教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

3/11 NHK 歴史秘話ヒストリア「隠された震災 昭和東南海地震」

大戦末期の「隠された大震災」

 終戦の前年の12月。中京地区を中心に甚大な被害をもたらした大地震が発生したが、その地震は戦争中の情報統制の元で「なかったこと」にされてしまって隠蔽された。その隠蔽された大地震、昭和東南海地震について紹介。

 太平洋戦争下の日本。既に戦局も悪化して本土爆撃なども行われつつあった中、情報統制は一段と強化されていき天気予報などまでが軍事情報として統制される中、地震の情報までもが統制下に入っていた。

 

その前から始まっていた情報統制

 その兆候は前年の鳥取地震の時に既にあったという。鳥取地区でM7.2の巨大地震が発生して木造家屋はほぼ全滅、死者1083人という甚大な被害が出たのだが、この時には通常の報道がなされて義援金なども集まり早急な復興が行われた。しかし国会内における地震の状況を視察した議員の報告を無能の東条英機が「日本の国力低下につながる情報を公にするのは好ましくない」というわけの分からん理由で差し止めるということが起こったという。もう既に大本営発表の戦況は現実の状況とは全く乖離していた時代であるので、現実を示す情報はいかなるものも軍部にとっては好ましくなかったのであろう。戦争を最優先にして国民を切り捨てる考えであり、オリンピックを最優先にして国民を切り捨て、コロナの被害を過少に見せようとする安倍にも通じる。

 地震研究の場にも統制が及んだ。鳥取の現地調査をした東京帝国大学地震研究所の萩村尊礼が新聞に請われて地震のことを書いたら所長に呼ばれて今後こんな事をするなと怒られたというのである。さらに地震研究所はアメリカ軍の機雷の投下の検出という軍事研究に動員されることになる。コロナについて正確な報告をすると直ちに上から弾圧されるという安倍政権下にそっくりである。

 

そして大地震が発生

 そしてその地震は唐突に発生した。実はこの昭和東南海地震は現在懸念されている南海トラフの地震と同じメカニズムの地震だという。日本の地震研究は当時からかなり進んでいたので、地震研究の専門家はこの地域での巨大地震の可能性は指摘していたらしい。地震の神様と呼ばれていた元東京帝国大学教授の今村明恒は、御前崎付近の急激な地盤沈下から大地震が近いことを警告していた。しかしそのような報告が上げられても政府は取り合わなかった。そもそも対策の打ちようがないが、無能な東条は都合の悪い報告は「あー、うー、聞こえない」の状況だったのだから仕方ない(それどころか都合の悪い報告を上げる者は前線に送られかねない)。これもまさに新型コロナ脅威の警告に対して「あー、うー、聞こえない」状態だった安倍そのまま。

 地震の破壊力は凄まじく、三重県では倒壊家屋が1万2千棟、死者は400人に及んだ。東海地方の多くの軍需工場なども倒壊し、勤労動員の学生などが大勢下敷きとなっていた。甚大な被害の報告を受けた軍の責任者は、とりあえず迅速な生産再開のためのハッパをかけるが、後は現実逃避モードに入って勤労奉仕の学生などに、精神論だけの中身のない訓示を垂れて被害の現実は必死に誤魔化していたらしい。地震の報が伝わった中央が一番最初に行ったことは報道に対する統制で、この大地震は新聞で一切報道されることがなかったという。

 それでも地震研究者達は必死で被害の情報を収集し、それが今日でも資料として生きているとのこと。また甚大な被害を受けた工場はすべて埋め立て地などの地盤の軟弱な土地に建っていたものであることも判明したという。これらについて専門家からの警告はあったが、この報告もことごとく抹殺された。

 しかしいくら日本が秘匿したところで、地震波は世界中に伝わるので、日本の東海地区で地震が発生して甚大な被害が発生していることはアメリカには筒抜けだったという。そしてアメリカ軍はそれにトドメを刺すべく名古屋を中心とする中京地域に爆撃を仕掛けてきた。この爆撃でも多くの住民が命を落としている。

 

さらに専門家が警告していた余震が被害を拡大

 またこの地震による余震の可能性も専門家から指摘されてはいたのだが、軍は当然のようにこの報告も無視。とにかく都合の悪いことは「あー、うー、聞こえません」と言っていたら消えてなくなると思っているようだ。その結果、三河地区でこの地震に刺激を受けたと思われるM6.8の直下型の地震が発生。直下型のために被害範囲は狭かったのだが大きな建造物が軒並み倒壊し、被害は甚大であった。しかも先の地震の被災者は支援も情報も一切ない中で傾いた家の中で過ごしていたので、その下敷きになってなくなる者も多かったという。この地震の被災者に後に聞き取りを行った人によると、被災者は厳しく箝口令を敷かれていたために最初は言葉が出ず、それが聞き取りをしているうちにいろいろと思い出して当時の苦労のことが湧き出てくるという状態だったという。支援も何もなく被災者は相当な困難に直面したことが覗える。

 地震と空襲で甚大な被害が出る中、放送局に向かった軍の責任者は苦しい戦況を伝え、空疎な精神論を振りかざすだけだったという。まさに先日の安倍の会見そのものである。そして日本は敗戦を迎えることになる。

 

 正直なところ戦中の日本軍部の愚かしさは今更言うまでもないが、ことごとく現在の安倍政権に符合することの方が問題である。なお当然のことながら番組内容は安倍のことには一切触れない。そんなことをすればそれこそ呼び出しを食らって飛ばされかねない。番組の内容はあくまで「震災の日に関連してかつての震災の話を伝える」という主旨になっているが、なぜわざわざこの「隠された」震災を伝えるのかと言うことに関しては、我々は放送の行間を読む必要があるだろう。先日緊急事態法制が無理矢理に可決され、安倍の一存でいつでも情報を統制できる体制が確立しようとしている。安倍が勝手に「緊急事態」を宣言すれば、国民は一切の情報を遮断されて安倍の利権確保のためにあらゆる犠牲を強いられる可能性があるのである。どんな難局に対応する際にも、正確な情報というものが重要なのは今更言うまでもない。そしてその正確な情報というのは、検査の件数を増やせば患者数が増えて利権ピックの開催に影響するからと、意図的に検査件数を抑えさせている政権なんかに期待できないのは言うまでもない。

 

忙しい方のための今回の要点

・大戦末期、中京地方を中心とする昭和東南海地震が発生して甚大な被害が発生した。
・しかし戦争遂行を最優先する日本政府は報道管制をかけてこの情報を完全に秘匿した。
・また地震の専門家からは大規模な余震の可能性も指摘されていたのだが、政府はこれについても完全に黙殺した。
・その結果、三河地区で直下型の地震が発生。先の地震で被害を受けた家屋内にいた住民などが多数下敷きとなって命を落とした。
・多くの被災者は支援のほとんどない中で苦しい生活を余儀なくされた。
・また日本政府がここまでして情報を伏せたにもかかわらず、アメリカは日本での地震波を検出しており、日本で地震が発生して甚大な被害を受けたことは完全に把握しており、トドメを刺すべく中京地域に爆撃を実行している。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・要するに歴史の教訓は「馬鹿に権限を独占させてはいけない」ということに尽きる。
・とにかく責任者が中身のない精神論をふりかざすようになったらもう終わりです。精神論だけで物事が解決するなら、日本の上空に襲来したB29はすべて日本人の精神で撃墜されたはずです。責任者はそもそも具体的な対策を打ち出す必要があり、それなしにとにかく今は耐えるようになどのことを言い出した時は、つまりは何も手がない、もしくは手を打つ気がないという意味になります。

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