教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

9/29 テレ東系 ガイアの夜明け「牛肉新時代 A5が格安 至高の赤身 千円ステーキ上陸」

コロナの影響で高級和牛が価格暴落

 最高級の牛肉と言えば黒毛和牛のA5の適度にサシの入った霜降り。こういう今までの常識がコロナがきっかけで変化するかもしれないという。

 首都圏のディスカウントスーパーのオーケーではA5牛肉を半額で販売して和牛の売り上げが3割増加しているという。コロナの影響で高級飲食店やインバウンドの需要が激減したことから高級牛肉がだぶつき、そのおかげで安く仕入れることが出来たのだという。千葉県内の焼肉店でもA5牛肉を使ったランチセットを1000円で販売したり、超贅沢焼肉セットを通常の半額でネット販売したりしているという。とは言え経営者は「安く仕入れて安く販売できるのはありがたいが、生産者の方が苦しんでいることを考えると少し違う気がする」と複雑な心情を覗かせる。実際に黒毛和牛の生産者は価格の暴落でえさ代が出るか出ないかという状況だという。

 

注目を浴びる赤身肉

 この中で今までの黒毛和牛と違う牛に注目が集まりつつあるという。東京赤坂のイタリアン店ヴァッカロッサでは黒毛でない和牛の赤身肉のステーキが大人気を呼んでいる。いかにも肉らしい風味があり、さっぱりもしているので固定ファンが多いという。シェフの渡邊雅之氏はこの店で和牛の価値観が大きく変わったという。今の日本の肉の基準だとランクの低い肉になってしまうが、このような肉の方が美味しいことが多いという。

 その肉は高知県の奈半利で育てられた土佐あかうしという牛で、日本全体の和牛のうちの0.1%未満という希少種だという。牛を育ている竹崎稔氏は今こそあかうしをアピールするチャンスと考えているという。元々肉質にサシが入りにくいあかうしはどうしてもランクの低い評価を受けるので、地元の畜産家も次々と黒毛和牛に切り替えて、飼育頭数はかつての1/3にまで減少しているという。あかうしは筋肉質で味が濃いのが特徴だという。竹崎氏は自ら育てた稲の藁などを餌にするなど、健康的に飼育することに力を入れている。彼によると黒毛和牛はどこにでもいて個性がないが、高地のあかうしはここにしかいないから面白いのだという。高知県ではあかうしを評価するために、従来とは異なる「R」という赤身の肉を評価する基準を4月から独自に取り入れたという。松下奈緒氏の試食でも「風味が強い」とのこと。

 

オーガニックビーフに取り組む生産者

 赤坂のヴァッカロッサにこの肉を紹介したのが畜産品の流通を手がけるグッドテーブルズの山本謙治氏。黒毛和牛だけに人気の集まる日本の畜産は今後代わるだろうという。彼が現在面白いとして注目しているのが北海道釧路の榛澤牧場で飼育されている牛。ここでは牛は牛舎でなくて牧場の中を飛び跳ねている。アンガス種という牛を有機で育てているのだという。牛の餌は人も食べるオーガニックの規格外品。この9月からネット販売も始めたとのことで、風味の強い赤身が特徴だという。牧場を運営する青山次郎氏は家畜の飼料の販売が本業で、その傍らでオーガニックビーフの生産と販売を手がけたのだという。オーガニックビーフの市場は世界で広がりつつあるので、それが青山氏の勝算となっているという。

 青山氏は山本氏と共に、大阪のミシュラン二つ星点のシェフの高田裕介の元を訪れる。この赤身牛を売り込もうという考えである。しかし青山氏の赤身肉を見た高田氏はいきなり「スーパーに売っている安い肉に見える」と言い出す。そこで青山氏は実際にその肉を焼いて試食してもらう。すると高田氏は「美味しい」と評価が一変、これだとすね肉とか肩や首からいいダシが取れそうと言い出す。東京でオープンする新しい店で使うことを検討してくれることになった。

 

ステーキ激戦区の沖縄から東京進出するチェーン

 一方、ステーキ店がひしめく沖縄から全国に勝負を売ろうという店が登場した。地元の新興チェーン「やっぱりステーキ」売りは1000円の赤身肉ステーキ。使用するのはアメリカ産のミスジ肉。筋が多いこの肉から丁寧に筋を取り除くことで安価に極上のステーキを作り出すのだという。なお店名は沖縄ではお酒を飲んだ後の締めにステーキを食べることが多いからだという。

 社長の義元大蔵氏が東京進出の場として選んだのは吉祥寺都内中心部よりは家賃が割安ということが理由だという。しかし家賃との兼ね合いでなかなかしっくりくる物件がない。不動産屋に紹介されたある物件などは、何とライバルと目される「いきなりステーキ」の真向かい。さすがに義元氏の口から「これはまずいだろう」という言葉が出る。こんなところに開店したら「やっぱりステーキ」でなくて「やりすぎステーキ」だとのこと。「いきなり」とは何のゆかりもないのだが、パクリと見られてしまうことはやはり意識しているとのこと。

