珍しいが重要な仕事人達を紹介
この番組では以前に「変な研究者」を紹介したことがあるが、今回は珍しい仕事をしている方を紹介と言うことらしい。まあいつもと趣向を変えた小ネタ集ではあるが、最近はネタ切れが著しいこの番組としては、こういう新趣向も必要だろう。
最初に登場する人物だが、彼の仕事を語る前に番組では、ある問題を抱えている家庭の事例を紹介している。要はその家庭の問題の解決に彼が関係するそうな。
家が虫を吸い込む
その家庭の悩みとは、窓などを閉め切っていても小バエなどの小さな虫が多数家に入り込んでしまうというもの。ではどこから入り込んでいるのかをカメラなどを設置して観察したところ(既にどこから入り込んでいるかの目星をつけてカメラを設置しているので、既にこの時点で仕事人の助言を仰いでいると見られる)。窓のサッシのわずかな隙間などから「吸い込まれて」いるのが写っている。
さてこの原因は何かだが、番組ゲストは「空調」などの完全に的外れな回答をしていたが(空調は室内の空気を循環させているだけで、換気機能のある機種でもない限りは外と直接に空気のやりとりはしない)、少し考えれば分かったように「換気扇」が原因。たかが換気扇ぐらいでという感覚があるだろうが、排気をすれば当然に減圧になるので、その分の空気がどこかの隙間から吸い込まれることになる。ましてやその隙間が狭ければ狭いほど気流も強くなって虫などを吸い込んでしまうということになるのだとか。
対策だが、マンションなどでは吸気口があったりするからそれを開ける。通常は吸気口にはネットが付いているので、それが破れない限り虫が入ることはないという。吸気口のない家では網戸をして窓を開けるのが一番。また窓をどうしても開けたくない人は、部屋の間のドアを開け放って空間を広げることで減圧の影響を小さくするという手もありとのこと。
建物への動物の侵入などを防ぐ専門家
で、最初に登場する仕事人の紹介になるのだが、その人物・小松裕幸氏は建築物への周辺の動物の影響を抑える(虫相手とは限らない)仕事をしているとか。また生態系を守るということを基本にしているので、害虫などと言っても出来るだけ殺さずに対応する。工場などで例えば虫が異物として混入すると大変だから、地味に重要な仕事である。だから換気によって外から虫を吸い込むことを防ぐために吸排気のバランスを考えるなんていうのは基本のようである。これ以外にも玄関を二重ドアにして決して同時に開かないようにするとか、照明は紫外線をカットした黄色いものにして虫を引き寄せないようにするなどの対策を行うとか。
ちなみにNHKとしては宣伝はしないということで会社の名は明確にしていないが、現場に行く車の「シー・アイ・シー」という社名は写すという「取材協力に対する見返り」はキチンとしている。この会社は建物の害獣・害虫対策などを行っている会社のようである。
地中の漏水を発見する名人
二人目の仕事人を紹介する前に登場する事例は、1階の天井の隅から突然にゴトンという謎の音が発生する家庭。この音の原因が次の仕事人の仕事内容と関係しているのだとか。
その仕事人が笑喜久文氏。志の輔氏が「この後『日本人のおなまえっ』にゲスト出演される・・・」なんて言っていたぐらいの珍しい名前(本当にあの番組で由来を調べて欲しい)の方だが、その仕事風景も変わっている。夜に何やらパイプのようなものを地面に当てて耳を澄ましており、夜に行動するからフクロウ隊などと呼ばれているそうだ。実は彼は水道局の人間で、水の音で地中の水道管の漏水を見つけているらしい。しかし音を聞き分けると言っても地面からは車の音やら何やらいろいろ聞こえるし、漏水している場合と問題ない場合の差も微妙なので、経験と鋭敏な聴覚が求められる特別な仕事のようだ。ただ彼らのおかげで例えば東京での上水道の漏水率は3%という低い数字(ローマなんかでは40%らしいから、半分の水は無駄になっている)を保っているわけである。
で、最初の謎の音の原因になるのだが、これは屋根裏を通っている2階の水道の配管が発生源で、全自動洗濯機が給水を止める度にそれがショックとなって水道管が揺れているのだという。それが繰り返されるうちに水道管の固定が緩んできて音を立てているのだとか。このまま放置するとそのうちに水道管が破損して漏水につながる危険があるという。蛇口のように徐々に閉めるのではなく、洗濯機のようにバチンと突然に水が止まるような場合は水道管に負担がかかりやすいとのこと。だから最近のレバー式の水栓などを急にガタンガタンと操作するのはやめた方が良いという。なお漏水発生時はメーターの数字などで推測できる場合があるが、もっとすぐに確認したい場合は、水道メーターを見てパイロットと呼ばれる小さな銀色の丸い板が水道を使っていないのに回っていないかを確認すれば良いとのこと。漏水があれば水道を止めてるのにこれが動くと言うことになるという。
ゼンリンの地図の調査員
