教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

2/24 NHK ガッテン「もう"プリプリ"で終わらせない!圧巻エビ★新調理術」」

エビはプリプリではない?

 今回は日本人が大好きなエビ。番組冒頭では20種類のエビが登場するが、冷凍物がほとんどと思われる中でクルマエビだけは活けなので、これが元気で飛び跳ねている。だけど実はこれがまた後々の伏線だったりする・・・んだろうか。

 まずエビといえば連想するのはそのプリプリの食感。実際にエビを象徴する言葉のようになってしまっているが、番組はこのエビがプリプリというのは誤りと言い出す。

 わざわざご大層にエビの筋肉の三次元構造を調べた論文まで出して言うのは、エビはプリプリでなく、プリプリプリプリプリプリプリとプリが7つだという。例によってこれを小野アナが読み上げるのだが、見事に1回少ないという相変わらずである(笑)。

 

エビの食感は筋繊維で決まる

 ではこのプリ×7の意味だが、それを説明するためにまずはエビ養殖場に取材。養殖池はエビが好む環境にするためにあえて濁った水になっている。だから毎日潜水して状態を確認するのだとか。エビは大抵土中に潜っているという。で、これをどうやって収穫するかだが、駕籠を引きずりながら電気を流すらしい。するとエビが飛び跳ねて駕籠に飛びこむという仕掛け。で、このエビをサイズで仕分けた上に状態も見分けるという。元気なエビは左右からつまむとビシッと身体を伸ばして硬直するらしい。

 このエビの運動神経であるが、エビはいざとなったジャンプして逃げ出す。そこでこの番組ではそのジャンプの様子をハイスピードカメラで撮影。ただしエビがなかなか跳ねずに跳ねさせる方法を見つけるまでに専門家が10時間かかったらしい(最終的にはハンマーで台に振動を与えた)。そのジャンプの様子であるが、まず両側に開いた目を内側にしまうと(ジャンプの時に目がちぎれてしまわないように保護するのだという)、全身を一気に丸めて飛び上がる。身体の数倍の高さまで飛び跳ねる大ジャンプである。これでエビは一瞬にして敵の視野から消え去るのである。

 このような激しい運動が出来る理由だが、それはエビの筋肉に構造にあると言う。詳細な筋肉構造をCTで調べたところ、荒縄のようにねじれた筋肉構造をしていることが分かったという(冒頭の論文はこの研究結果のもの)。筋肉が腹側に束ねられたようになっているで、腹側に一気に丸まることが出来るのだという。そしてこの筋肉構造を食べる時には、筋肉繊維を歯で断ちきる度に衝撃があるので、これがプリ×7になるのだという。

 

エビはプリプリだけでない

 しかしこの触感にだけ囚われているととんでもないことになるという。番組ではエビフライならぬエセフライを作って10人の人に食べてもらったのだが、9人の人はエビフライであることを疑わなかったという。実はこのエセフライの材料はこんにゃく。プリプリの食感にばかり気を奪われているから、こんにゃくに騙されるのだという(1人なんか生の新鮮なエビだとまで言っていた)。

 エビはプリプリだけだと思われていることに嘆くのは、豊洲市場のエビ専門店の皆さん。エピはプリプリというのが売りではなく、エビの一番の売りは「旨味」だと言う。実際にエビのグルタミン酸を比較してみるとマグロや鰹が5で、鯛で10なのに対し、何とエビは120ということで桁違いのグルタミン酸を含有しているという。ちなみにここでゲストが「マグロとか全然じゃん」というようなことを言っているが、マグロとか鰹はグルタミン酸でなくて、イノシン酸の方なんで。番組もアリバイ的に「魚のうまみ成分はほかにもあります」と書いてあるが、そうでないと今度はマグロ漁船から文句が出そうだ。もっともこう書いていても「マグロや鰹は全然うまみがない」と勘違いしちまう輩も出そうなんだが・・・。

 ただ実際にエビがこれだけのグルタミン酸を含んでいるということを感じられない場合が多い。例えば茹でたエビなんかは実に味が薄いという印象があるだろう。これは加熱の際に身が縮んでグルタミン酸が外に出てしまうのだという。

 

エビの旨味を活かす料理法

 と言うわけでそうならない料理法の紹介となる。それを紹介してくれるのは甲殻類専門の料理人という加藤邦彦氏。先ほどの市場の連中が「加藤はスゴイ」とまで言い切る人物らしい。

 で、彼に普通にスーパーで売られているエビを焼いてもらうのだが、やはり火を通しすぎないのがポイントだという。そのために彼が取る手は「エビを開く」。エビを開くことで火を通りやすくして加熱時間を短くするのだという。具体的にはエビを殻のまま背中から開き、3%の塩水で背わたや血液などを洗ってから、そのままかなりの強火で焼く。開くのは包丁よりもはさみの方がやりやすいかもとのこと。軽く塩を振ると強火で加熱したフライパンに並べる。すぐに殻の色が赤くなって匂いもしてくるので、そうなると水大さじ1を加えて蓋をして蒸し焼き。そして焼くのはそのまま10秒。蓋を開けて身が透き通ってなかったらできあがりとのこと。これだけでスーパーのエビが絶品になるという。

 素早く火を通すためにエビを開くというのがポイントだという。また3%の塩水を使用すると味が抜けないし、血液を洗い流す(エビの血は透明)ことで生臭さをなくすのだという。

 だからエビフライもエビを開いてさっと揚げる。また殻を外して洗えばそのまま刺身。さらには頭は冷凍で置いておいて、炒めてから酒と野菜ジュースを加えて一煮立ちさせたら濃厚なエビのスープ。さらには頭と殻に油を入れて煮ればエビ油のできあがりとのこと。

こういうので試してみたくなるな 

 と言うわけで今回の胆はエビはただのプリプリではないということ。食感の方はともかくとして、うまみの方は確かにあまり意識していなかった。ただエビを加えるとかなり良い出汁が取れるということは経験的に知っていたが、そうなるということは、当のエビは抜け殻のスカスカになっていたということか。そう言えば焼きエビが出てくる時、旅館によっては殻付きで開いて焼いているところもあり、確かにそのエビはかなり美味かった。エビが良いのかと思っていたが、焼き方が上手かったのか。今初めて分かった。

 

忙しい方のための今回の要点

・エビのプリプリの食感は、その筋肉の構造に由来している。エビは危機に際して飛び跳ねて逃げるので、そのために筋肉の繊維が束ねられており、このために一気に身体を丸めて飛び上がることが出来るのである。
・エビを噛む時にはこの筋肉繊維をかみ切る度に抵抗があるので、都合7回抵抗を感じることになるという。これがいわゆるエビの歯ごたえであるという。
・エビは含有するグルタミン酸の量が圧倒的に多いが、加熱しすぎると身が縮む時に体外に出てしまう。
・旨味を失わないためには加熱しすぎないこと。そのために火が通りやすいように身を開いて強火でさっと加熱するのがポイント。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・あの殻付き焼きエビを見てたら、確かに私もやってみたくなってきたな・・・。と言うことで今日はスーパーの店頭からエビが消えるんでしょうか?
・ただしエビの種類のよってもいろいろあります。ブラックタイガーはなかなか美味いですが、やっぱりバナメイはどうしても味が薄いです。クルマエビは濃厚ですが、硬くなりやすいです。で、伊勢エビは当然最強ですが、高すぎて手が出ません(私の人生でも今まで食べた回数は片手で数えられる程度)。

次回のガッテン

tv.ksagi.work

前回のガッテン

tv.ksagi.work