教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

10/6 テレ東系 ガイアの夜明け「独占取材!"大戸屋"買収劇の真相」

大型外食チェーン敵対的買収劇に密着

 コロワイドによる大戸屋買収劇は、日本の外食店で初めての敵対的買収として注目を浴びた。その背景にはどういう事情があったのか。番組はその一部始終に密着取材をしていたようである。

 まずことの始まりは4/14にコロワイドが大戸屋に対して経営陣を刷新して将来的には子会社化するという提案を行う。つまりは買収しようということである。

 多くの外食チェーンを傘下に擁するコロワイドは得意のセントラルキッチン方式でコストを低減させることを提案していた。これに対して「店内調理でないと大戸屋の味を守れない」と大戸屋の窪田健一社長は真っ向から対抗する。しかし大戸屋は食材高騰などによるコスト高から価格がジリジリと高騰、さらにそこにコロナの影響で売り上げが激減して危機に陥っていた。謂わばそこを狙われた状況である。

 一方のコロワイドは外食チェーンの中で4番手の巨大企業。しかしコロナの影響を受けていて居酒屋などはかなりの打撃を受けていた。そこで傘下にない定食屋を組み入れることで、今後の景気回復期にシナジー効果で一気に収益を増やすことを考えていた。

 

株主総会では一旦勝利するものの、TOBを仕掛けられる

 1ヶ月後の5/25に大戸屋の社長の窪田氏が動く。記者会見をしてコロワイドの方針に真っ向から反対することを表明した。やはり理由はセントラルキッチンへの抵抗。窪田社長は新メニューが出る度に自ら試食して吟味するというように大戸屋の手作り味に対するこだわりが強い。大戸屋は元々は池袋の大衆食堂から端を発し、1992年に女性の入りやすい店にしたことで飛躍してチェーン展開することになる。それを主導したのが2015年に亡くなった創業一族の三森久美氏である。自ら料理人だった三森氏は新商品開発の際には自らキッチンに立ったという。大戸屋の社員はみなその姿を見ており、三森氏のいとこで社長となった窪田氏も皿洗いから鍛えられた人物だという。それだけに厨房に対する思いの強さがある。

 そして迎えた株主総会。コロワイドは20%の株を押さえているので、後30%の株主の賛同を得られるかどうかが分かれ目になる。大戸屋の株主の6割は個人株主であり、大戸屋の定食のファンが多いという。6/25に開催された株主総会ではコロワイドの提案に賛成する声は出ず、コロワイドの提案は却下、窪田社長は胸をなで下ろす。

 しかしこれで終わらなかった。コロワイドは6/30の株主総会で会長自らが大戸屋にセントラルキッチンを導入するということを訴えている。そして7/9にコロワイドは大戸屋に対してTOB(株式公開買い付け)をすることを発表する。コロワイドの提案した株価は3081円と前日の終値の1.5倍という破格のものであった。

 これに対して従業員は買収反対の声明を発表する。しかしコロワイドによる株式買い付けは着々と進行する。8/29、大戸屋ではOisixと提携しての料理キットの発売を打ち出すなど、改革を進行していることをアピールしようとしていた。そしてあわよくばOisixの出資を仰ぐことに対する期待があったようだが、残念ながら出資の話はなかったようである。

 そしてTOB期限の9/9。コロワイドは経営権を掌握できる47%の株を獲得したことを発表する。大戸屋経営陣の敗北である。裏にはコロワイドへの売却目的で大戸屋株を買った新たな株主の動きがあったという。コロワイドの提示した価格は彼らに十分な魅力を感じさせる設定となっており、その辺りはさすがにM&Aで大きくなり続けたコロワイドとしては手慣れたものであったようである。

 

新取締役の中にお家騒動で敗北した創業者長男の姿が

 コロワイドは大戸屋の取締役10人を解任し、新しい取締役7人を選任した。その中には三森智仁という名前があるのだが、それがまたお家騒動の絡んだ確執のある人物だという。実は三森智仁氏は創業者である三森久美氏の長男で、大学卒業後に2年間の銀行勤務を経て24才で大戸屋に入社、2年あまりでナンバー4の常務に昇進する。これは久美氏の智仁氏を後継者にしたいという意志があったという。しかしその一ヶ月後に久美氏が突然死亡、これをきっかけに創業家と経営陣の対立が勃発してしまう。告別式の2日後に窪田社長が智仁氏に「再来月から香港に赴任して欲しい」と言い出したことに対して、智仁氏が「なぜこのタイミングなのか」と怒って関係が悪化、結局は智仁氏は大戸屋を去ったのだという。窪田社長にしたらもっと経験を積んできて欲しいという考えだったと言うが、智仁氏にすれば父の会社が乗っ取られたと感じたのだろう。