最後の仕事人の押野勤は地図メーカーの調査員・・・とのことだが、画面にはデカデカと「ゼンリン」と登場。まあこれも「取材協力に対する配慮」というやつです。
彼の仕事はいわゆるゼンリンの住宅地図のチェック。住民の名前や建物の入口の場所(ピンクの線で書き込むためにピンク情報と呼ぶらしい)などに変化がないかなどをチェックして地図を細かく修正していく作業に従事している。
地味な仕事であるがこういう細かい情報があることで、例えば消防署などは通報者からの情報から場所を素早く特定したりなどが出来るという。また災害発生時などはネットが使えなくなり紙の地図が命になったことがあったことから、行政などでも地図を常備するようになったところも増えたとか。ちなみに地図は年ペースで更新されるので、消防などではそのペースに間に合っていない修正情報などは独自に集めているという。
押野氏は東日本震災の被災地の地図のチェックにも従事しており、災害直後にそれまであった家を地図から消していく度に心が痛んだという。しかし最近はようやく町が復興していく様子も地図に現れてきていて、それがうれしいとか。確かに私も震災後に見たGoogleの衛星画像を見て絶句したことがある。また実際に現地も昨年に通過したが、空き地の多さには心が痛んだ。
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以上、地味であるが重要な仕事の紹介。ネタ切れ対策のための新趣向ですが、こういう内容もありでしょう。番組的には一番最初の「家が虫を吸い込む」というのが一番キャッチーですが、さすがにこれだけだと番組一本にならないので、その原因追及のために相談したシー・アイ・シーの小松氏を主役として扱うことにして、他の2人をそれに加えて「仕事人SP」という形に持っていったんだろうという番組成立の過程が見える(笑)。恐らく当初は「知らない間に家に入り込んでくる虫対策」という形の内容を意図していたんだろうという気がする。もしかしたら小バエの次には配管の隙間から入ってくるゴキブリなんかの紹介をしようとしたが、「夕食時にゴキブリの映像を流すわけには・・・」となって急遽構成を変更したのではなんて想像もする。
水道の漏水発見なんてまさに名人芸でそう簡単に継承できる技術ではないが、番組中で笑喜氏が「私の頃はもっと低かった」という表現をしていたことから推測すると、彼はもう既に現役を退いているんだろうか? 実は組織にとって一番困るのは、こういう現場の名人の引退である。事務屋や経営者なんかはいくらでも代わりが効くんだが、こういう現場の名人は代われるべき人がいない。こういう名人の引退が往々にして現場での事故の増加につながるんだが、上層部は目の前の利益に追われてこういう技術の継承に無頓着な場合が多い。
ゼンリンの住宅地図については実は大昔にプロジェクトXでも扱われていたが、まさに人海戦術なんだという。様々な場面でゼンリンの情報は使用されており、それを基にしたカーナビなどは建物の入口の情報まであるので案内の精度が上がるが、その代わりにゼンリンにライセンス料を支払う必要があることになる。ちなみに数年前、某カーナビメーカーが地図は自社製と偽って実はゼンリンのデータを無断使用していて問題になった事件があった(ゼンリンの地図にあった間違いまでコピーしていたことから発覚した)。地図のデータというのは実はかなり重要であり、それを中途半端な扱いをすると数年前のAppleのマップの「パチンコガンダム駅」みたいなことまで起こってしまうことになる。衛星で町が空から一望できる時代になっても、緻密に足によるチェックは必要らしい。
忙しい方のための今回の要点
・珍しいが重要な仕事をしている仕事人3人を紹介。
・最初の仕事人である建物への動物の害を防ぐ仕事をしている人物に関連して、密閉した住宅内に小バエなどが侵入する原因を紹介。換気扇で減圧になったせいでサッシの隙間などから虫を吸い込むのだという。対策は吸気口を使う、窓を網戸で開ける、部屋のドアを開け放ってなるべく大きな空間にするなど。
・二人目は地中の漏水を音で判断する名人。彼に関連して紹介されたのは天井裏から謎の音がする家庭。原因は全自動洗濯機の急な給水停止などが衝撃となって水道管を揺らし、水道管の固定部が緩んでいた。これを放置すると水道管が破損して漏水の危険があるという。
・最後の仕事人はゼンリンの調査員。建物の入口などまで記載した細かい地図のおかげでカーナビの案内精度などが上がるという。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・世の中、「地味ではあるが必要性のある仕事」というのは少なくありません。しかしそういう仕事に限って世間からあまり評価されていないのが事実だったりする。たまにはそういう仕事にライトを当てるという企画もありでしょう。もっともそればかりになったらガッテンでなくなるが(笑)。
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