 そんな中で元々ステーキ店だったのが閉店したという店舗を見つける。設備もほとんどそのまま使えるし、義元氏としては意中の物件発見である。

 

コロナで状況が一変するが、それでも強気の攻勢に出る

 しかしこの時が2月、その後コロナで状況が一変する。「やっぱりステーキ」では会社の存続に関わる重大事が発生していた。コロナの影響でアメリカの牛肉生産量が激減し、仕入れ価格が5割以上も上昇したというのである。このままでは売れば売るほど赤字が出てしまうような状態。その一方で東京店のオープンは近づいていた。義元氏は決断を迫られる。

 結局義元氏は値段は上げずに量を180グラムから150グラムに減らすことを選択した。幸いにして客の反応は上々で売り上げも目標をクリア。義元氏はさらなる攻勢に出るつもりで23区内の店舗を探している。コロナの影響で物件が以前よりも数倍に増えているのだという。そして蒲田に目をつけて、やはりかつてステーキ店だった店舗に目をつける。どうやらここが東京2号店になりそうである。

 

 蒲田は飲食店も多くて、義元氏は「明るくて雰囲気が良い」と言っていたが、あの辺りは沖縄人の感覚なんだろうか。東京人は「垢抜けない」と感じる気がするのだが。ちなみに私は「東京にしては珍しく私に空気が合う」と感じた(笑)。私は生まれて初めて沖縄を訪問した時に「この地はやけに私に空気がしっくりくる」と感じたのだが、私の前々々世ぐらいは琉球人だったんだろうか? なお前々々世と言ったのは、私は松山で異常に既視感のあったことから、前々世は松山ゆかりの人間だったと推測しているから(笑)。私の推理は恐らく秋山好古の配下で日露戦争に従軍した軍人の一人(どうもロシア料理に親しんだ経験がありそうなことからの推測)。軍人である以上は多分殺人を犯しているので、そのために一度畜生道に落ちてハムスターかモルモットとして転生、実験動物として身命を捧げたことで再び人間に転生したと推測している(笑)。

 まあ与太話はともかくとして、東京というのは飲食店の数は多いが、異常にCPの悪い店が多いので、まともな店なら直ちに大行列が出来るという特徴がある。「やっぱりステーキ」が沖縄で支持を得ているレベルの店なら勝算はあるだろう。もっとも「いきなりステーキ」とか、番組中にも登場した松屋のステーキ店なんかに対してどういう差別化を図って埋没しないかが鍵だが。一時は絶好調だった「いきなりステーキ」も急激に業績が悪化しているということを聞くので楽観は出来ない。特に飲食業界は非常に浮沈が激しい上に、コロナの影響はまだまだ長引きそうなので良い材料が少ないのも現実ではある。

 前半の赤身肉だが、オージーのような味の薄い赤身肉は問題外だが、十分に旨味のある赤身肉なら、最近の流行から考えるややコッテリしすぎの霜降り肉と逆転できる可能性はなくもない。少なくとも私などは、霜降りの脂の多い肉などよりも胃にもたれなさそうだと感じる。ただ赤身肉は焼き方も大事で、ヴァッカロッサのようにじっくり火を通してレアに近い柔らかい状態に焼ければ美味いだろうが、何も考えずに焼くとガチガチになってしまって最悪と言うこともあり得るので、出す店の選択も大事ではないかと考える。

 

忙しい方のための今回の要点

・黒毛和牛のA5が最上と評価される現在の和牛の世界で、コロナをきっかけとして赤身肉の見直しが進みつつある。
・高知では地元のあかうしを評価するために、新規に赤身肉用の「R」評価を導入した。
・またオーガニックビーフの育成も始まっており、海外での市場の拡大を考えると、今後は日本での拡大も予想される。
・ステーキ点の多い沖縄で新興勢力である「やっぱりステーキ」が東京進出を計画、コロナの影響でアメリカ産牛肉の価格が急騰するなどのトラブルもあったが、無事に開店にこぎ着けて上々のスタートを切った。社長の義元氏は23区内に2店目の開店を目指している。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・何にせよ、今までの霜降り信仰から解放されるならそれも一つの進歩。現在の霜降り牛肉は決して健康な状態で育成しているとは言いにくいし、とにかく飼料代も高くつくので(オーガニックがこれよりも安いかには疑問もあるが)。
・もっとも世界の今後の食糧事情を考えると、牛という非効率な食肉を食べ続けることが可能かということに対する疑問は呈されている。タンパク質を最も効率よく生産することを考えると昆虫食が最適だそうな。コオロギが注目されているという。ちなみに私はコオロギは食べたことはないが、イナゴなら食べたことはある。食味としては小エビそのものだった。生物学的にも類縁種だし、そこを割り切れれば食料としては有望だが。

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