教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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5/13 BSプレミアム 英雄たちの選択「織田信長・逆境が生んだカリスマ」

 今回のテーマは織田信長。彼の人生においての正念場だった3つの危機について紹介とのことであるが、要は過去の総集編である。スタジオに集まっての収録が出来ない状況になっているので、杉浦アナだけが登場して進行という形になっている。

 

冷静な状況判断で奇襲に成功した桶狭間の合戦

 まず最初に登場するのが桶狭間の合戦。信長は父の信秀が亡くなったことによって織田家の家督を継ぐことになるが、当時の織田家はまだ尾張の統一も出来ておらず、信長は謂わば斜陽気味の家業を突然継がされることになったような状態だという。当然ながらプレッシャーもあっただろう。しかも当時の信長は大うつけとの評判。家中もなかなかまとまらず、一族からの離反なども出たが、最後には自らの弟まで討ってなんとか織田家をまとめ上げる。

 しかしそこに超強力な外敵が登場。三河、駿河、遠江の三国を支配する今川義元である。今川軍は尾張の国境の沓掛城、鳴海城、大高城の三城を落として尾張侵攻の意図を見せる。これは織田家の有力な財源であった津島湊、熱田湊などを狙う動きである。信長はこれらの城の周辺に、善照寺砦、鷲津砦、丸根砦などを築いてこれを牽制した。それに対して義元は2万5千の大軍を起こす。今川迫るの報にどう対処するかを家臣連中が戦々恐々で見守る中、信長は家臣を帰宅させてしまう。

 とうとう信長も策が尽きたかと思わせたが、鷲津砦、丸根砦に今川軍の攻撃が始まったとの急報を聞くと、信長はわずか5騎を引き連れて清洲城を飛び出すと善照寺砦に向かう。信長は時期を覗うと共に情報を収集していた。そして最前線の善照寺砦で義元の本陣が3キロ後方の桶狭間にいることを察知すると、2000の手勢で義元の本陣を奇襲する。義元の本陣は5000。信長は義元が主力から離れる機会を覗っていた。そして雨に紛れて義元本陣に接近すると奇襲攻撃で見事に義元を討ち果たし、今川軍は総崩れとなる。信長の時機を覗う行動力と嗅覚を示す戦いである。また信長が鷲津砦と丸根砦の後詰めをしなかったことで、義元に「織田は出てこない」と油断させることにつながったとの分析もある。

 

中世権威を利用しつつ、近世体制を作り上げた信長

 2つめの危機が足利義昭を奉じての上洛。実はこれが容易なことではなかったのだという。信長は準備に2年の月日を費やしている。また信長は幕府の権威を歯牙にかけていなかったかのように良く言われるが、実はそうではないというのが近年の説である。この時期はまだ将軍の権威はあり、信長を将軍を頂いての天下静謐を目指していたという。つまり革新的な人物といわれる信長であるが、古典的な権威にも価値を考えていた。

 しかし信長の前には多数の敵対勢力があり、それらを排除すると共に、将軍を守るためには今日にも兵力を常駐させる必要がある。そのために不可欠だったのが兵農分離である。それまでの農閑期にだけ農民を動員するのではなく、専門の軍事集団を築くことによって初めて上洛が可能となる兵力を確保できた。なおこれが出来たのは信長が流通を押さえるなどでによって十分な経済力を有していたことが大きいだろう。なお「信長が中世の権威に近づこうとすればするほど、近世的な体制を確立することになった」と磯田氏が言っているが、そういう面もあるようである。

 こうして信長は義昭を奉じての上洛を果たすが、結局は信長の勢力を恐れた義昭が信長に反旗を翻し、結果的には信長は義昭を京から追放、自ら新しい権威となることになる。

 

畿内制圧につながった姉川の戦い

 3つめの危機が姉川の戦い。信長の上洛勧告を拒絶した朝倉氏を信長は攻め、金ヶ崎城を落とす。しかしここに浅井長政の裏切りの報が届く。お市の婿に当たる浅井長政の裏切りについては、当初は信長は「虚説」として信じなかったという。信長としたら、長政に対しては北近江を与えるなど十分な処遇をしてきたという認識だったようである。

