教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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3/19 BSプレミアム 偉人たちの健康診断「南極タロジロ物語」

 今回の主人公は「南極物語」の映画の主人公にもなったタロとジロ。なので今回は「偉犬たちの健康診断」になってOPが変更になっているのに注目。実に芸が細かい。

 

 

最初は言うことを聞かなかった犬たち

 タロとジロは若いカラフト犬で、犬ぞりを引くために南極基地に連れて行かれた。カラフト犬は大型犬で力も強く寒さにも強いために犬ぞりに最適だと考えられた。そもそも犬ぞりが採用されることになったのは、探検隊が装備していた国産の雪上車が、果たして南極の過酷な条件下でまともに動作するかに不安があったからである。

 しかし北海道で訓練を重ねた犬たちは、いざ現地でソリを引かせようとすると、真っ直ぐ走らない、ペンギンなどを見たらそっちに気を取られて飛びかかろうとするなど、完全にコントロール不能な状態になってしまう。北海道で訓練をした時には走る目印になるものがあったが、南極の大氷原では目印がないために犬が戸惑ったのだという。そして犬は本来、小さくてすばしこいものを捕食しようとする習性があるので、犬の気が散っているところにペンギンが現れたことで犬が本能に突っ走ってコントロール不能になったのだという。

 

 

犬と心を通わせることで同志になる

 犬ぞりを担当していた北村は最初は力尽くで犬に命令を聞かせようとしていた。しかし上手くいかない。それがある時、犬と心を通い合わせることが重要であると言うことに気付いたという。

 犬は飼い主の感情を読み取って同調する能力が高い動物だと言われている(群れをなす動物の本能だろう)。実際に飼い主に難しい計算を解くなどのストレスを与えて心拍を上昇させたところ、犬も同じく心拍上昇が見られたという実験結果がある。犬は人の感情を読むのだという。だから南極などの何の目印もない状況下で犬をコントロールするには、犬に対して表情や動作などで明確に意志を伝えることが重要なのだという。特にリーダー犬がこちらの様子を覗ってきた時が重要とのこと。北村は犬と心を通い合わせるようにし、お互いが真の意味で「同志」となった時に犬ぞりは進むようになったという。

 

 

南極で大活躍した犬の特殊能力

 そして犬ぞりが真価を発揮する時がやって来た。基地にこもりっきりの厳冬期を終えて南極の春の10月。ボツヌーテンへの調査に出ることになる。雪上車はガソリンに含まれる水分の凍結によってエンジンがまともに動作しなくなっており、調査には犬ぞりが使われることになった。ボツヌーテンは基地から200キロの距離があり、途中には円丘氷山群という氷の丘陵地帯の難所があるのだが、これを犬と人が協力しながら乗り越えた。

 また南極には危険が多くある。その内の一つが氷の割れ目である。しかし犬はこれを避けるのにも有利であった。犬の優れた嗅覚及び聴覚が、氷の割れ目からの海水の匂い、氷の音などを検知して危険を避けるのに役だったという。こうして犬ぞりの活躍で探検隊は目的を達成する。第1次越冬隊で犬ぞりは1600キロの距離を走破したという。

 

 

予想外の悪天候により、南極に取り残された犬たち

 しかし第1次越冬隊員が第2次越冬隊員と交代する時、南極は季節外れの大寒波に襲われ、越冬隊を輸送してきた宗谷が氷に阻まれる事態となる。氷の中でもがいた宗谷はスクリューの羽根の1枚を損傷してしまい、砕氷能力が大きく低下することになり、アメリカ海軍のバートン・アイランド号に救われることになってしまう。

 宗谷から飛行機を飛ばして越冬隊員を回収し、第2次越冬隊員を派遣する計画であったが、第1次越冬隊員を回収して第2次越冬隊員を3人送り込んだところで天候は悪化して飛行機を飛ばすことは出来なくなった。この時にバートン・アイランド号からの「このままだと2隻とも氷に閉ざされてしまうから、直ちに隊員を回収してここから離脱しろ」との連絡を受ける。そこで宗谷は一旦待避してから天候の回復を待って改めて隊員を送ることにして、隊員達を回収する。この時に犬たちは鎖につながれて当面の食料を与えられた状態で置かれた。しかしその後、いつまで経っても天候は回復せず、宗谷は補給物資などが許すギリギリまで粘ったが、結局は第2次越冬隊の派遣を断念せざるを得なくなる。これはすなわち基地に置いてきた犬たちを見殺しにすることでもある苦渋の決断だった。

 

 

