教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

4/21 NHK 歴史探偵「葛飾北斎 天才絵師の秘密」

葛飾北斎の謎に迫る

 今回のテーマは葛飾北斎だが、なぜかいつもの事務所セットでなく、「知恵蔵」のセットを使用。今まで佐藤二朗がリモート出演だったからその関係か。今回は渡邊佐和子の方が本来のセットからリモート出演している。それにしても相変わらずこの番組は迷走してるな・・・。

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葛飾北斎

 

北斎の赤富士、黒富士はどこから描かれたか

 まずは北斎と言えば富嶽三十六景であるが、いずれの作品も作品タイトルからどこで描いたかが推測でき、実際の風景と照らし合わせるとかなり正確に描いているのが分かるという。しかし2点だけそのような記述がない作品がある。有名な赤富士こと「凱風快晴」と黒富士こと「山下白雨」である。

 番組では実際に描かれた場所を調べようとしている。赤富士とは富士山が朝日を浴びて赤く染まる光景であり、山梨側が赤富士の名所として知られているという。しかし実際には実は北斎の凱風快晴は初摺では現在一般に思われているものよりも赤色は薄く、また山上の雪の形から実は静岡側から描かれたと考えられるとのこと。実は富士川から見た富士の形がそのままだという。そこで富士市役所に定点カメラを設置して1ヶ月間富士を追ったところ、凱風快晴は富士のある一瞬を描いたというものではなく、時間と共に起こる光の変化を一枚の絵に凝縮していることが分かったという。

 さらに山下白雨であるが。これは稲妻の姿が下に描かれているように、明らかに地上からの視点ではない。また富士の向こうに見える山並がそのままに見えるためにはヘリコプターで上空に飛ぶしかない。つまりは北斎が実際にその風景を見られたはずがないので、富士の周辺を丹念に回った北斎が、頭の中でその風景を組み立てて描いたものであろうと考えられるという。つまりはいずれの作品もそのまま風景描写でなく、北斎の作為が加わったものであるとする。

 

神奈川沖浪裏は三角波をアニメーションで描いた

 さらに北斎の富士の絵でもう一枚の有名な作品が「神奈川沖浪裏」である。波が実に印象的な作品であるが、あんな波が現実に存在するのかが問題である。番組では実際に神奈川沖に漁船にのって繰り出しているが、当日は曇りで富士が見えないというお粗末。ただこの時に「この形の波は三角波では」という話を漁師から得ている。

 三角波とは二つの波が重なることで生じる巨大な波である。以前のこの波を扱った番組を見たことがあるが、場合によって船の船首をもぎ取るぐらいの破壊力のある恐ろしい波だと聞いている。番組は東大の波について研究している研究者を訪れ、その研究施設で実際に三角波を再現するということを試みている。

 様々な波を組み合わせて60回以上の試行の後、8時間かけてようやく絵のイメージに合う三角波を再現している。さらにそこに船の模型を浮かべて絵の再現を行っているが、その結果として絵に描かれている三艘の船は、実は同じ船の時間経過を追ってのアニメーションのような表現ではないかという結論を得ている。

 

北斎のゴーストライター

 最後は90まで絵を描いたという晩年の北斎の話だが、この頃の作品にはゴーストライターがいるのではとの話。そもそも北斎が90歳になってからの時間は100日と1週間ぐらいしかないのだが、この間に多くの作品を完成させており、これらは娘が描いたものではという話。

 北斎の娘のお栄は自らも応為と名乗る絵描きであり、どうやら北斎のアシスタントをしていたということは知られていることである。実際に応為の作品が小布施に残っているが、その精緻に描かれた花の絵は、北斎の作品とされているものと共通しており、実際はお栄と共同製作である作品が結構存在するのではというのは最近唱えられている有力な説。

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すみだ美術館で再現されている晩年の北斎と応為の姿

 北斎は死ぬまで絵を描き続けており、最後の瞬間も「後10年、いや5年でも寿命があれば本当の絵描きになれたのに」と語ったとされており、生涯を絵に捧げた人物である。応為は自らが絵描きとして名を上げるというよりも、そんな父をサポートすることに生涯を捧げたのではとの話(実際にこの時代に女性が単独で絵描きとして認められることは極めて困難だったという状況もある気もするが)。


 と言うわけで北斎について。正直なところいずれも「どこかで聞いたことのあるネタ」が多くてあまり新味はありませんでした。まあもっともこうやってまとめると番組としてはそれなりに見所がある内容にはなっていたとは思います。ただそうなればなるほど、佐藤二朗の居酒屋パートが余計。

 

忙しい方のための今回の要点

・北斎の富嶽三十六景の中で有名な凱風快晴(赤富士)と山下白雨(黒富士)だけが描いた場所をが示されていないが、凱風快晴は富士川から見た富士の風景の時間変化を一枚に収め、山下白雨は上空から見た富士を想定して描いたと考えられるという。
・神奈川沖浪裏に描かれた印象的な波は三角波ではないかとする。さらに描かれている三隻の船は時間変化を追ってアニメーションのような手法と推測できるという。
・晩年の北斎の作品は娘のお栄との合作である可能性が高い。


忙しくない方のためのどうでもよい点

何か要点をまとめてしまうとえらく簡潔に納まってしまった(笑)。結局のところリニューアルしてからのこの番組は、余計な要素が増えて番組の情報密度はかなり下がったことは否定できないんだよな・・・。

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