教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

3/18 NHK ガッテン「火災・食中毒・入れ歯 よくぞここまで!体当たり研究者SP」

 最近は放送がほとんどなくて、前回から何と1ヶ月ぶりの放送となります。そろそろ「月刊ガッテン」に番組名を変えた方が良いのではという気もしますが、1ヶ月ぶりの放送はスペシャルという名の要は小ネタ集です。この番組のネタ切れもいよいよかなり深刻なようです。例によっての3人の専門家が登場というパターン。

 

火災研究の専門家が提案する消火器の正しい置き場所

 まず最初に登場するのは火災の専門家、鈴木弘昭氏。火災の現場に足を運んでは調査・研究を54年行ってきた専門家だという。彼は旧建設省で火災について研究を行っていたのだが、フラッシュオーバーの研究をしていた時は炎に近づきすぎてフラッシュオーバーで顔にやけどをしたことがあるそうな。ちなみに髪の毛がチリチリに焼けるのは日常茶飯事だったとのこと(私も実験で経験ありますが、髪の毛って一瞬炎が吹き付けただけで簡単にチリチリに焼けます)。煙の研究の際には煙の温度を測るのに自分で温度計を持って立ったという熱の入りよう。自分で体験しないと分からないからとのこと。スプリンクラーや防火扉などは彼の研究の結果による産物とか。

 で、そんな鈴木氏が訴えるのが「消火器を置く場所」について。調査では台所や玄関なんて答えが多いようだが、鈴木氏によると消火器は台所には絶対に置いてはいけないとのこと。

 

消火器を台所においてはいけないわけ

 その理由であるが、台所は火元になりやすく、しかも台所に人がいない時に火元になることが多い(天ぷら鍋を火にかけたまま忘れてその場を離れたり)ことから、火事に気がついた時には台所に入れない状態で消火器を取ることが出来なくなることが多いからだという。だから正解は台所の外で台所に近い部屋だそうな。また玄関というのは「外に助けを求めてから消火に向かう」という意味では悪くはないとのこと。間違っても物置などに放り込まないように(パニックになったら咄嗟に置き場所が分からなくなる)。

 なお火災報知器については、是非とも階段に設置して欲しいとのこと。と言うのは1階が火事になった場合に2階の部屋で気がつかず、逃げようと扉を開けた時には階段が煙で一杯で避難できずに死ぬというパターンが多いからだという。確かに階段が煙や火の通り道になることはよく起こり、あの京アニの放火事件でも階段から上がってきた煙に巻かれて多くの人が亡くなっている。だから大型建物では階段には防火扉があるものであり、非常階段は大抵屋外になっている。

 

食品保存の専門家が解明したくさや液の秘密

 次は食品保存について。ここで登場するのはくさやの専門家・・・でなくて、食べ物の保存や安全の研究の専門家・東京家政大学の藤井建夫氏。藤井氏は新島に通ってくさやの研究を重ねたそうな。くさやとは内臓を取ったムロアジやトビウオなどを塩水が主体のくさや液に漬けてから干物にしたもの。独特の臭いが有名だが、味が深いことで固定ファンがいる代物。このくさやの驚くべきところは、保存期間が長いということ。またくさや作りの作業をしていると指の怪我が化膿しないとか、手の病気が治ったという話まであるらしい。この秘密はくさや液にあるに違いないということで、藤井氏は時にはくさやの加工場に泊まり込んでくさや液の細菌について研究したという。

 くさや液はそもそも塩水であるが、それを長年使い込んでいるうちにそこで独特の微生物の生態系が発生しているのだという。その中には抗生物質的なものを生成する微生物がいるので、これが腐敗菌やその他の菌の繁殖を抑えるのだという。独特の生物圏ができているので、後から来た新参の食中毒菌などは繁殖の余地がないのだとか。

 

真空パック食品についての注意事項

 その藤井氏の研究成果の一つは、食べ物が腐らないと考えられている高塩分条件下でも繁殖する好塩菌という微生物がいるというもの。高塩分濃度のしょっつるが腐敗したことから発見したという。現在、藤井氏の研究成果はしょっつるを製造しているメーカーでも品質管理の参考にされているという。

 さらに藤井氏が我々に対して警告するのは、身近に存在する食品の食中毒の危険について。まず最近の塩辛などは塩分が低くなっているために細菌が繁殖しやすくなっているので保存が効かないということに注意するということ。それとレトルト食品と真空パック入り食品の区別をするようにとの話。一見するとどちらもほぼ同じに見えるが、レトルト食品は高温で殺菌しているので常温保存が可能なのに対し、真空パック食品は風味の低下などを防ぐために十分な高温加熱をしていないので要冷蔵であるという。真空だけでは繁殖する菌があるので注意とのこと。最悪はボツリヌス菌などが繁殖する危険があるので、冷蔵保存を決して怠ってはいけないというわけ。ちなみに両者は真空パックの商品には絶対に要冷蔵の表示があるので区別できるという。

 

壮絶な入れ歯作りのカリスマ

 最後は入れ歯作りのカリスマ歯科医であるが、この人がある意味で今回のラスボスである。その人物は歯科医師の村岡秀明氏。彼の「よくぞここまで」は実際に入れ歯を使用している人の感覚を理解するために、自らの歯を抜いて実際に入れ歯をつけて試してみたということ。やはり自分で実際の感覚を体験しないと、患者の気持ちは分からないということだという。

