教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

"コロナの影響で苦境のJALは、なんと旅客でなくてうなぎを運んでいた" (7/28 テレ東系 ガイアの夜明け「独占密着!JAL 緊迫の3ヶ月」から)

国内線、国際線共に壊滅的状況のJAL

 コロナの影響で人の動きが全く止まってしまった。新幹線はガラガラの状態で空気輸送になっていたが、JALではほとんどの便が欠航になって、羽田空港が羽田駐機場になってしまう始末。赤坂社長によると5月末時点で収入がほとんどない状態。6月の株主総会では無配を報告することに。5月の利用客は国内線で92.5%減、国際線に至っては99.0%減という惨憺たる有様。

 そんな中で復活に向けて戦っている社員もいる。緊急事態宣言が解除されて徐々に人の動きが出てきたことから、JALも路線の再開を検討していた。商機を逃してはいけないが、かといってどの程度の顧客が期待できるかが読みがたい。国内路線の便設定を決定する丁子陵太郎氏はそのさじ加減に苦労していた。6月19日に移動が解禁されたことで空港にも客が戻ってきたことから、6月下旬の国内線運航率を約5割まで引き上げた。7月下旬に向けては約7割まで戻すつもりである。

 

国内線事業復活をかけて、新企画を試みたものの・・・

 6月下旬には国内路線事業部の大澤勇気氏が路線開拓のために動き出していた。目をつけたのは羽田と南紀白浜空港を結ぶ路線。ここはJALしか乗り入れていないので優位に戦える。さらに白浜には温泉に加えてパンダというキラーコンテンツがある。上野のパンダしか知らない東京の人には、飛行機で1時間でいける白浜のアドベンチャーワールドで6頭ものパンダを間近で見られると言うことを知らないことが多い(関西では常識なんだがな)

 さらには地元のとれとれ市場では漁港で揚がった新鮮な魚介類をその場で調理して食べることが出来る。さらに大澤氏が目をつけていたのがホテルシーモアだった。この大型ホテルで、今政府が苦し紛れに唱えている「ワーケーション」をしてもらおうという考え(どうも筋の悪すぎるアイディアに思えるが)。で、番組的には実際にそれをやっているといういかにも浮き世離れした雰囲気の連中を紹介しているが、まあこれがスベルスベル。で、経団連のCMはともかくとして、大澤氏が悩んだの価格の設定。やはり運賃を1万円以下にして勝負をかけないとインパクトが弱い。しかし大澤氏の提案に対してチームの面々は渋い顔。19%増の客を獲得しないと採算が合わないのだという。しかし座して死を待つわけにも行かないと勝負をかけることに。

 そうして打ち出した「7日前までの予約で片道9700円」というインパクトのある価格。これを7月27日~8月31日(お盆は除く)まで設定した。販売開始から1週間、なかなか好調だった売り上げが突然止まり、キャンセルまで出てくる事態に。東京での感染拡大が明らかとなり、例のGoToキャンペーンから東京発着が外されることになってしまったのだ。これは大澤氏にとっては予想外の痛恨事。そして7月27日、新価格の便が初めて飛ぶ日がやって来たが、この便の利用客の45%が9700円のチケットを買った・・・と番組では言っているが、搭乗率についての言及はなし。恐らく惨憺たるものだったのだろうことが想像が付く。

 

旅客のいない国際線はうなぎを運んでいた

 一方、国内線以上にどうにもならないのが国際線。人の動きが全く止まってしまってほとんどの便が欠航となってしまった。そんな中で成田-上海便が運行されていた。何をしていたかと言えば貨物輸送。貨物機を持たないJALが、少しでも収入になるならと旅客機で貨物を輸送していたのである。最初運んでいたのはマスク。1日2便で上海から中国製のマスクをせっせと輸送した。しかしそれもマスクが日本中に行き渡るにつれて輸送の需要が減ってきており、1日2便が維持できずに1日1便に減便する事態に。何か新しい輸送貨物が必要となっていた。

 上海の貨物事業のトップである矢次創一氏は夏の土用の丑に向けて、中国からのうなぎの輸送に目をつける。中国で養殖されたうなぎを生きたまま日本に運んで、そこで蒲焼きとされる。矢次氏は中国の養殖業者とトップセールスで掛け合い、輸送の依頼を取り付けることに成功する。今まで中国系の航空会社を使用していた業者が、日航の丁寧な運搬を評価して切り替えてくれた・・・と番組では言っているのだが、実際にはかなりディスカウントしたのだろうと思われる(それでも空便で飛ばすよりはマシ)。こうしてうなぎ便が日本に飛んだ。矢次氏はさらに秋に向けて今度は松茸に注目している。

