教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

9/30 NHK 歴史秘話ヒストリア「戦国マネー・ウォーズ」

戦国時代の日本と海外との関わり

 今回は信長・秀吉・家康といった三人の天下人の経済戦略にスポット・・・なんて言っているが、その実は以前にNHKスペシャルで放送した「戦国」からのネタの流用である。NHKによくある「放送素材の有効活用」というやつで「1ネタで最低3回は美味しい」という予算削減策でもある。

tv.ksagi.work

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海外から戦略物資を入手した信長

 まず信長であるが、城下で楽市楽座を実践するなど当初から経済力の重要性に着目していた大名である。信長が天下取りに王手をかけたとも言える戦いが長篠の合戦での、戦国最強と言われた武田騎馬軍団を鉄砲で完膚なきまで撃ち破った勝利である。

 鉄砲の弾を作るための鉛は戦略物資として非常に重要であった。信長が使った鉄砲玉はその成分の詳細な分析からなんとタイの鉱山で産出されたものであり、それをキリスト教の布教を目指して信長に接近した4つ目のカブラルことフランシスコ・カブラルを通して入手していたというのは、「戦国」でも放送されていた内容通りである。

 また堺を手中に収めることで、分業による鉄砲の国内量産体制も確立しており、これが3000丁もの鉄砲を入手できた理由となっている。これらの戦略によって信長は天下人に躍り出たのである。

 

明国を支配してアジア貿易圏確立を目指した秀吉

 本能寺の変で信長の亡き後、天下を取ったのは秀吉だった。検地によって財政基盤を固めた秀吉が天下統一後に考えたのは、明を含むアジアの貿易圏を確立することだった。当時の明は陶磁器などの交易品を抱える巨大市場だったが海禁政策で交易は制限されていた。そのために秀吉は明国を支配することを考えたのである。

 しかし同様にヨーロッパの超大国スペインのフェリペ2世も中国侵略を考えていた。両国の思惑が衝突していたのである。フェリペ2世の力の源はアメリカ大陸で大量に発掘された銀であり、銀を国際通貨としてスペインは世界経済の覇権を握ったのである。

 これに対して秀吉は国内の銀山を大開発する。戦国末期には佐渡でかなり大量の銀が産出され、最盛期には世界の銀の産出量の1/3を占めるまでになる。なおこの時の世界地図には日本のことを「銀山王国」として記されているという。

 そして秀吉は中国征服の足がかりとして朝鮮出兵を行う。実はこの時同時にスペインのアジアの拠点であるフィリピンへの侵攻まで計画していたという。世界初の世界大戦が起こる可能性さえあったのである。しかしその危機はフェリペ2世と秀吉の突然の死で消滅する。

 

新興国オランダを利用して天下を握った家康

 秀吉の死後の関ヶ原の戦いで天下人に名乗りを上げたのは家康だった。家康は江戸の開発を急いでいたが、未だに経済の中心は大阪であり、豊臣家に忠誠を誓う武将たちも少なくなかった。大阪を訪れた外国人の言葉として「大阪は日本でも最も素晴らしい商業としてあり、秀頼様が皇帝となる日も近い」と記しているという。

 この状況を打破するために家康が利用したのは新興国オランダだった。彼らは布教ではなくあくまで貿易を優先して家康に接近する。そして家康はオランダから最新式の大砲を入手、それを使用することで大阪城を落城に追い込んだのである(かなり途中経過を割愛しているが)。そして家康は江戸を巨大都市に成長させ、国際貿易にも乗り出す。東南アジアには朱印船が行き交い、日本人町も建設されたという。日本からは戦乱が終わったことで不要となった火縄銃や槍などの武器だけでなく、傭兵までも輸出されたという。ちなみにオランダで近年、日本の銅で作られた大砲も発見されたという。

 

 にもかかわらず、その後の日本は鎖国するのだが、近年は鎖国と言っても完全に海外に対して門を閉ざすというのではなく、徹底的な管理貿易だったという解釈になってきています。一番の問題はキリスト教の危険性。「戦国」でも言っていたように、当時のスペインなどはキリシタンを蜂起させて日本を支配するということを目論んでおり、実際に島原の乱の発生で幕府がキリシタンの危険性を認識したことから、キリスト教を排除すると言うことを目的として、布教と貿易が一体だった諸国は追い出したというのが実情のようだ。また江戸時代が進むにつれて金銀の産出量は減少していくのに対し、貿易によって金銀が海外に大量に流出することも問題となってきたという。というわけで、近年では「鎖国」したわけではないという説が有力となっており、これに合わせて「開国」という表現も妥当ではないという議論があるようだ。

 また信長などはキリスト教の布教を許したが、それは当時信長が手を焼いていた一向宗に対する対抗勢力として利用することを考えていたようで、家臣などはキリスト教に改宗したもののの、信長自身は最後までキリスト教徒にはなっていない(あれだけ舶来ものが好きだったにもかかわらず)。この辺りは信長の宗教観というのがかなりドライだったのだろうと言うことを感じさせている。利用できるものは利用するが、一番貴いのは己という考えだったんだろう。流石第六天魔王。

 秀吉は当初からキリシタンの日本征服の陰謀に気づいていたとの話もあり、そういう点では一番ヨーロッパに対して敵対的でもある。もしこの時にスペインと日本の全面戦争が発生していたらどうなっていただろう。日本は戦慣れしていて距離的にも補給は有利だが、スペインは世界帝国であり技術的にも進んでいる。いずれは日本が劣勢となって追い込まれ、最後は植民地にされた可能性もあり得る。まあ地球の裏側で戦争を続けるのはスペインにとっても負担が大きすぎるので、適当なところで手打ちとなった可能性が一番高いが。

 番組は内容も先の「戦国」の通りだが、映像も多分に流用していた。そのために普段のヒストリアらしからぬ「高級な」映像も頻出したのが今回。それにしても特にこの番組は流用が非常に多い。NHKもオリンピックを優先して、あちこちの経費をケチったツケがそろそろ回ってきているようでもある。

 

忙しい方のための今回の要点

・信長はスペイン人宣教師を通じて海外から戦略物資である鉛を輸入し、それで弾丸を作って長篠の合戦で武田騎馬隊に勝利していた。
・秀吉はアジア貿易圏の確立を目指しており、それに反対する明国を武力征服することを考えた。しかし同じく征服王フェリペ2世の元で明国の支配を目指していたスペインと対立することになる。秀吉は明国支配の足がかりとして朝鮮出兵を実行するが、この時にスペインのアジア拠点であるフィリピンへの侵攻も計画していた。しかし両者の対立はフェリペ2世と秀吉がほぼ同じ時期に相次いで亡くなったことで消滅する。
・家康は豊臣家に対抗するために、貿易を目的として接近してきたオランダを利用。最終的にはオランダから輸入した最新の大砲を使用して豊臣家を滅亡に追い込んでいる。その後は江戸を巨大としてとして整備し、対外貿易にも乗り出すこととなる。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・当時のキリスト教布教というのが侵略と裏表の関係にあったのは世界中の例が示しています。もしこの時にキリスト教が国内を席巻していたら、日本が植民地にされなかったとしても、多くの日本文化は完全に破壊されていたろうと思います(実際にキリシタンは寺社の破壊なども行っている)。この頃のこのキリスト教徒の侵略性が、今日の世界の問題にもつながっていたりする(第3国に対する搾取やイスラムとの対立なんかも、大体この頃に端を発している)。

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