 入れ歯というのはなかなか難しくそれでいて重要である。実際に合っている入れ歯と合わない入れ歯では食事などのしやすさだけでなく、言語の発声の明瞭さなどまで変わってくるという(入れ歯が合っていないといかにも年寄り的なゴニョゴニョした不明瞭な声になる)。村岡氏の体験から分かったことは、患者は入れ歯の専門家ではないので、その訴えが必ずしも核心を突いているとは限らないということらしい。例えば「問題ありません」と言っている人も実は入れ歯が合っていなかったり、また入れ歯の左が痛いと言っていた人の入れ歯の問題は右が合っていないことで、右がグラグラ動くことで左側に痛みが起こっているなんとこともあるらしい。こういうことは自身で入れ歯を体験することで分かったという。

 村岡氏は現在は歯科医師のための入れ歯の作り方の講習のようなものもしているらしいが、患者とのコミュニケーションが大切とのこと。そのためかどうかは分からないが、とにかく喋りが流暢かつ軽妙な方で、喋りの本職の志の輔氏が圧倒されるぐらい。本人によると「はなし家(歯無しか)」だそうです。恐れ入りました・・・。

 

番組の最後に・・・

 一番最後に彼らの近況が報告されているが、鈴木氏は現在は火災の原因などを鑑定する鑑定士を行っているという。彼の鑑定結果によって裁判の結果などに影響するので重要な仕事だという。これは火災を知り尽くしている鈴木氏だから可能なこと。また藤井氏はチルド食品などの低温下で繁殖する低温微生物を発見し、それをチルド食品などを製造するメーカーに警告しているという。新たな微生物チェックなどを製造ラインに組み込むようになったメーカーが登場している。村岡氏は相変わらず勉強会を開催中で、そのおかげで入れ歯作りに対して自信を持つようになった歯科医なども出ており、入れ歯の伝道師となっているようである。

 なお一番最後で室内でこもり方の視聴者のために体のキレを取り戻すクネクネ体操(以前にこの番組で紹介されたもの)を再度紹介している・・・のは良いのだが、番組終了後に突然志の輔氏と小野アナが改まって立っていて、志の輔氏が「本日も放送を最後までご覧頂きましてありがとうございます」なんて言い出すので、とうとうこの番組の放送も最後かと思ってしまった(笑)。「今まで長年放送を続けてきましたガッテンですが、今回で・・・」という言葉が勝手に頭の中で流れてしまった(笑)。ちょうど番組の改編期だし。

 

 まあこんな勘違いをしてしまったそもそもの原因は、最近とみにこの番組のネタ切れ感がかなり強烈になっているから。とにかく今回みたいに放送間隔はやたらに空くし、今回なんかも内容が悪いわけではないが、単独ネタとしては非常に弱いネタばかりだから小ネタ集にして凌いだというのは明らかだし。そういうわけで私自身が「そろそろこの番組、限界じゃないの?」っていう考えが頭にあったからだろう。

 もっとも新しい番組に切り替えたところで、生活情報番組という形態である以上はネタ切れであるのは変わらないので、どうしようもない。何も志の輔氏と小野アナの番組進行が不評なわけではないから(というよりもむしろ好評だろう)、番組の形態を変えても何の意味もないどころかむしろさらに失速するのがオチ。実際にこの枠で何度かパイロット的な番組の放送もなされたが、いずれもガッテンよりも遥かにつまらないものばかりだった。

 ネタ切れになってしまった以上、考えられる延命策としては扱う情報の幅を広げることだろう。ガッテンは当初はもっと幅広い情報を扱っていたが、長年のうちに扱う情報がほぼ食品関係と健康関係の2ジャンルになってしまった。これをもっと幅を広げて広範に生活に関係する科学的な情報を扱うということにして対象を広げる(例えば「所さんの目がテン」みたいな路線である)というやり方ぐらいだろうか。そういう意味では今回のような「火災」に関する話なんてのはその一例になりそうではある。鈴木氏の研究に絞るだけでなく、もっと広範に「もしもの火災、どうすれば防げる? どうすれば生き延びれる?」というテーマ立てをすれば、一本の番組は十分に製作可能だと考える。

 

忙しい方のための今回の要点

・火災研究の専門家の鈴木弘昭氏によると、消化器を台所に置いていると、台所を離れている時に台所が火元になった場合(実はこれが多い)、消化器を取り出すことが出来なくなるので、消化器は台所の外の台所に近い場所(隣の部屋など)に置くのが良いという。
・食品の保存などについて研究している藤井建夫氏は、くさやの研究などからくさや液の中では独特の微生物の生態系が確立しており、中には抗生物質のようなものを生成する微生物がいることから、くさやの保存性が高いことを発見している。
・また高塩分下でも繁殖できる好塩菌などを発見しており、これはしょっつるなどの品質管理に重要とのこと。
・なお我々へのアドバイスとしては、高温で殺菌して常温保存できるレトルト食品に対し、普通の真空パック食品は風味の低下を防ぐために加熱が十分ではないので、冷蔵で保存しないと食中毒菌の繁殖の危険があるので注意とのこと。
・最後に登場した歯科医師の村岡秀明氏は、入れ歯のことを理解するために自らの歯を抜いて入れ歯をつけてみたという壮絶な人。患者の立場に立つことの重要さを訴えている。我々患者としては医師と緊密にコミュニケーションをとることが大切。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・正直なところ、今回の「よくぞここまで」は最後の村上氏のことでしょう。最初の二人については確かに熱心な研究者ではありますが、正直なところ研究者ならこのレベルまでやる人というのはそう珍しくはないです(研究者というのはある意味で、どこかぶっ壊れた人ですので)。ただ最後の村岡氏レベルはさすがにそうそういません。

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