 しかしこれに対しては信長は長政を同盟者ではなくて家臣として扱っており、それが浅井家の不満につながっていたという説が近年有力である。ここでは登場していないが、実際に信長が長政のことを「使えない家来」というような表現をしていると言われている文書が出てきたりしているとか。なお磯田氏は「お市を嫁にして信長の身内になったことで、信長の人物を知ったことによってかえって裏切る気持ちになった」という興味深い見解を披露していた。つまりは信長と身内としてつきあうことになって信長の内部のどす黒さなどまでまざまざと目にすることになり、「この義兄、ヤバすぎる」と裏切る気持ちになったのではということである。これはあり得る話と私も思う。あんな義兄、私でも嫌だ(笑)。実際に信長は弟など身内を次々と抹殺してきた男でもある。

 挟撃の危険が迫った信長は迅速に京に撤退する。この際に殿を受け持ったのが豊臣秀吉、明智光秀、徳川家康というオールスターキャストである。彼らの働きもあって信長は3日後に京に帰り着く。こうして信長の復讐戦である姉川の戦いが始まることになる。この時に浅井軍は信長の本陣に奇襲をかけ、信長は危うい状況に追い込まれるが、同盟者である徳川軍の働きで難を逃れている。下手をすれば信長はここで逆桶狭間に遭っていた可能性もあったのだという。この後は信長は小谷城を完全包囲、周囲の勢力を調略も併用しつつ個別に攻略していく(比叡山焼き討ちなど)ことによって最終的には浅井氏を滅ぼしている。これで畿内に信長の敵はいなくなり、信長は事実上天下を押さえることとなった。

 

 信長は数々の危機を乗り越えながら、その度に天下統一に向かってステージアップしたという話である。まあ確かに逆境は成長のチャンスではある。しかしそれは結果として成功したから言えるのであって、実は逆境でつぶされてしまう例の方が現実には多い。信長も紙一重だったが、やはりあの高い行動力が全ての解決の源だったようである。もっとも英雄と言われる人物には不可欠の「運」もかなり持っていたと思う。にしても、戦国ファンの大半が思うのは「朝倉、弱すぎ」。朝倉義景もせめて自らもう少し積極的に動いていたら歴史が変わったかも。もっとも朝倉家は外に攻めに出る以前に内紛が多すぎるのだが。滅びる家と言えばそんなものです。浅井長政はややお気の毒。恐らく浅井長政は「普通に良い人」だったろうと推測される。夫婦仲も良かったらしいし。生まれたのがこの時代でなければ、無難に仕事をこなして家庭を守る良きマイホームパパだったろう。

 今回の進行は杉浦アナであったが、本編で彼女が登場するのは3つめの姉川の戦いの時だけであり(これが彼女の初出演らしい)、後は渡邊佐和子アナが担当していた。彼女って、ヒストリアやる前はこの番組やってたのか。同系統の番組で横滑りというキャストだったわけか。ちなみに渡邊佐和子アナ、美人ではあるが目が大きい(というよりも少々ギョロ目)のと首がやたらに長いスタイルから、私は彼女を見る度にETを連想してしまう(笑)。巨乳美人の杉浦アナとは対称的なタイプでもある。

 

忙しい方のための今回の要点

・桶狭間の合戦では、信長は義元の本陣が主力から離れる機会を巧みに覗って奇襲を成功させている。
・義昭上洛の際には信長はかなり準備に時間を費やしている。この時期の信長は将軍の権威を尊重している様子が覗われており、そのための準備を行う過程で近世的な改革を重ねて力を増していくことになる。
・金ケ崎の退き口では、迅速な判断によって危地を脱した。また姉川の合戦でも実はかなり危機があった。しかしこれらの危機を乗り越えて着実に敵対勢力を滅ぼすことで、畿内から反信長勢力を一掃してしまう。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・今回はコロナ用の再編集版になってしまいました。次回も幕末3本立ての再編集版のようです。まだまだこれからもこの手の再放送が増えるでしょうね。聞くところによるととうとう大河も朝ドラも中断が決定されたとのことだし。

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