教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

2/25 BSプレミアム ヒューマニエンス「"血液"魔法の体液」

血液型の存在意味は?

 人間が生きていくためには不可欠で、かつては生命の源そのものとも考えられたことのあった血液。血液とはいかなる者であるかという話。

 血液と言えばまず最初に登場するのは血液型。で、そうなるとなぜか日本だけで流行した血液型占いなる迷信にはどうしても触れないわけにはいかない。番組の出演者は見事に「血液型占いは全く信じない」と言い切る良識のある方々ばかりだが(基本的に「血液型占い」という言い方をする時点で信じていないことの証明になる。あれを信じている者は「血液型性格判断」と呼ぶ場合が多い。)、巷には未だに信じている未開人もいるようだ。ちなみに血液型占いは別名「バカを判別するリトマス試験紙」とも言われており、あれを信じられる者に論理的思考を出来る者はいないという非常に高精度な判別装置にもなっている。

 なお上記の血液型占いに関する見解はあくまで私個人のものであり、番組自体は出演者が全員「血液型占いは信じない」と断言しただけであるので、NHKに文句を言わないように。

 なお別に個人的に血液型占いを遊びとして使用する分は自由だが、ほぼ日本だけの流行なので、外国人相手にそれを披露したら奇異の目で見られるのは確実である。

 

謎の多い血液型の存在

 それはともかくとして、人間に血液型があることを最初に発見したのはカール・ラントシュタイナーで、彼が発見したのがいわゆるABO型の血液型。これが分かったおかげで輸血が安全に出来るようになり、彼はノーベル賞を受賞した。そのABO型とは赤血球表面にある糖鎖のタイプであり、その先端にN-アセチルガラクトサミンが付いているのがA型、ここにガラクトースが付いているのがB型だという。そしてAB型はこの両方がついている。これに対してO型というのはそもそもそれが付いていない。だからO型のOとはドイツ語のOhne(何もない)という意味なのだという。つまりはO型は遺伝的にこの部分が壊れているという意味になるのだが、それにも関わらずO型であることは生存にとって特に問題は生じていない。ここが不可解な点であるという。しかしそもそも血液型が分かれているのも不可解だという。

 一般的に知られている血液型はABO型であるが、これ以外にも比較的有名なRh型を始めとして様々な血液型が存在し、国際輸血学会が定めた血液型タイプだけ26もあり、それらのタイプを組み合わせるとパターンは223垓(滅多に見ない単位だが兆の上の京のさらに上)あり、地球の総人口と言われている70~80億なんかをはるかに超えており、現実には全く同じ血液型の者は存在しないと言えるという(これこそが血液型占いなんかを信じる者はバカだと言いきれる根拠の一つ)。血液型の違いは人によって顔が違うのと同じと考えた方が良いのではとゲストのいとうせいこう氏が言っているが、これが本質かもしれない。もっとも顔の違いは個体識別のために必要だが、なぜ血液型を分ける必要があるのかは意味不明ではある。あえて分けたのではなく、結果として分かれたというのが実際だろうというのが私の見解。

 なお血液型によって統計的にかかりやすい病気というのは分かっており、何らかの免疫系に関係する可能性はあるとはいわれている。

 

進化の過程で核を捨てた赤血球

 血液は環境に適応して変化するということも知られている。代表的なのがいわゆる高地順化。これは酸素が薄い高地に行った時、血液は酸素運搬能力を増やして対応しようとする。酸素を運搬する赤血球は25兆あると言われているが、高地順化するとこの数が増えるのだという。

 赤血球は骨髄で生産されるが、赤血球として出て行く直前に核を捨てる脱核ということを行うという。このために赤血球は分裂増殖能力を失うのだが、その代わりに柔軟性が増し、酸素運搬能力も増すので身体の隅々まで酸素を効率よく運搬できるようになったのだという。このような特徴は脊椎動物の中で哺乳類に限定されたものであり、哺乳類の特徴である大きな脳を運用するために酸素運搬能力を優先した結果だろうとされている。なお赤血球は自ら増殖できないので、毎日1000億~2000億作られているという。

 人類は赤血球が脱核することで進化したと考えられるのだが、脱核しなかったがゆえに特殊な能力を有する生物も存在する。それがイモリ。イモリは足を切断してもそれを再生することが出来る。手足どころか脳や心臓の一部に眼まで完璧に再生でき、しかも回数制限はないという。これに血液が大きく関係しているという。イモリが身体の一部を失った時、5日ぐらいで傷口が塞がると、その欠損部分に赤血球が集まってきて、それらが特殊なタンパク質を出して再生のスイッチを入れるのだという。スイッチが入ると傷口に再生芽というものが出現し、細胞分裂が活発化して再生が始まる。そして筋肉に血管に神経などが再生するとタンパク質は集まらないようになるのだという。

 イモリのこの再生能力は突然変異で獲得した考えられるというが、実のところは自然界ではそれほど有効な機能ではないという。と言うのは例えば手足の再生には1年~1年半ぐらい要するので、自然界では手足を失って運動能力が低下したイモリが、その期間生き延びるというのは困難であると考えられるからとのこと。まあだからこそ人類の祖先は脱核の方を選んだのかもしれないが。もっとも人間の自己再生というのは一つの夢であるので、そういう観点からの研究は注目されている。

 

血液で若返る?

