教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

12/15 テレ東系 ガイアの夜明け「独占取材!ワクチン・治療薬の最前線」

ワクチン開発の最前線

 イギリスではファイザーの新型コロナワクチンの接種が始まったという。各国が急ピッチでワクチン開発に乗り出しているが、その最前線を紹介。

 そもそもワクチンとは病原性を弱めたりなくしたりしたウイルスを体内に入れて、身体に抗体を作らせようというもの。この抗体があればウイルス感染した時に、免疫系が迅速に対応するので発症しなかったり軽症化するというわけである。

 番組ではスコットランドにあるフランスの製薬会社バルネバの研究所に取材に行っている。バルネバでは不活化の手法を用いてワクチン開発を行っており、既にイギリス政府と1億9000万回分の購入契約を結んでいるという。日本企業や政府との交渉なら大歓迎とのこと。

 日本でワクチン開発に臨んでいるのは塩野義。番組ではワクチン開発に密着取材を行っている。目下開発中のワクチンはタンパク質ワクチンだという。これはインフルエンザワクチンにも使用されている方法だとか。目下のところ臨床前の動物実験の段階であり、ここから三段階の臨床を経て認可を受ける必要がある。ちなみにファイザーは既に承認されており、先ほどのバルネバは第一段階の臨床中だという。

 塩野義の開発は国との連携したものであり、国立感染症研究所と協議しながら開発を進めている。やはり安全性が重要となるのでスピードを重視しながらも慎重さが必要である。今月中には臨床試験に入る予定だという。また同時進行で製造工場の建設にも投資している。来年には年間3000万人分製造する予定だという。

 

ワクチン外交を目論む中国

 一方の中国ではシノバック・バイオテックが海外のメディアを招待してワクチンのPRを行っていた。中国では政府が全面的に支援の元で開発を行っており、シノバックのワクチンは現在第三段階の臨床試験に入っている。既に大量生産をしており、医療関係者や外交官などに大量に接種を始めているという(つまりは人体実験である)。この辺りは中国ならでは。

 中国はワクチン外交を繰り広げており、ワクチンを提供することで友好国を増やして影響力を増そうという計算がある。シノバックを中心に5つのワクチンがあるという。中国にワクチンの供給を申し込んでいる国の中には領土問題で対立中のフィリピンも含まれている。

 

花王が研究しているハンドパワー

 一方、ワクチンとは違うアプローチでコロナ予防に挑んでいるのが衛生商品などを手がける花王。花王では現在、個人によって手指バリアの能力が違うことに注目しているという。手指バリアとは手の表面の温度、乳酸、pHなどが作り出されるもので、これが強い人は手に細菌が付着しても自力で撃退するのだという。これが特別に強い人になれば1分間で99%の菌を消滅させるとのことで、ここまで来るとホーリーハンドである。花王ではこれをさらに分析して、新しい感染予防製品を作ろうとしている。ワクチン以前の衛生のレベルでコロナに対抗しようとしているのである。

 

塩野義が開発中のコロナ治療薬

 番組が密着している塩野義製薬ではコロナの治療薬の開発も行っていた。そしてある化合物がコロナ治療薬となり得る可能性があるとの報で番組は取材に向かっている。塩野義では今まで開発した数十万種の化合物のライブラリーからコロナに効果のありそうな化合物の組み合わせを見つけ出し、ついに一つの有力な候補が見つかったのだという。

 見つかった化合物は早速北海道大学内にあるシオノギ創薬イノベーションセンターに送られて有効性の確認が行われる。この実験にはコロナウイルスを直接扱うことになるために、特殊で厳重な実験室の中で行われる(当然ながらカメラは入れない)。そしてテストの結果、コロナウイルスに効果があるという結果が出る。

 塩野義製薬では年内の臨床に入る予定を立てていた・・・のだが、その前にこの化合物の安全性に疑問符が付いてしまった。動物での実験の結果、尿の数値が基準値を超えるデータが出たのだという。この件について最高幹部の会議で検討された結果、このプロジェクトは中断の苦渋の決断がなされ、年内の臨床は断念との会見がなされた。塩野義では次のプロジェクトに挑戦中。このようなことは製薬業界では日常茶飯事だという。

 

 以上、コロナワクチン及び治療薬の開発最前線。現在は各国でコロナワクチンの開発が急がれているが、やはりまだ安全性に疑問符が付く(大規模に接種を始めると、どういう副作用が浮上するかは不明)のと、ワクチンは万能ではない(ワクチンが効かないという場合もあるし、私が懸念しているのはウイルスが変異してワクチンが無効化する可能性)ので、やはり治療薬の開発は必須だろう。私としては日本メーカーに頑張ってもらいたいところだが、正直なところ日本の製薬メーカーの体力は到底海外勢に及びもしないことを知っているだけに、正面からの戦いでは勝算があるとは思いにくいのも本音。まあどこが開発したとしても、そのワクチンが安全で有効ならそれで良いのだが、できる限り政治的思惑云々なんかがちらつかないところであって欲しい。

 なお日本政府はワクチンが開発されたらそれでコロナは目出度し目出度しで解決で、晴れてオリンピック開催へという利権まみれの甘い夢を抱いているようであるが、現実はそんな甘いものではない。実際はワクチンの接種が行われたとしても、それが現実に有効性が出るかどうかの確認は必要であるし、変異種の発生などに対する警戒も必須。そういうことを考えると、来年の春頃に接種で夏にオリンピックなんて無謀極まりない話であり、到底そんなことを認めるわけに行かない。

 

忙しい方のための今回の要点

・世界中で新型コロナワクチンの開発が進んでいるが、イギリスではファイザーのワクチンの接種が始まった。
・また中国では第三段階の臨床試験として既に医療関係者や外交官などへの大量の接種が始まっており、ワクチンを使って影響力を強化する国策も見えてくる。
・日本では塩野義がワクチン開発を行っており、これから三段階の臨床試験に臨むところである。
・花王では人の手が持つ抗菌能力を分析し、新しい衛生製品の開発を目指している。
・塩野義は治療薬の開発も行っており、ある化合物がコロナウイルスに対して有効性を持つことを確認したが、残念ながら安全性の懸念が出て頓挫した。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・とにかく開発が急がれることから、今回のワクチン開発はひとまず安全性の問題は完全にはチェックしていないのが実態ですから、大規模接種が始まったら何が起こるか分かりません。人間の体質は千差万別で、また人種、民族などで固有の性質があったりするので、ある人には全く無害でも、別の人には致死性の問題を起こす場合もあったりする。この辺りが一番怖いところです。

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