 久美氏の死後に彼が所有していた大戸屋の株式20%が妻と智仁氏に相続されて筆頭株主となる。しかし10億円の相続税が発生したので、銀行に株式を担保にして借金で支払ったという。そして昨年の10月、保有していた株全てをコロワイドに30億円で売却したのだという。コロワイドはこうして大戸屋買収の足がかりを得たのだという。そして智仁氏が大戸屋に舞い戻ることになったのだという。

 智仁氏は大戸屋を去った後、高齢者施設などに外食チェーンの商品を宅配するベンチャー企業を立ち上げていた。彼はシニアマーケットへのアプローチなどを新展開として考えているという。

 

 というわけで智仁氏としては「従伯叔父に乗っ取られた父の会社を取り戻した」という気持ちなんだろう。しかし果たしてこれで大戸屋が上手くいくのかは分からない。現状の大戸屋がコスト高や料理の提供が遅いなどの問題を抱えていたのは確かなようだが、かといってセントラルキッチンの導入は何だかんだ言っても「味が落ちるのは間違いない」と考えるからである。そうなった場合、大戸屋は他の定食屋と差別化をはかれなくなる。この辺りのことまでキチンと新経営陣が考えているかである。どうも目先の売り上げしか眼中にない気がするんだが。

 ちなみに私は大戸屋を利用したことはほとんどないですが、正直なところ「店内調理だけあって流石に美味い」なんていう感想を持ったことはありません(笑)。私からすると所詮チェーンはチェーンということで、その時点でほとんど選択肢から外れますので。

 外食店はコロナの影響で死屍累々なので、今後もこういう買収劇や倒産劇なども増えていくと思われます。ただその時に気になるのは従業員の今後です。外食店は特に技能のないものでも就労しやすい分野として雇用の最後の受け皿になっている部分があるので、この分野が崩壊すると大量の失業者が溢れて、それは直ちに治安の悪化につながる危険があります。どうも今の政府は大企業だけが残ればそれで問題ないと考えているようだが、それは自分達が大企業からばかり政治献金をもらっているから出てくる発想で、実際には国全体の経済を考えると中小企業の壊滅は国民生活の破綻、経済の壊滅に直結します。

 にしても、外食業界が近年になってどんどんと大型チェーンに収束していき、それと共に魅力のない店ばかりが並ぶ羽目になってしまった。私は日本の各地を回った経験があるが、地域によっては駅前はチェーン店ばかりで占められていて食べる店がなくてゲッソリした経験が少なくない。だんだんと日本全体が魅力のない国になりつつある。

 

忙しい方のための今回の要点

・番組では大戸屋買収劇に密着取材をした。
・発端は外食大手のコロワイドが大戸屋を子会社化する方針を打ち出したこと。しかしセントラルキッチン方式でコスト削減を目指すコロワイドに対し、店内調理にこだわる窪田社長が反発、結果としてコロワイドは大戸屋に対して敵対的TOBに及ぶ。
・買収慣れしたコロワイドは大戸屋の株を1.5倍という絶妙な値付けをし、それにつられて売却益目当ての個人株主なども増加、結局はコロワイドは47%の株式取得に成功する。
・コロワイドは大戸屋経営陣10人の解任と7人の取締役を選任した。その中には創業者三森久美氏の長男で大戸屋経営陣と対立して大戸屋を出た智仁氏の名も連なっている。そもそもは彼がコロワイドに大戸屋株を売却したのが今回の買収劇の元になっているという。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・今後どうなるかは分かりませんが、コロワイド側に「利益を上げる」という姿勢ばかりが見え、お客に美味しいものを提供するという姿勢が見えないのが気になるところ。大抵の買収屋はそういうものだが。
・収益を上げる=効率化する=調理を簡単にする=厨房の人数を減らすということで、今後大量の首切りが出るのが予想できる。こうして企業が収益を上げる努力をすると共に失業者が増加して、顧客は貧困化していき売り上げが落ちる。これが日本の現状。

次回のガイアの夜明け

tv.ksagi.work

前回のガイアの夜明け

tv.ksagi.work