 さて美女の生き血を吸って永遠の命を得ていたのがドラキュラだが、ドラキュラさながらに血液で若返るという研究がなされているという。アメリカでは若者の血漿を高額で輸血するというクリニックが登場しており、富裕層が殺到しているという(いつの世も富裕層という連中の行動は往々にして欲むき出しで醜い)。これの元になった研究報告はカリフォルニア大学バークレー校で2005年になされた高齢と若いマウスの皮膚組織をつないで血液が行き来できるようにしたところ、高齢のマウスの筋肉細胞などが若返ったというものである。別の実験では心臓や骨、脳機能や神経なども若返ったという報告がなされているという。人間の場合は皮膚組織を接続というわけにいかないので若者の血漿を輸血と言うことらしいが、効果は半信半疑だし、何らかの有害物質が含まれる危険は否定できないという(そんなことする奴らは副作用で全滅すれば良いなどと言う不穏な考えを私は抱いてしまうが)。

 しかしながら血液の中に何らかの若返り物質が存在する可能性があると言うことで、それがなんであるかの研究は進んでいる。その結果、血漿に含まれるタンパク質の中のGDF11という物質が注目されている。これを人工合成し、これに若返りの効果が見られたとの報告があるが、効果がなかったという報告もあって評価はまだ確定していないとのこと。どちらにしてもそれが確定したらしたで、また富裕層が独占するんだろう。若返りの研究も必要だが、社会的格差の解消も必要だ。話がまたそれてしまうが。

 

常温保存可能な人工血液の開発

 最後は人工血液の研究について。現在はコロナの影響で献血が減少し、輸血用血液の在庫が底をつくという危機に瀕しているという。また輸血用血液は冷蔵保管が必要で、しかもその期間はかなり短い(赤血球で20日程度、血小板に至っては3~4日だとか)。

 これを解決する人工血液の開発を行っているのが防衛医科大学校の木下学准教授。彼が奈良県立医科大学と共同開発した人工赤血球は、常温で1年間、冷蔵下で2年間の保存が可能であるという。つまり災害時などに常温で輸送して血液型に無関係に患者に輸血できるというわけである。動物実験はクリアして、現在は臨床実験の段階に達しているという。これは細胞と同様のリン脂質の膜中にヘモグロビンを詰め込んだもので大きさは赤血球の1/30ぐらい。赤血球と同様の酸素運搬能力を有しているという。さらに人工血小板も加えた人工血液の開発も進めており、これも臨床実験の段階だという。

 

 人工血液については昔から一つの夢として語られていたが、いよいよ実用段階が見えてきたか。これが成功すると献血に頼らないで済むまで大きな前進である(もっとも献血自体は輸血以外の用途のために当分は必要とは思うが)。ところで輸血は教義に反するとして事故に遭った子供を見殺しにすることを推進している某狂信者の方々は、人工血液に対してはどういう見解を示すのだろうか? 確か教義で否定しているのは、輸血は人を食べるのに等しいというものだったと思うが、人工血液は人体は一切関与していない。まあ今度は「人工のものは一切身体に入れるべきでない」という過激なナチュラリストの類いが出て来そうな気はするが。

 若返りということに関しては、これまた不老不死は人類の永遠の夢と言われているだけに、実際に結果が見えてきたら見えてきたで、富裕層による囲い込みが起こりそうなのでそれが懸念されるところ。そういうことになったら、金持ちなだけの馬鹿ボンばかりがはびこって、庶民は短命の使い捨てにされ(それでなくても庶民に医療を受けさせたくないと考えている馬鹿ボンまでいる)、人類全体としてドンドンと種として劣化していくというとんでもないディストピアさえ見えてくる。技術の開発は常に倫理などの問題と裏返しになっているということである。

 

忙しい方のための今回の要点

・血液型にはABO以外の様々なタイプがあり、人類の数とそのパターン数を比較すると、全く同じ血液型は存在しないとも言える。だがなぜ血液型がそのように多様に存在するのかは不明である。
・血液は骨髄で生産されているが、赤血球は最後の段階で脱核する。このことによって赤血球は増殖能力を失うが、酸素運搬能力は向上する。このように赤血球が脱核するのは哺乳類のみであり、大量に酸素を使用する脳の運用のための進化と推測されている。
・一方、イモリなどは身体の一部を失った時にその部分に赤血球が集まり、その核が特殊なタンパク質を出すことで再生が促される能力がある。イモリはこの能力で手足だけでなく、脳や心臓の一部、に眼などまで回数無制限で再生できるという。もっともこの能力自体は自然界で役に立つ局面は実はほとんどないという。
・高齢のネズミと若いネズミを連結して血液が行き来できるようにしたところ、高齢のネズミの筋組織などが若返ったことから、血液中に何らかの若返り物質が含まれているとして研究が進んでいる。アメリカでは富裕層が高額を支払って、若者のの血漿を輸血するという事態まで発生しているという。
・血漿中のGFD11というタンパク質が注目されており、人工合成したものを投与したところ若返り効果が見られたという報告もあるが、効果がなかったという報告もあり結果は確定していない。
・常温で1年保存できる人工血液が開発されており、既に臨床試験の段階に突入している。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあ健康長寿の問題って、一番人間の欲が端的に現れる分野ですからね。富裕層というのは特にその欲が強い連中が多いので(欲の強さゆえに富裕層にのし上がった連中が多い)特に行動が見苦しくなるという側面があります。
・人類全体を一つの生物として見る見方からすると、これって全体の新陳代謝が低下して古い細胞がのさばるという状態なので、生物としては危ない状態とも言えるんですがね。個体が死んで世代が入れ替わることで種が進化しているのも事実なので。
・かといって、種の進化のためにお前は今すぐ死ねと言われてもごめんですが(これを言い出すのが全体主義というやつ)。この辺りが難しいところです。

次回のヒューマニエンス

tv.ksagi.work

前回のヒューマニエンス

tv.ksagi.work