完全に離れていたのだが、50を過ぎてから一般の人に水泳を指導するコーチとして水泳の世界に復帰、途中で病気で倒れたこともあったが懸命のリハビリで復帰(このリハビリがさすがに若き日に猛鍛錬した人だと感じさせるハードさ)して、亡くなるまで水泳の指導を続けたようである。

 

 番組には成長した岩崎恭子など往年のスイマーが登場していたが、やはり彼女たちのプレッシャーも半端でなかったらしい。前畑がかけられたプレッシャーはその数倍と予測されるので、とんでもない状態で彼女は大会に臨んだのではと語っていたのが印象的。実際に歴史上はこのプレッシャーに押しつぶれて、中には死を選んでしまった選手までいる。にも関わらず相変わらずつまらないことを繰り返しているなという気はする。

 偉人・前畑秀子の物語ですが、私はオリンピックはこの「国家の威信」とかのくだらないものが渦巻くところが一番嫌いです。なぜオリンピックで金メダルを取ることが国家の威信につながるのかが意味不明。それはあくまでその選手個人が素晴らしかったわけであり、他の国民やまして国家など無関係なのに。頑張った選手に対し「おめでとう、素晴らしい」と称えるのは当然であるが、「同じ○○人として誇らしい」とか言う心理が理解できない。これには「いや、あんたは同じではないから」とツッコミたくなる。これが言いたいのなら、誰が優勝したとしても「同じ人類として誇らしい」と言っていればよいのである。まるで虎の威を借りているようで個人的には醜さしか感じない。そんなに他人の偉業に乗っかろうとするなら、どんな小さなことでもよいから自分で何か誇れることをしろと言いたくなる。

 ましてや今のオリンピックは利権渦巻く伏魔殿。災害復興を放り出して東京オリンピックを最優先にした日本なんか見ているとそれが端的に出ている。正直なところこんなオリンピックはいらないというのが私の考えである。

 

忙しい方のための今回の要点

・和歌山出身の前畑秀子は子供のころから天才水泳少女として注目されていた。
・卒業前の海外での大会で優勝し、そのことで椙山女学院に編入して水泳の訓練に励み、ロサンゼルスオリンピックの代表に選ばれて銀メダルを獲得する。
・前畑自身は帰国後引退して結婚するつもりだったのだが、周囲の次は金メダルを期待する声の中でベルリンオリンピックで金メダル獲得が使命となってしまう。
・強烈なプレッシャーの中でほとんど押しつぶれ去る寸前なっていた前畑であるが、ライバルとの激戦を制して見事に金メダルを獲得する。
・帰国後、結婚して水泳から完全に離れた彼女だが、50を過ぎてから一般人への水泳の指導者として復帰し、水泳の楽しさを伝えたという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・オリンピック選手の頑張りを見ていると、確かに素晴らしいと感じるのだが、だからこそ国家の誇り云々なんてくだらないことで汚すなと強烈に感じる。

 

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