教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

11/26 BSプレミアム ヒューマニエンス「"自由な意思" それは幻想なのか?」

自由意思によるコントロールなんて実は存在しない!?

 今回のテーマは脳。人は自分が自由意思で物事を決定していると考えているが、実は脳科学的にはそうではないという話。

 脳科学的に見てみると意思とは脳で勝手に生じているのだという。被験者に自由にキーを押してもらって、その間の脳波をチェックしたところ、キーを押す前に脳波が徐々に高まっているのだが、今まではこの脳波が高まる前に決断があると考えられていたのだが、テストの結果は脳で勝手に活動の高まりがあり、それがある値を超えた時にキーを押す決断をしたということが分かったのだという。

 つまりは脳には揺らぎがあり、その揺らぎが一定値を超えた時に決断をしているのだという。脳の中で何かの準備があり、意識というのはその後に生じてくるのだという。つまりは自覚していない何らかのリズムが人によってあるのではというのである。

 

脳の分業システムを操る?

 また人間の意識というのは実は膨大な無意識に操作されているという。驚くべき実験は人間コントローラー。被験者に線の上を歩いてもらうのだが、ここでコントローラーから指令を送ると弱電流が脳に送られて、被験者はコントローラーの通りに右に左にと動作させられる

 このようなことが起こるのは脳の分業システムのためだという。コントローラーが行ったのは脳の平衡感覚に対して影響を与えること。歩こうという意思は脳の別の部分が司っているために、体が勝手に平衡を保とうとして片側に寄ってしまうのだという。人間は大量の無意識を持っており、実際に意志で制御しているのは1割ぐらいだろうという。

 脳幹、小脳、大脳辺縁系といった古い脳は生命維持にかかわる無意識を司っている。これに対して大脳新皮質がさまざまな高度な作業を司るのだが、これも部位によって機能が異なるのだという。これらが連携して高度な動作をするのだが、それも繰り返していけば自動化するのだという。いわゆる無意識の内の動作というやつで、メリットとしては正確になることと反応が早くなることだという。また意識的行動は前頭葉が支配するが、前頭葉の容量は小さいのでその負荷を軽減することになるという。

 

自身の選択への理由の再構成

 また面白い実験を行っている。被験者に2枚の写真を見せてどっちが好みのタイプかを聞いていく。そして時々、どういう理由でそちらを選んだかを聞くのだが、その時に実は写真を入れ替えて選んでいない方に対して理由を聞いても、被験者は写真が入れ替わっていることに気付かず、もっともらしい理由を言うのだという。これが選択の後付けであり人は理由を後で再構成するのだという。写真を選ぶ時には側坐核が無意識に価値判断するのだが、後でそれを「自らの意思で選んだ」と人は考えたいがために、適当な理由を作り出すのだという。

無意識をコントロールする

 また医師が無意識をコントロールできないかの試みにも挑戦している。これは精神疾患やPTSDの治療に使えるかもしれない技術である。実際にはfMRIで脳の働きを調べ、恐怖心を感じている時とそれをコントロールできている時の脳の活動状態をAIで解析し、コントロールできている時の脳活動に意識的に近づける訓練をおこなうのだという。訓練を繰り返すうちにコントロールのコツを覚えるのだという。実際にPTSDの恐怖がコントロールしてある程度終えられるようになったとの結果が出ている

 

 科学的な話だけでなく、哲学的な要素も含んでいるので今回の内容はかなり難しかったという印象を受けた。ただ人間の意志が多くの無意識に左右されているというのは実際に私も感じているところで、虫の知らせとか、何となくいけすかないとかの感覚はまさにそれだろうと思う。私自身、霊感の類は全く信じていないにもかかわらず、「何となくやばい」という感覚を抱いた結果、難を避けたという経験もある。

 なお理詰めで考えての選択というのが、こういうものの対極になるらしい。ただ私の場合は直前までとことん理詰めで考えるのだが、最終的な決断の時点では直観に頼っているという滅茶苦茶な場合が多い。こういう場合は私の脳はどういう働きをしてるんだ?

 

忙しい方のための今回の要点

・人間は自分の意志で選択して行動していると考えているが、実は脳の働きの波のようなものに支配されて、そこから偶発的に意思が発生していると考えられる場合がある。
・人間の脳は分業体制を取っていて、多くは無意識下で働いているために、例えば脳の平衡神経を司る部分に微弱な電気刺激を与えると、本人は真っすぐ歩こうとしているにもかかわらず進路がズレてしまったりすることになる。
・また意識的に行っていた行動も、回数を重ねると自動化して無意識化する。こうして脳の負荷を減らしているのだという。
・現在、無意識をコントロールする研究が行われており、PTSDの恐怖を克服するのに使えるのではないかと期待されている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・意識が偶発的に生まれるとしたら、今この番組を見てうんうん唸っている私の意識ってどこから来てるんだろう。どんどんと話が哲学化してきて頭が痛くなってくる。こういう時には意識を停止してしまうしかない。

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