教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

6/17 NHK 歴史秘話ヒストリア「ノブナガ万華鏡 英雄とその時代」

信長像の変遷を追う

 世間の織田信長像も時代と共に変遷してきた。そのような信長像の変化について紹介・・・とのことであるが、要は総集編である

 信長と言えば「麒麟がくる」の信長像が斬新だと話題になっているが(いきなり大河の宣伝である)、従来の信長のイメージを覆して新しい信長像に迫ろうという研究が近年進んでいる。

 ここで現在の信長像に大きな影響を与えたものとして「信長の野望」が登場して、シブサワコウがいきなり登場するのだが、確かにあの作品の「金城武系信長像」は世間にかなり大きな影響を与えている。おかげで最近登場する信長の肖像は、本人のものよりもあのゲームのものに近いものが増えている。

 

信長像の確立に大きな影響を与えた「信長公記」

 信長のイメージを作り上げるのに大きな影響を与えた書物と言えば、信長の家臣だった大田牛一が記した「信長公記」である。これは20才の頃から信長に仕えて細かい記録を付け、晩年に江戸時代になってからまとめたものだという。信長の最後の本能寺の変の有様などは実際に当時本能寺にいた侍女に取材して記したらしい。信長公記に描かれる信長像は戦の天才で部下に対しても情が篤いという魅力的な武将像で描かれているという(多分、牛一の崇拝みたいなものも入っているんだろう)。

 信長は本能寺の変の時、攻めてきたのが明智光秀と聞いて「是非もなし(仕方ない)」と答えたと残っているが、この台詞は現在でも織田信長を演じる場合には最後に出てくる台詞。ここでかつて大河ドラマ「国盗り物語」で織田信長を演じた高橋英樹が登場するが、この最後のシーンはさすがに万感の思いが一瞬のうちによぎるという溜をタップリと作った濃い演技になっている(この濃さがいかにも高橋英樹)。高橋英樹は信長を演じる時には喜怒哀楽の感情を極端に表に出す人物として演じたという。最後のシーンでは明智光秀の名を聞いて、最初は怒りが湧き、それが次の瞬間に段々と悟りのような感情に転じていくというのを「溜」の間に巧みに表現している。この辺りは流石である。

 

ルイス・フロイスによる信長像と時代による変遷

 さて信長像の確立にはもう一人、ルイス・フロイスも大きな役割を果たしている。キリスト教布教のために訪れたルイス・フロイスは布教を許した信長を好意的に描いている。布教の障害である仏教勢力を弾圧した辺りが特に評価が高くなる理由のようである。彼は信長を革新的な人物として描いている。これが概ね今日の信長像の基本になっていると言われている。

 江戸時代になると信長は乱暴者として描かれているという。明治になると信長は天皇を支えた人物として評価され、高度経済成長時代に信長は改革者として描かれたという。これらが概ね今日の信長像につながっている。ちなみにヒストリアには信長が最多出場らしいが、多くの場合は櫻木誠氏という一人の俳優が演じているという(この番組に登場する俳優の名が出たのは初めてでは)。

 

近年の研究でさらに変化した信長像

 そして最近登場してきた信長像は、例えば将軍義昭との関係でも、昔は傀儡として義昭を軽んじていたとされていたが、近年の研究では信長は義昭を奉じて天下を安定させることを考えていたとされている。また有名な天下布武の印にしても、かつては武力で天下を平定するといういかにも野心的なスローガンと考えられていたが、現在は天下静謐と併せて、将軍を中心に機内(天下の意味が最近では機内のことだと言うことになっている)を安定させるという意味に代わってきており、かつてよりは「穏やかな」信長像が浮上してきている。

 また信長の残虐行為として知られている比叡山焼き討ちも、近年の研究では比叡山に何度も警告はしたものの延暦寺が従わないので、やむなく焼き討ちを行った(それもさらに近年の研究では焼いたのはごく一部とも言われている)とされている。なお現在の大河での信長も出てきたが、あれはハッキリ言って「単なるマザコン」である(笑)。

 併せて斎藤道三の先進性が実は信長の手本になったということや、三好長慶が最初の天下人だったというような話も出てきて、最後はやはり明智光秀の話(どうやら光秀は医術の心得もあったらしい)などを紹介して終わり。まあいわゆる総集編です。


 まあ信長像って人によってイメージがいろいろあるでしょうね。私のイメージは、キレやすくて扱いにくいパワハラ上司。織田家自身が超ブラック職場ですから、私のようなタイプには向かないですね(笑)。

 

忙しい方のための今回の要点

・信長像も時代と共に変遷しているが、信長のイメージに大きな影響を与えたのは信長の家臣だった大田牛一が江戸時代に記した「信長公記」とルイス・フロイスによる記述である。
・牛一は信長を情もある主君として描いており、ルイス・フロイスは革新的な人物として好意的に描いている。
・信長は江戸時代には暴君、明治には天皇を支えた人物、高度成長期には改革者と時代に合わせて描かれ方が変化した。
・近年の研究では信長は最初から義昭を傀儡として軽んじていたのではなく、将軍を中心に畿内の安定を図ろうとしていたとされている。
・また比叡山焼き討ちについても、ギリギリまで交渉で決着を付けようとしていたとされている。
・また近年は斎藤道三の先進性が信長の手本になったとか、三好長慶が初の天下人であったなどあらたな戦国像が現れつつある。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・まだ番組制作がフルで出来る状態でないから、やはりしばらくは総集編の類いが増えるようです。もっともこの番組はコロナ以前から月に数回は再放送だったりしましたけど。で、次回はあれは再放送ですよね、多分。

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