教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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4/27 BSプレミアム プロジェクトX 挑戦者たち(リストア版)「えりも岬に春を呼べ~砂漠を森に・北の家族の半世紀~」

豊かな海を取り戻すための漁師達の半世紀の戦い

 今回のテーマは襟裳岬。東京タワーに青函トンネルなどと言った国家的プロジェクトに比べると極めてマイナーなローカルプロジェクトなのですが、なぜこれがリストアで選ばれたのかは実際に本編を見れば分かります。

 というわけで今回もとりあえず私のアーカイブから。

 

プロジェクトX「えりも岬に春を呼べ~砂漠を森に・北の家族の半世紀~」(2001.3.6)

 かつては豊穣の海といわれていた襟裳岬。しかし入植に伴う伐採が襟裳の森を砂漠に変えてから、襟裳の海は一変した。砂漠から流れ込んだ砂や赤土が海を濁らせ、かつての特産品だった昆布もほとんど取れなくなってしまった。

 そんな襟裳岬で海を甦らせるために植林を行った人達がいた。今回のそんな彼らのエピソードである。

 襟裳の漁師、飯田常雄は故郷を甦らせたいという想いを持っていた。そんな彼と想いを共にする地元の漁師達の願いで、襟裳の緑化は林野庁のプロジェクトとなる。しかし工事に臨んだ常雄達を、10メートルを超えるという襟裳の強風が打ちのめす。彼らのまいた牧草の種は、根付くことなく吹き飛ばされた。悩んだ常雄は、浜辺に打ち上げられたゴダと呼ばれる雑海草を種の上に敷くことを思いつく。一週間後、地面に張り付いたゴダの間から、緑の牧草が顔を覗かせる。緑化の感触を得た常雄は毎日、砂漠にゴダを運ぶ。

 しかし作業はなかなか進まなかった。一ヶ月にわずか5ヘクタール。牧草で砂漠を覆うだけでも20年かかる計算になった。付近の漁師の家族が総出で砂漠に挑むが、それは熾烈な戦いであった。

 小樽から嫁入りして来た常雄の妻、雅子は砂との戦いに疲れ、ついには小樽に戻ることさえ考える。しかし彼女は、家族のために毎日砂と格闘している常雄の姿を思いだし、そのまま襟裳にとどまる(ここのエピソードが実に泣ける)。

 昭和45年、すべての土地が牧草に覆われ、いよいよ植林が始まる。乾燥に強いクロマツが選ばれ植えられる。しかしそれは一週間で枯れてしまう。1メートルほど下にあった水分を含んだ奇妙な地層のせいであった。溝を掘って排水するしかなかった。これで森作りは5年は遅れることになった。

 

 長期化する砂漠との戦いの中、常雄や仲間達も高齢化してくる。しかし後継者はいなかった。常雄の息子の英雄も、漁師の跡を継ぐのを嫌って、大学進学を目指して都会の高校に行ってしまう。そんなある日、常雄がとうとう過労で倒れる。英雄は母親に無理矢理に襟裳に呼び戻され、進学を断念して漁師になる。最初は嫌々漁師を継いだ彼だが、真剣に森作りに取り組む父の姿を見て、自らも森作りに協力する(このエピソードがまた泣かせる)。土木現場で働いた経験から工作機械を使える英雄のおかげで、工事は一気に進む。

 昭和59年、常雄が待っていた天佑がついに現れる。それは「伝説の流氷」とも言われる巨大流氷だった。この流氷が、襟裳の海底に溜まった砂を根こそぎ押し流す。翌年、立派な昆布がとれた。そして森では腐葉土が育まれる。

 半世紀に渡っての漁師達の戦いが胸を熱くさせる。またその中で描かれる父と子の関係などには泣かされてしまう。この番組によく出てくる「背中で息子に語りかける」タイプの親父に飯田常雄もあてはまるようである(英雄の息子、直宏もまた漁師を継ぐことにしたというのがまた泣かせる。彼の言っていた「この仕事をしたくないと思っていたが、お父さんを見ていると格好いいなと思って」という言葉は、いかにも今時の若者のように思えるが、これこそがまさに「背中で息子に語りかけている」ということである。)。

 また常雄達が森進一のヒット曲「襟裳岬」の「襟裳の春は何もない春です」という歌詞に怒りを感じたというエピソードが、実に考えさせられる。彼等にとっては、この歌詞は自分達の努力を無視するもののように思われたのだろう。これは当人達にしか分からない感情である。こういった感じ方があるのは、我々はついつい見落としがちである。

 なお今回の内容で痛感させられるのは、豊かな海には豊かな森が必要だということである。これは極めて当然のことであるのだが、どうも最近は森がおろそかにされているのが気になるところである。

 

 以上、当時のアーカイブなのですが「泣かせる」という言葉がやたらに出て来ますが、実際に今回改めて見てもやはり泣けました。故郷の再生にかける常雄の熱い想い、そしてそんな貧しい襟裳を嫌って都会に出たのを無理矢理呼び戻されて不満で悶悶としていた息子の秀雄が、荒れ地で黙々とツルハシを奮う父の姿に触発され、自ら陣頭に立って植林に協力するようになるという展開。正直なところこういう展開がもろに涙腺直撃でした。いわゆる「背中で息子に語りかける父の姿」というお約束パターン。今時こんなのは古そうですが、やはり昭和生まれである私の胸を打ちます。そして結局、その英雄も背中で息子に何かを物語っていたのか、息子も漁師を継ぐ決意をしたというのが泣ける。ちなみにこの今時の若者も現在は既に30代の中年になっているはず。今も元気に漁師をしているであろうか。他の兄弟達はどうしたのだろうなんてことも気に掛かる。

 地味な市井の人々が必死でコツコツ巨大な事を成し遂げるというパターンで、これはプロジェクトXでも最も熱いパターン。元航空技術者達の奪われた空に並ぶ黄金パターンではある。リストア版の中でも今回は最も「泣かせる」話になっていた。私のアーカイブも今までよりも大分長くなってきているのはその熱さに当てられたせい。しかし実際に世の中はこういう熱い想いを持った人に支えられてきたってのが現実で、どうせ何も変わりはしないと冷笑的にいるのが現実主義的な賢い人間と考えている者ばかりになると国や世界が滅ぶ。

 

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