 

客室乗務員を目指す34才の主婦の前にもコロナの影響が

 航空業界の復活を信じている人がさらに一人。34才、3児の母で主婦である門脇晃子氏。学生の頃に航空業界を目指していたのだが、すぐに結婚して主婦になったためにしばしその夢を諦めていたのだという。しかしこの度、JALが新たに乗り出したLCCであるジップエアが新たな客室乗務員を募集したので、それに応募したのだという。彼女を含めて20人の訓練生は就航の時を目指して訓練に励む毎日。彼女も家族の応援を受けて訓練に励んでいた。

 しかしそこにコロナが直撃、ジップエアの初就航は予定より1ヶ月遅れての6月3日のタイのバンコク便。しかしこの便には乗客も客室乗務員も一人も搭乗しない。貨物便として運航されることになってしまったのである。7月には韓国・ソウルに就航する予定。

 しかしコロナの状況は悪化していく。研修も在宅のものが増えてきて不安を感じる門脇氏。それでも6月中旬の筆記試験には無事全員が合格。だがその結果に祝いを述べに現れた社長から告げられたのは7月1日に就航予定だったソウル便が延期になったという知らせ。客室乗務員として勤務する日を待つ門脇氏。7月下旬、ようやく制服を身につけたが、まだ実際に就航になる日はまだ未定である。

 で、JALは8月1日からまた国内線を大幅に減便することを決定とのこと。まだまだトンネルの出口は見えない。

 

 今回は苦境に陥ったJALの現状について。途中で政府の苦し紛れのワーケーションなんて馬鹿げた政策の宣伝が少し入ったが、まあそれは与太話として聞き流しておけばよいだろう。あんなもの不要不急の移動は避けろというのとGoToトラベルをどうやって両立するんだと迫られた政府が、苦し紛れに思いつきをぶち上げただけのものだから。ハッキリ言って以前に提唱していた「プレミアムフライデー」に輪をかけてさらにスベっている。

 JALもGoToトラベルで一気に観光客が増えてV字復活なんて期待をしてたんだろうが、さすがにGoToトラベルwithコロナはいささかはばかられる状況の上に、突然に東京外しのドタバタ(この調子でいけば、早晩大阪と名古屋も外す必要があるだろうし、その内に福岡や札幌も怪しくなる)の影響をもろに被ってしまって、まあ「振り回されているな」という感がありあり。

 それにしてもJAL国際線が仕事がなくて、うなぎを運んでいたとは・・・。そう言えばタクシー会社が料理を運んでいるなんてのも以前にこの番組で紹介されていたな。どこも生き残りに必死である。JALも莫大な国費を投入して再生させてもらったのに、これでまたもう一回コケたら洒落にならないし。

 ただ今回はJALを取り上げてましたが、緊迫度ではANAの方がひどいという話もあります。こっちは放置か? それともあまりにヤバすぎて、経団連のCM番組としてはまともに取り上げるのははばかられるか?

 

忙しい方のための今回の要点

・コロナの影響でJALは、5月の利用客は国内線で92.5%減、国際線に至っては99.0%減という惨憺たる有様。
・6月に移動が解禁されたことで乗客増を見込んで国内線の路線を復活させ、さらには羽田-南紀白浜便の特別料金など勝負をかけたのだが、そこにコロナの二次爆発によるGoTo東京除外が直撃してしまう。
・一方の貨物便はさらなる深刻な事態で、旅客機で貨物を運んでいる状態。上海便は当初はマスクを運んでいたのだが、それも日本で行き渡ってきたことで取扱量が減少してきていた。
・そこで、土用の丑用のうなぎを輸送することにする。さらには秋に向けては松茸に目をつけているとか。
・JALがLCCに参入するために立ち上げた新会社ジップエアでは、34才で3児の母である主婦が客室乗務員になる夢を叶えるべく頑張っていた。しかしこれもコロナの直撃を受けて、初就航の予定はまだ未定である。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・どうしても目出度し目出度しになる状況でないので、番組自体が「俺たちの戦いはまだこれからだ」状態ですね。恐らくしばらく後に「JAL苦闘の1年間に密着」という類いの続報がまた出るでしょうね。
・それにしてもJALがこのざまで、ANAは大丈夫なのか? さらには一回実際にコケたスカイマークは? 下手したら株式再上場の前に再度コケかねない。
・今調べてみたら、3月以降のJALの株価がとんでもないことになってますね。6月の移動解禁の辺りで「そろそろ復活か」と若干の上昇があったようですが、その後のコロナの二次爆発でまた落ちてます。現在はジリ貧模様。

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