生きていたタロとジロ

 翌年、宗谷は第3次越冬隊を乗せて南極に旅立つ。その中には北村の姿もあった。そして昭和基地にたどり着いた北村が見つけたのが2頭の犬の姿。タロとジロだった。15頭の犬のうち、首輪から抜けたのは8頭で、タロとジロ以外の6頭は行方不明となっていた。タロとジロは以前から何度も首輪から抜けて隊員を困らせるということをしていたらしく、それが幸いしたらしい。またタロとジロは一番若い犬であったことから、脂肪を燃焼して体温に変える褐色脂肪細胞の量が一番多く、それが彼らが生き残った理由ではないかとされている。またタロとジロは南極の夏期には近くに営巣地のあるペンギンなどを餌とし、冬にはアザラシの遺体などを埋めて保管してギリギリのところで命をつないでいたと推測されるとのこと。また彼らは1才の時に南極基地に来ているので、謂わば南極基地が家のようであるので、この地から離れなかったのも幸いしたと考えられと言う。と言うのは南極基地があるのは南極大陸でも比較的「温暖」な地域に該当するからとのこと。

 また彼らの生存を助けた存在があったらしき事も分かったとのこと。それは後に基地の近くで亡くなっていたのを発見されたリーダー犬のリキの存在。以前からリキはタロとジロの2匹の面倒を見ており、また基地から抜け出して数日後に戻ってきたことがあったという、この辺りの地理に長けていてペンギンがどの辺りに住んでいるかなどを知っていて、タロとジロに生きていく術を伝えたのではないかとされている。しかし7才と比較的高齢だったリキは南極の冬の寒さに耐えられず亡くなったのだろうとのこと。

 その後、タロとジロは第4次越冬隊にも協力し、ジロはそこで病死、タロは隊員と共に日本に帰って天寿を全うしたという。その後、南極に生き物を持ち込むことが規制されることになり、犬ぞりが使用されることはなくなったが、彼らの物語は未だに伝えられている。

 

 

 「南極物語」。私も学生の頃に映画を見ました。確か高倉健と荻野目慶子だった記憶があります。ただ何しろ南極で犬たちがどうなっていたかなんて分かっていないので、そこのところすべて想像に基づくフィクションにするしかなく、犬たちを残してきてしまった人間のドラマだったのを覚えてます。確かこの頃は「キタキツネ物語」とか動物ものが流行していた時代だった記憶が。

 またちょうど「おしん」がヒットしたのもこの時であり、「おしん横綱」こと隆の里が登場したのもこの時でした。「巨人、大鵬、卵焼き」に代わって「おしん、タロジロ、隆の里」なんて言われた頃でもあります。結構「耐えて我慢して大きく花開く」というエピソードが受けた時代です。これが現代は「耐えて我慢して、その挙げ句に野垂れ死にさせられる」なんて世の中ですので救いがないです。

 今回の番組によると、タロとジロが生き残れたのは「若かったから」。単純ですけど説得力があります。またベテラン犬のリキが彼らに生存の術を伝えて亡くなったというのは初めて聞きました。この辺りなんか今だったら絶対に映画に盛り込む内容でしょう。常に若くて未熟なタロとジロを率いて指導してきたリキが、最後は厳冬の中でタロとジロに「俺はもう駄目だ・・・お前達は2匹で逞しく生き残るんだ・・・」「リキさん!!」って場面がなかなか涙を誘いそう。人間のドラマだったら渋いベテラン俳優の役どころですね。

 後に動物の持ち込みが禁止されたとの事ですが、これは現地生態系を守るためです。実際に島などに持ち込まれたペットの類いが繁殖して、その島での最強の捕食動物として君臨して他の固有種の生存を脅かすようになったなんて例は枚挙にいとまないですから。特に猫なんかが要注意で、彼らは小さくてもさすがに虎やライオンの仲間で、かなり優秀なハンターです。ですから天敵がいなくてのほほんとした島の固有種なんてひとたまりもない。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・タロとジロは南極の第1次越冬隊に犬ぞり用の犬として参加したカラフト犬である。
・当初は犬ぞりは思うようにコントロールできなかったが、これは隊員と犬の間の信頼関係が出来ていなかったからだという。犬は飼い主の感情を察する能力があり、信頼関係が出来ると同志となるとのこと。
・犬たちは第2次越冬隊に引き継ぐためにつながれたまま置かれたが、結局は第2次越冬隊は悪天候のために基地に行けず、犬たちは見殺しにされることになる。
・翌年第3次越冬隊が生き残ったタロとジロを発見する。
・タロとジロが生き残ったのは彼らが若く、脂肪燃焼で体温を生成する褐色脂肪細胞が多かったからではないかとしている。また彼らの生存を支えた存在としてリーダー犬リキの存在があったと推測されている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・タロとジロの話は今でも私の世代では涙腺直撃される話の一つです。
・で、とうとう人間以外にまで対象を広げたこの番組。次は「忠犬ハチ公」でしょうか?(笑)。

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